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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジの生活
25/62

「八巻に聞く」


 満足したのか踊るのを止めてエンジに飛び付いて肩までよじ登ったミカちゃんは大人しくなり、エンジは嬉しさで浮わついていた気持ちを切り替える。


「八巻に聞く」

「そうですね。彼の頭もそろそろ冷えたでしょうし」

「あたしは冷えてないけど?」

「冷やしなさいな。私だって我慢してるのだから」

「誰が騙したか気になる」


 エンジがそう言うと四人と縫いぐるみは、自制の効いている杏里沙を先頭にして八巻の元へ行く。ボロボロのまま放置された八巻が横たわっているのを見たエンジが少しだけ気の毒そうな顔をした。


「八巻」

「……じえ……んじさ……ん……ご……めんな……」

「杏里沙、お願い」


 エンジが話しかけるがボロボロの八巻は途切れとぎれにしか喋ることが出来なかった。このままでは話が進まないなと一同が思っていると、エンジが杏里沙に八巻の治癒をお願いしてきた。


「大丈夫なんですか?」

「さっきあたしが()()()から、治っても動けないよ」


 お願いされた杏里沙は有夏に八巻の状態について尋ねると、有夏は先程八巻をはたいた時に動きを縛っていたと告げ安全を保証する。

 それでも杏里沙は若干嫌そうにしながら、仕方なく八巻に最低限の治癒の力をかけた。


「八巻君どうですか? 最低限の治癒はさせましたから話くらいはできるはずです」

「ありがとう、陸井さん」

「お礼はいいですから質問に正直に答えてください」

「……わかった」


 治癒の状態を確認し、問題ないと判断した杏里沙がエンジに頷く。


「八巻、私のこと誰に聞いた?」

「昨日の学校帰りに祓い屋だか陰陽会だかの長老衆だとか言ってた、百舌っていう婆さんに聞いたよ」

「百舌ね……。八巻、貴方操られたわね」

「みたいだ。今は、どうしてあの胡散臭い婆さんの話を信じてたのか、全くわからない」

「あの人は人を操るとか、そういう類いの技術に長けてるんですよ」

「しかも、術や力ではなく純粋な技術でやっているから、手口に馴れないとわかりづらくて質が悪いわ」


 八巻から出た百舌の名にエンジはびくりと震え、他三人は一様に苦い顔をしていかに厄介な輩なのかを語る。


「八巻、他に百舌からされたことは無いかしら?」

「わかる範囲でいいですよ」

「……奴から依頼を受けざるおえないように脅されて、お前だけじゃ心配だからとか言われて願いが叶うとかいう石を渡された」

「願いが叶う石ってなにさ?」

「そのままだよ。緑色の宝石みたいな石で砕くとちょっとした願いが叶うそうだ」

「それはどうしたんですか?」

「三人が慈円寺さんから離れることを願って使ったよ」

「……あの放送はそれでかかったのね」

「まさかあたしの勧誘もそれ?」

「かもしれないわ」

「わたしたちにまで効果があるなんて、相当な代物ですね」


 愛梨亜の問いに八巻は百舌から受け取った石を思い浮かべ、受け取った経緯を誤魔化すこと無く答える。それを受け愛梨亜はエンジを一人にする原因となった放送について納得した。結局、あの放送は嘘であり、職員室に行っても教師に怪訝な顔をされただけだったからだ。

 有夏の勧誘も部室に着くなり熱意が下がり、最終的には何故こんなに熱心に勧誘しているのだろうと顧問が疑問に思うという明らかな異常事態だった。


「でもまあ、あたしは操られてようが何だろうがエンジに危害を加えたこと許さないよ」

「有夏……」

「そんな目で見てもダメ。これ以上なにもしないけど、あたし達が許すかどうかは別だよ」

「でも、八巻も被害者」

「それでもですよ、エンジ。貴女は彼に怪我を負わされたんです」

「いくらお願いされても、ここは譲れないわね」

「杏里沙、愛梨亜も……」


 有夏の言葉に悲しそうな目で訴えかけるエンジだが有夏は強い意思でエンジを嗜めた。

 先程の戦闘中に聞こえた八巻の事情や百舌に騙されたことに同情したエンジがなおも食い下がるが、有夏は首を横に振り、杏里沙と愛梨亜もそれに同意を示す。

 自身の状態や三人の怒りも尤もな事は理解していたため、それ以上はエンジも食い下がることはなく、少しだけ肩を落とした。そして肩に乗っていたミカちゃんに頬を撫でられ慰められる。


「ごめん、慈円寺さん。どんな言い訳しても俺がやったことは変わらないし、もっと慈円寺さんの話を聞くべきだったんだ。だから本当にごめん」

「……八巻」

「もう分かってる思いますけど、わたしたちに関しての百舌の話は出鱈目です。わたしたちは自分の意思でエンジと共にいますから」

「ショッピングモールの件は他所から来た魔術結社が起こした事よ。対処は私たちがして、エンジは後始末をしたの」

「そうしなきゃ、今ごろあそこは瘴気に侵されて周りをどんどん飲み込んで広がってく地獄になってたよ」

「……やっぱりそうだったのか」


 真実を知り、やはり騙されていたと理解した八巻は後悔しながら目を閉じる。脳裏には百舌のあのニヤニヤとした憎たらしい顔が浮かんでいた。

 

「エンジが望まない以上なにもする気はありませんが、八巻君の力は封じさせてもらいます」

「さすがに野放しにはできないからね。これが最大限の譲歩だよ」

「それで良いわね、エンジ?」

「それならいい」


 エンジの同意が取れた三人は八巻の魔力や能力といった異能を封じた。それと同時に真っ白な空間が崩れ、周りの風景がもといた教室のものとなった。

 教室にはエンジが逃げるときに動かした机が散乱している以外には変わりはなく、時計を見ると八巻に襲われてから十分も経っていなかった。


「机がバラバラ」

「これ直さないといけないのかぁ」

「八巻にやらせればいいわ。エンジを襲った罰よ」

「そうですよ。もう動けるでしょう、八巻君?」


 八巻を見ればゆっくりと体を起こしている所だった。確かめるように自分の体を動かすが痛むようで顔をときおりしかめている。簡単な魔法を使おうとしても、何も起こらないことを確認するとがっくりと項垂れた。


「本当に使えなくなってる」

「根本から封じましたからね」

「私達以外が何しても解けないわ」

「これからは全部忘れて一般人として生きてくんだね」

「そうするよ」

「じゃあ、わたしたちは帰りますから後片付けしておいて下さい」



 そう言うと四人は教室を出ていく。エンジは愛梨亜に拾われていた眼帯を着け、肩にミカちゃんをくっつけたままの姿だった。

 その後ろ姿を見送って八巻は一人、教室を片付けていくのだった。



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