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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジの生活
24/62

「ミカちゃん……」


 有夏に続いて割れた空間から愛梨亜と杏里沙が入ってきた。二人は周囲を見回し状況を把握すると八巻を有夏に任せ、エンジの元に駆け寄る。


「大丈夫ですか、エンジ!?」

「どこか怪我していないかしら!?」

「杏里沙、愛梨亜、ミカちゃんが……」


 二人がエンジの元に着くと虹色の障壁は音もなく解除され、暴れる赤いクマの縫いぐるみを必死に抱き留めているエンジが目に入った。


「……! 取り合えずわたしが抑えます!」

「お願い……」

 

 杏里沙が手足を振り回して暴れる縫いぐるみをエンジから受け取りしっかりと捕まえる。縫いぐるみは八巻と有夏の方をしきりに威嚇し、落ち着く様子がない。


「ミカちゃん……」

「大丈夫よ! ミカちゃんは杏里沙が捕まえておくわ! それよりエンジ、どこか痛いところはない?」


 杏里沙の腕の中で暴れる縫いぐるみを悲しそうに見つめるエンジ。愛梨亜は酷く焦りを滲ませながらエンジの怪我の有無を確かめる。

 平手を喰らった頬は赤くなり、首には赤黒いアザが、脇腹を庇う様子からそこも痛めているらしいと判断し、愛梨亜は泣きそうな顔で両手からエンジに治癒の力をかける。

 みるみる内に腫れは引いていき、怪我が治っていった。

 隅々まで確認し健康体に戻ったと確認した愛梨亜がエンジを抱きしめる。


「エンジ、アレにやられたのね?」

「そう……だけど、騙されてる」

「だっ、まされてるって、八巻君がっ、ですか? このっ、大人しくして下さい」

「そう」


 愛梨亜がエンジを放し立ち上がると、激しい音を響かせながら闘っている八巻と有夏の方を憤怒の表情で睨む。体の痛みがとれて少し余裕が出たエンジが愛梨亜を見上げて、攻撃されながらも考えていた事を伝える。

 腕の中で暴れ、抜け出そうとしているクマを抑えるのに四苦八苦している杏里沙がそれを聞いて疑問に思った。


「それは何故かしら?」

「それは――」


 エンジが答えようとすると轟音と共に八巻の絶叫が響いた。


「海野さん、何で邪魔するんだ! アイツは君を騙してるんだぞ!」

「お前、何言ってんのさ?」

「聞いたんだ、アイツが君たちを洗脳して操ってるって!」

「……それで? それがなんなの?」


 目にも止まらぬ攻防を繰り広げていた二人は、互いに構えを解かずに向き合って言い合う。八巻の主張に有夏は心底興味がないといった態度だが、動機を知るには都合が良いので続きを聞くことにした。


「アイツは黒柿のショッピングモールで人の魂をあの人形に封じ込めて汚染した! 俺はそれを回収して解除方法を聞かないといけないんだよ!」

「何でお前がする必要があるんだよ」


 興奮した八巻は百舌(もず)に教えられた事実を言うが、有夏は冷ややかに返す。


「アレは向こうの世界にあった精霊爆弾とそっくりだ。俺はそれが爆発した跡を見たよ。……何もなかった。そこにあったはずの町は、俺が世話になった人たちの痕跡は何一つ残って無かったんだ!」


 失った知り合いや恩人達の顔が脳裏を過り、俯きながら異世界での辛い過去を思いだし深い悲しみを滲ませながら思いを叫んだ。


「俺はもうあんな思いはしたくない! だから――」

「へぇ? そんな理由でエンジに手を上げたのかぁ。そうかぁ」

「有夏! ダメ!」


 八巻の言葉を遮って有夏が喋りだす。見れば有夏は感情を無くしてしまったかのような無表情だ。

 その後ろ姿に何かを察したエンジが有夏を止めようと叫んだ。 

 







「お前もう死ねよ」







 突然有夏の殺気が膨れ上がり一歩で距離を詰める。八巻は対応しようとするが、先程よりも圧倒的に早い有夏の動きについていくことが出来ずに殴られる。

 まるで大岩でも叩きつけられたかような衝撃が殴られた胴に走り、たまらず体を折り、たたらを踏む。



「誰に吹き込まれたか知らないけど」

「がっ!」


 殴る。


「エンジがそんな事するわけないだろ」

「げほっ」


 殴る。殴る。


「あんだけ観察してたんだから、わかんだろうが」

「ぐっ」


 殴る。殴る。殴る。


「お前の事情なんか知るかよ」

「がはっ!」


 殴る。殴る。殴る。殴る。


 一撃目で体勢を崩した後、馬乗りになった有夏が言葉を発する度に拳を振るう。八巻は危機を感じ防御をしようとするが、それすらもお構い無しに殴り続ける。段々と威力と回数が上がってき、まさにタコ殴りといった状態だった。そのあまりの威力に魔法で強化しているはずの八巻は大した抵抗も出来ず、ただ殴られ続ける。


「勝手なことばっか抜かしやがって。あたしらがどんだけエンジを大切に思ってるか分かんないくせにさぁ!」


 殴られ過ぎてピクリとも動けない八巻に有夏は渾身のパンチを見舞ってやろうと腕を振りかぶる。目線だけでそれを追う八巻は、その拳に秘められたどうしようもなく隔絶した力を感じ、諦めと共にどうしてこうなってしまったのかを考えていた。



 有夏の怒りを込めた拳が振り下ろされたその時、その腕を杏里沙が掴んだ。



「何、杏里沙? 止めないでよ」

「気持ちは分かりますけど、それ以上は駄目です、有夏」

「何でさ」

「エンジが望んで無いんです」

「エンジが?」

「そうじゃなきゃ止めませんよ」


 自身を止めた腕の持ち主をゆっくりと確かめ、殺気立っている有夏が杏里沙に問いかける。杏里沙は顔を横に振って有夏を止めた。杏里沙自身も非常に納得しがたいといった様子だがエンジの頼みならば仕方がなかった。

 有夏がエンジのいる方を見ると、非常に複雑そうにエンジを抱きしめている愛梨亜と少し大人しくなったクマの縫いぐるみを抱き、悲しそうな顔で有夏を見ているエンジが目に入った。


 はぁ、と一つため息をついて殺気を霧散させた有夏が()()()()()()()()()から立ち上がる。


「命拾いしたね。エンジに感謝しなよ」

「……おれは……」

「八巻君、もう黙って大人しくしてて下さい。私、次は止めませんから」

「…………はい」



 そのまま二人は八巻を放置してエンジの元へ向かう。

 エンジは有夏が止まったのを確認した後、自分とクマの縫いぐるみの額を合わせて目を瞑って集中しており、そんなエンジを愛梨亜が抱え込んでいた。


「愛梨亜、エンジは大丈夫?」

「怪我は全部治癒したわ。ただ、随分力を使ってしまったみたいね」

「浄化に割いていた力が枯渇してしまって、ここ数年の浄化が水の泡ですね」

「……今からでも殺そうかアイツ」

「駄目です、有夏。エンジが望みませんし、彼には聞くべき事がまだあります」

「分かってる、冗談だよ。それで今何してるの?」

「ミカちゃんと対話してるわ。皆、怒り狂っているから宥める為にね。私はそのサポートよ」


 三人が話している間も微動だにせず集中しているエンジ。愛梨亜はエンジをしっかりと抱えつつ全身から力を送っているため、二人は少し発光していた。


 少ししてエンジが目を開き全身の力を抜いてぐったりと愛梨亜に寄りかかる。


「終わったんですか?」

「みんな落ち着いた」

「良かったわ。様子はどうだったのかしら?」

「わたしの事、心配してた」

「それはそうでしょ。あたしらも心配したし」

「もう問題はないのかしら?」

「無くはない」

「えっ、何があるんですか?」

「動いて喋れるようになった」

「はい?」


 エンジの発言に三人が気を取られていると、クマの縫いぐるみがモゾモゾと動きだし三人の顔を見回す。元のように動かなくなるものとばかり思っていた三人が呆気に取られていると、そのまま片手を挙げて口を開いた。


「ヒサシブリ、アリアチャン、アリカチャン、アリサチャン!」

「え、ええ、久しぶりね。ミカちゃん」

「お、お久し振りですね。ミカちゃん」

「え? 普通にこのままなの?」

「そう」

「ワタシダケ、オキタノダ!」


 元気一杯にそう言って縫いぐるみの手で器用にピースサインを決め、くるくると陽気に踊り出す。


「そういえばこんな娘だったね、ミカちゃんは」

「懐かしいわね」

「エンジのこの世界で初めてのお友だちですしね。特別です」


 ミカちゃんに手を取られ一緒になって踊っているエンジを見て困惑していた三人は、懐かしさを感じると共に色々と諦め、現状を受け入れることにした。



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