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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジの生活
18/62

「愛梨亜、メニューは?」


 看板を片付け、表札を閉店に変えた四日堂の店内では、エンジ達四人にお客の二人を加えた六人で夕食の準備をしていた。

 とはいえ、忙しくしているのは調理担当の杏里沙と愛梨亜であり、他四名は呑気に応援をしている。


「有夏、もうすぐサラダが出来ますからテーブルに運んで下さい」

「はーい。ちょっと待ってねー」

「愛梨亜、メニューは?」

「今日は簡単にパスタよ」


 カウンター内の台所では、杏里沙が材料を刻んでおり、コンロでは寸胴鍋一杯にお湯を沸かしながら愛梨亜がフライパンでソースを作っていた。


「美味しそう」

「洋食は久しぶりです!」

「我もそうじゃのう。いつも何故か精進料理を喰わされる」


 エンジが期待を込めて愛梨亜に聞くと、愛梨亜は手元から目を放さず答えた。

 パスタと聞いて茶蛇巳と風猫が色めき立つ。


「お寺に住んでるんだからしょうがないでしょう」

「我は別に何を食うてもよいと言っておりますのに……。」


 人と同じで雑食の風猫は寺で食べる食事に物足りなさを感じているようで、それが愚痴となって口からこぼれる。

 愛梨亜の突っ込みにも諦めを滲ませ、力無く答えた。


「普段食べれないんだから、今いっぱい食べておけばいいじゃないですか先輩!」

「茶蛇巳は前向きだね」

「私も似たようなものですからね。先輩よりは融通が効きますけど」

「羨ましいのう」


 項垂れた風猫に茶蛇巳が前向きな言葉で励ます。

 有夏はテーブルにサラダを配膳しながらその前向きさに感心すると、彼女は風猫よりは若干ましだが同じくあまり食事の自由のない自身の境遇に笑う。

 風猫はその若干ましと言う部分にひどく羨ましそうな顔をした。


「これエンジの分ね。皆、待ってないで先に食べてていいからね」

「エンジさんの分、多いですね」

「いつ見ても感心する量じゃのう」

「照れる」


 有夏が持ってきた山盛りのサラダがエンジの前に置かれ、それを見た茶蛇巳と風猫は驚く。褒められたと思ったエンジは照れた。


「茶蛇巳」

「はい。何ですか?」

「土地神は集まり無いの?」

「集まりって会議みたいのですか?」

「違う。組合みたいな」

「ああ、そっちですか。ありますよ」


 サラダに手を着けようとしたエンジがフォークを掴みながら茶蛇巳に質問した。

 質問された茶蛇巳は視線を宙に彷徨わせながら考えた後、えーと、などと言いながら説明し出す。


「エンジさんは組合に入ってますよね」

「一応」

「それと同じようにかなり昔に土地の管理をしている神や妖怪は、地場寄り合いっていう組織に入るように言われたんですよ。上から」

「それまでは各々(おのおの)が好き勝手にしておりましたからな。(いさか)いも多かったのう」


 茶蛇巳が説明し出すと隣の風猫も当時のことを思い出すようにしみじみと言った。


「それで?」

「最初は反発も大きかったんですけど、会議の時にお酒出すようにしたら皆(こぞ)って入りましたよ」

「我もその口ですな」

「そう言えば先輩もそうでしたね。まあ、そう言う感じで始まったんです」


 エンジはいただきますと言ってサラダを頬張りながら続きを促し、茶蛇巳が地場寄り合いの始まりの頃を説明すると、風猫が少し照れ臭そうに頭を掻いた。


「どんなことしてる?」

「そうですね。大体はどんなことがあったかの情報交換とかですね」

「あれは、ほぼただの宴会じゃのう」


 エンジの問いに茶蛇巳は目を泳がせ、風猫は遠いどこかを見ながら答える。すると、スープを持ってきた有夏が話しに混ざってきた。


「いくつか部署に分かれてるんだっけ? はい、コンソメスープだよ」

「そうですね。幾つかあって、基本は地方によって分けられてます。私はこの地方の所属ですね」

「分かりやすく祓い屋の組織の方で例えると陰陽会などと同じですのう。成り立ちは違いますが」


 配膳しながら有夏が聞くと、茶蛇巳は良い香りのするスープに目を奪われながらも説明を続けた。同じく風猫もあまり目にできない洋食に心を奪われながらも補足する。そして二人はいただきますと言って料理を食べ始めた。


「とっても美味しいです!」

「この汁物、こんなに旨いと涙が出るのう」

「このサラダのドレッシングも美味しいです。手作りなんですか?」


 料理を一口食べた二人は感動に目を輝かせた。風猫などは普段味わうことの無い洋食の味に感涙する程だった。

 

「そうよ。杏里沙が朝に作ったドレッシングね」

「はい、パスタだよー。ちょっと場所開けてねー」


 茶蛇巳の質問に調理が終わった愛梨亜が答え、有夏と二人で出来立てのミートソースパスタを持ってきた。

 既にある皿を寄せてテーブルのスペースを開け、そこに六人分の料理を乗せた。

 愛梨亜がエンジの隣に座り、有夏が簡易な椅子を二人分準備すると、洗い物を終えた杏里沙もやって来て皆で食べ始める。


「そんなに喜ばれると作った甲斐がありますね」

「本当に美味しいですよ!」

「このパスタ? というのも絶品ですのう」

「ありがとうございます」


 杏里沙が二人の反応に満足げにすると、味わっていた二人が杏里沙と愛梨亜を絶賛する。

 褒められた二人は満更でもない顔をし、杏里沙は礼を言った。


「エンジはそれで足りるかしら?」

「大丈夫」

「そう。足りなかったら言って頂戴、まだソースが少し残ってるから」

「わかった」


 愛梨亜がエンジに足りるかと問うが、そのエンジの前には山盛りのパスタが鎮座し、正面に座る風猫からはパスタに隠れエンジの顔が見えない。

 エンジはモグモグとその山を崩しながら愛梨亜に答えた。


「これで足りないとかあるんですか……?」

「それほど食べるのに我と背が変わらんのですな」


 二人のそのやり取りに唖然とする茶蛇巳。

 風猫はいくら食べても背丈の成長が見られないエンジに改めて疑問を持った。


「封印の維持とか浄化に栄養とか色んな物吸われてるからね」

「わたし達がもっと加護に力を割けば良いんですけど、全てを抑えるとなればわたし達の力が普通の人と変わらない程度しか無くなりますから」

「昔ならともかく私達が色々と知られてる今は、守りに不安が出るから出来ないわね」


 有夏達が口々にエンジの状態の実態を告げるが、当の本人のエンジは既に食事に夢中で話しを全く聞いておらず、ひたすらパスタを口に運んでいる。


「浄化もですか。……本当にあの西洋の術者どもは迷惑をかけてくれたんですね」

「おい。気持ちは分かるが殺気を放つでない。食い物が美味しゅうなくなる」

「すっ、すいません。つい」


 浄化という単語を聞いて色々と過去の出来事を思い出した茶蛇巳からは剣呑な気配が漂い始め、よく見ると目もさっきまでの人間のそれではなく蛇を思わせる爬虫類の目になっている。

 風猫が素っ気なく宥めると、茶蛇巳ははっとして漂わせていた殺気を引っ込め、目も元に戻った。


「浄化はもうすぐ終わりそうだし、あっちには責任取らせたから気にしない方がいいよ」

「浄化終わりそうなんですか!?」


 有夏がパスタを食べながら何気なく放った言葉に、その事が初耳だった茶蛇巳は驚く。


「そうね。何もなければもうすぐ終わるでしょうね」

「もうすぐとはいつくらいなんですかのう?」

「具体的にいつとは言えませんけど、進み具合から言えば年内ですかね」


 有夏の言葉を補足するように愛梨亜と杏里沙が見解を述べた。


「よかったですねエンジさん!」

「んぇ? 多分そう」

「これは聞いてなかったね」


 それを聞いた茶蛇巳は喜びエンジに祝いの言葉をかけるが、当の本人はパスタの山がかなり低くなるほど集中して食べていたところに急に話しかけられたので、何も分からず適当な返しをしたのだった。




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