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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジの生活
16/62

「ごとうもく?」


 青年の答えで店内が一瞬静かになると、その静寂を破るようにベルの音が鳴った。

 店内の青年を除いた全ての者達が扉の方を見れば、制服を着崩した派手なギャルときっちりと着こなした大人しそうな少女が立っている。

 そして、有夏と目のあった大人しそうな少女がおもむろに口を開いた。


「おい、有夏ぁ! お前ぇ、なんで最近仕事に出てこねぇんだよ!」

「ちょっと柊。他のお客さんに迷惑だよぉ」

「いらっしゃい、柊、梓」

「おう! 愛梨亜、邪魔するぜ!」

「お邪魔します、愛梨亜さん」

「二人とも来てくれるのは嬉しいのだけど、少し静かにして貰えるとありがたいわね?」

「おっ、おう。すまねぇ。気を付ける」

「ひ、柊がごめんなさい」


 少女から発せられた言葉は、その大人しそうな外見にそぐわない荒いものだった。ドスの効いた声で有夏に叫ぶように話しかけてくる。

 それを隣にいたギャルがオロオロと涙目で(いさ)めようとするが、少女は全く意に介さない。

 その剣幕にエンジが目を白黒させていると、愛梨亜がカウンターを出て二人の少女に近づき、柊と呼ばれた少女にニコリとしながら注意をした。

 二人は愛梨亜の笑顔から発せられる圧力に(おのの)き、大人しく謝った。


「なんだ、五塔杢(ごとうもく)の所の二人じゃん。元気だった?」

「ごとうもく?」

「蓮堂と同じで、幾つかある祓い屋の大店(おおだな)の名だな」

「おお。ご同業」

「エンジの嬢ちゃんは、祓い屋はやってないだろう」

「そうでもない」

「我々としても、例外規定者にはそのまま大人しくしていて貰いたい」


 大人しくなった二人の元へ、有夏が近づき声を掛けた。その中に出てきた名前に聞き覚えがなかったエンジは疑問をこぼす。

 ポツリと呟いたその疑問に老人が答えると、理解が及んだようで少し驚いた顔をする。

 エンジが少し親近感を感じたのか反応すると、老人に突っ込まれた。


 実際にはエンジたち四人は老人に祓い屋と呼ばれた、陰陽師や祈祷師、神職や僧兵などが所属する組合に登録しているので、一応、祓い屋と言えなくもない。しかし、活動自体は有夏を中心とした愛梨亜と杏里沙の三人で行っており、エンジが現場に出ることは特別な事情がなければない。


 そんなエンジが老人に対して見栄を張って否定すると、いつのまにか移動し老人と相席していた青年が、心配するように自身の要望を伝えてくる。

 エンジの主張はまるで無視されていた。

 そして、魔の者と呼ばれた者達がなにを心配しているのかエンジには分からず、噛み合わない二人なのだった。


「元気だったよ。お前らが来ない間もビシバシ仕事してた」

「柊、最近、組合にも仕事にも有夏さんが来ないから寂しがってるんですよ」

「あっ梓、てめえ何言ってやがる! あたしは別に有夏の事なんざ、何とも思って――」

「柊?」

「あっ、いや、これは梓が……」

「残念ながら、私は同じことは二度は言わないのよ」

「ごっごめんなさい、柊を許してください。柊に悪気はないんです」

「梓、てめぇこの野郎!」

「柊、落ち着きなさい。梓も煽らないで」


 柊がふて腐れたように有夏に答える。それを見た梓が最近の柊の状態について暴露した。

 慌てた柊が声を荒げて梓に食って掛かるが、また愛梨亜が一言注意し、意味深な笑みが深くなった。

 梓は、柊に責任の全てを擦り付けるかのように振るまい柊の怒りを誘うが、二人のやり取りにいい加減呆れてきた愛梨亜によって双方共に諫められる事となった。


 一方、青年が避難してきたことで相席となった二人は、彼女らの注目を引かないよう小声で話していた。


「おい、魔の兄さん。あの嬢ちゃんたちを愛梨亜の嬢ちゃんが引き付けてる間に、さっきの話の続きだ」

「それがいい」


 老人が切り出すと、またいつの間にか老人の隣にちょこんと座っていたエンジが頷きながら続けて言う。老人はちらりと目線をエンジに向けるがそのまま続けた。


「……物が何なのか知らないのは分かったが、盗まれたもんは回収できるのか?」

「できるの?」

「私は関知していないからわからない」

「わからないって」

「……参ったな、それは」

「困った、困った」

「が、赤人は目星を付けているようだ。協力要請もないので問題ないのだろう」

「信じていいんだな?」

「いいの?」


 エンジの顔は話している老人と青年の間を行き来して、双方の発言の後におうむ返しで話しかけてくる。

 それに老人は少し困ったように、青年は全く気にせず話を続けた。


「……エンジの嬢ちゃん。暇なのか? 真面目な話だから茶化さないどいとくれ」

「正直そう」

「信じるのは自由だが、責任は持てない」

「お前さんは、ちったぁ気にしろ。まあ、わかった。この事うちの者に伝えて問題は?」

「ない。むしろ伝えておいた方が手間が少なくなるだろう」


 いい加減気になったのか、老人はエンジに尋ねるとエンジは照れたように左手で頭を掻きながら肯定する。

 仕方なさそうに老人がエンジの頭を撫でるが、青年は再び全く気にすることなく話を続けた。

 そして、二人の間で合意が取られると、老人はわかったと言って席を立つ。老人に続き青年も席を立つと、杏里沙の元で会計をし、老人はエンジと杏里沙に笑顔でまた来るよと言って二人は店を出ていった。


「いい加減注文して貰いたいのだけど」

「今メニュー見始めたばっかだろ!」


 二人が会計をしている間に有夏によって席に案内され、今まさにメニューを開いた柊と梓を愛梨亜が近くで監視するようにして見張っている。

 濃く呆れを滲ませて二人を急かす愛梨亜に柊が噛みつく。


「私はこのアイスティーのセットでお願いします」

「はーい。アイスティーセットね」

「梓は決まったようだけど?」

「梓ぁ、お前ってヤツは!」

「柊?」

「はいっ、私も梓と同じのでお願いします」

「いい子ね。ちょっと待ってなさい」


 かと思えば梓が間髪入れず弾んだ声で注文をした。裏切られた思いで柊は梓へと矛先を向けるが、愛梨亜のプレッシャーに負けて、借りてきた猫のようになった。


「それで、あたしらがいない間にビシバシ仕事してたんだって?」

「そうだよ。お陰で一級の仕事も受けられるようになった」

「階級も甲の三番位になったんです」

「凄いじゃん! あたしら越えられちゃったよ」

「そうだ。だから、今度から仕事のときは私たちの指示にしたがって貰うんだからな!」

「私たちは昇級を保留してるだけだから、申請すれば直ぐに越すわよ。はい、注文のアイスティーセットよ」


 有夏がしょげてうつ向いている柊に先程の話の続きを聞くと、柊はそのままちらりと上目遣いで有夏を見ながら低いテンションで成果を自慢する。

 続いて、梓も嬉しそうに昇級を自慢し有夏を驚かせた。

 それに気を良くした柊が急にテンションを上げて宣言する。

 しかし、二人の注文したアイスティーを持ってきた愛梨亜によって冷や水を浴びせられた。


「保留だって? 嘘つけ。私らに追い越されて悔しいんだろ?」

「いやー、嘘じゃないんだな、これが」

「はぁ~。有夏まで愛梨亜の見え見えの嘘に乗るなんてな。なあ梓?」

「そうだね、柊。本当のところはどうなんですか杏里沙さん?」


 柊が疑惑の目で愛梨亜のことを見て煽ると、有夏がバツが悪そうに頭を掻いて、疑惑を否定する。

 納得できない柊は呆れたように梓に同意を求めた。梓もそれに頷き、杏里沙に真実を尋ねる。


「残念ながら嘘ではないですよ。ちょっと事情があって保留してるんです」

「またまたぁ~。…………マジなのか?」

「マジです」

「私はそうだと思ってました!」

「梓ぁ!」

「でも、事情が解消されない限りは申請しないので、追い越されたのは変わらないですよ」


 一歩引いて会話を聞いていた杏里沙は、にこやかに愛梨亜の話を肯定する。

 冗談を言われたと思った柊が笑いながら周りを見回すと、杏里沙は平然としているし、有夏は苦笑いで愛梨亜は可哀想なものを見る目で柊を見ていた。

 もう一度問うと肯定され、その瞬間梓は手のひらを返した。またしても裏切られた柊は梓に怒る。

 

「事情って何なんですか?」

「くそ、梓お前覚えとけよ? 昇級を保留するくらいなんだから、随分と御大層な理由なんだろうな、杏里沙?」

「う~ん、それは秘密ですね」


 梓は怒った柊を一切無視して杏里沙に質問した。

 後で復讐することにした柊も同じく質問するが、杏里沙は少しのあいだ考えて答えをはぐらかした。


「秘密ですか……?」

「何でだよ。まさか私らが信用ならないってのか?」

「そういう訳では無いんですけどね」

「なら教えろよ。場合によっては助けになってやるから」

「ええっと……何と言えばいいか」


 いつも優しくだが、はっきりと物を言う杏里沙にしては珍しい答えに梓は戸惑い、柊はなにか深刻な問題があるのではないかと疑い心配した。

 そんな二人の様子に、どう答えたものかと杏里沙が困っている。


「私たちの個人的な信条の話だから、誰にも事情を話すつもりはないし、貴女たちの助けは特に必要ないわ」

「愛梨亜、言い方。あ~でもさ、あたしらには重要だけど、他の人からしたら下らないことだからあんまり気にしないでよ」

「……問題はないのか?」

「ないわね。本当に恐らく貴女たちからしたら下らないことよ。言わないけど」

「助けはいりませんか?」

「大丈夫。やっかいごとじゃないし、本質的にはあたしらがやる気出せば済む話だから」

「ならいい」

「わかりました」

「二人の気持ちはありがたいし、嬉しいんですけどね」


 見かねた愛梨亜が口を出すが、若干突き放したような物言いになってしまう。

 有夏が慌ててフォローし二人の様子を窺うと二人はショックを受けたように萎れていた。

 そんな状態でも確認を取るように質問してくる二人に愛梨亜はバツが悪そうに、有夏は苦笑いで答える。

 彼女らが一応納得すると、杏里沙もフォローした。


「でも、昇格しないにしても、仕事は受けるんですよね?」


 梓が少し不安そうに聞く。

                                 

「やるよ。最近は忙しかったから仕事やるつもりはなかったけど、今は空いたからね」

「少しづつ、また受け始めようと考えてます」

「もしかしたら、二人と一緒になるかも知れないわ」


 三人の答えを聞いて梓は安心したように柊を見る。

 柊はパッと笑顔になり、何か思い付いたようにニヤつくと愛梨亜に向かって言った。


「そうか、なら現場では私たちの指示に従えよ?」

「それはわからないわね」

「何でだよ!」


 柊の渾身の突っ込みが店に木霊したのだった。

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