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四人の日常  作者: 曽良紫堂
エンジの生活
10/62

「そういえば」

 翌朝エンジがうっすらと明るい寝室で目を覚ますと、視界には有夏の寝顔がアップで写っていた。

 ぎょっとしたエンジの意識が一気に覚醒し、同時に彼女に強く抱き締められ抱き枕にされた体が痛く、息苦しい事に気が付く。たまらずエンジは有夏を起こそうとする。


「あ、有夏、……起きて」

「うーん」


 エンジが身じろぎをして有夏の拘束から抜け出そうとしたが、逃げられると思ったのか何なのか彼女の拘束はどんどんと圧力を増していく。


「あ、りか……くる……し……たすけ……」

「エ、エンジ! 大丈夫ですか? 有夏、起きてください! エンジが潰れてしまいます!」


 体が曲がってはいけない方向へ折れてしまいそうにギシギシ鳴って、エンジが再び意識を落とそうかとしているその時、杏里沙が隣の異変に気付き慌てて有夏を起こしにかかる。


「有夏! 起きなさい有夏!!」

「んあ? あにさ杏里沙、朝からさけんでどうしたん――」

「いいから腕をほどきなさい! エンジが潰れてるんです!」

「んえ? うわ! エンジごめん大丈夫?」

「……なん……とか」


 杏里沙の叫びが効いたのか有夏が目を覚まし、あわてて杏里沙がエンジを放すように彼女に言う。目の前にあるエンジの顔が青くなってきている事にようやく気付いた彼女が急いで腕をほどいた。

 エンジは息もたえだえといった様子で有夏の謝罪に答える。

 そうしていると寝室のドアが開き、外から愛梨亜が入ってきた。彼女はごちゃごちゃしている三人の様子を見て訝しげに言った。


「朝から何をしてるのよ」

「有夏がエンジを抱き枕にして抱き潰そうとしてましたから、あわてて起こしたんです」

「ごめんねーエンジ」

「いい、もう落ち着いた」


 杏里沙は憤慨しながら先程の状況を説明し、有夏はすまなそうにエンジに謝る。エンジは体に痛みはあるものの呼吸ができるようになったことで、顔色も落ち着いてきていた。


「全く。有夏、気を付けなさいよ?」

「うん。今度から気を付けるよ」

「じゃあ、朝御飯が出来ているから顔を洗ってきなさいよ」

「有夏は全くもう。行きましょうエンジ。起きれますか?」

「大丈夫」


 愛梨亜が有夏に注意をしてから三人をリビングへと呼び寝室を後にする。有夏は多少気落ちした表情をして、それを見た杏里沙は呆れたように言った。そして三人は洗面所へと行き顔を洗った。

 リビングのテーブルには既に朝食のトーストとスープ、サラダが並べてあった。四人は各々の席について朝食を食べ始める。


「そういえば」

「どしたの、エンジ?」

「夢で皆に会った」

「そうなのですか。こう言うのが正しいのか分かりませんが、元気でしたか?」

「たぶん元気」

「そう。他には何かあったのかしら?」

「愛梨亜達に感謝してた」

「それって、呪い封印したから?」

「力貰ったから、処理できたらしい」


 エンジが思い出したように寝ている時にあった出来事を話し始めるが、彼女の端的で言葉足らずな会話のせいで三人は内容を深く理解はできない。なので三人は理解しようとエンジを質問責めにしていく。

 そして多くの質疑応答の末、わかった内容をまとめて確認する。


「つまり、呪いは私たちの封印の他に、エンジの魂の過去の記憶の皆が処理を行っているということですか?」

「そうらしい」

「で、浄化も皆が手伝ってやってると」

「そうみたい」

「それで、その事をエンジは前から知ってたのね」

「一応、なんとなく」


 三人は複雑な表情で互いを見回すと同時にため息を吐いた。


「これヤバいよね。あたしエンジ達が色々してるの初めて知ったよ」

「かなり前の世界からエンジの魂の中に前のエンジ達が居るのは分かってましたけど……」

「これで転生する度に呪いの封印の式を減らしても封印できていた謎が解けたわね」


 エンジの予想外の話しに朝から疲労を感じる三人。しかし長年の疑問が解けてスッキリした顔をしている。


「そういえばエンジ、何で今までこのこと話してくれなかったの?」

「知ってると思ってた」


 そう言ってエンジはモグモグと大量のパンを咀嚼していったのだった。



 新事実の判明した朝食が終わり、四人は着替え等の出掛ける準備をする。今日の装いはエンジは愛梨亜に着せられた黒のゴスロリ衣装にハート型の眼帯を着けている。

 愛梨亜達はそれぞれカジュアルな格好であり、エンジ一人だけコスプレじみて浮いているが四人は皆まったく気にしていない。

 準備が整うと雑居ビルを出て、最近ますます暑くなってきた外を駅方面に歩いていく。


「かあさま、会うの楽しみ」

「そうね。前に会ったのは四月だったかしら」

「そうだね、入学式見に来てくれた時が最後かな」

「アポ無しですし、すんなり会えると良いんですけどね」


 駅に着くと四人は、学校へ行くときとは違う方面へ行く電車のホームへと向かう。ホームに着き時刻表を見ると少しのあいだ電車を待たなくてはいけないことがわかった。

 ホームにあるベンチに腰掛け、雑談しながら待っていると電車がやって来た。電車に乗ると車内は空いていて席も空いているので、有夏と杏里沙はエンジを挟んで腰掛け、愛梨亜は杏里沙の隣に座った。


「いつ着く?」

「この電車は急行だから一時間くらいかな」

「駅に着いたらどうしましょう。そのまま向かいますか?」

「多分あちらからアクションがあると思うわ」

「それ次第ってことか」

「そうね」


 電車が進んでいくと徐々に緑が多くなり始め、目的の駅に近くなると窓から見る景色は山脈が近くに見えるようになった。途中から乗ってきた登山客と思われる装備をした乗客に混じって電車を降りる。


「やっぱり空気が違うね」

「大体半年ぶりですけど、懐かしい気分です」


 深呼吸をして言う有夏と杏里沙。エンジは二人の様子をみて同じように深呼吸をしてむせ、愛梨亜に背中を擦られながら駅を出る。

 駅を出るとバス乗場があり、その先には商店街がある。田舎ではあるが登山や観光にくる客がいるおかげで人通りは少なくない。


「さて、どうかしら」

「向こうはあたし達が来たことわかってるよね?」

「そうだと思いますけど、慈円寺家の方に行けば何かありますかね?」


 愛梨亜達三人が周りを見回しながら相談していると、駅舎の上から一匹の猫がエンジの頭の上に降ってきた。衝撃も重力も全く感じさせずに降りったった猫は四人以外の人間の注目を全く集めない。そしてエンジの頭から降りると四人の方を向き、一声鳴いて先に行ってしまう。


「にゃー」

「ついて行けばいいのね」

「どこに向かうんでしょうか?」

「家の方じゃないね」


 エンジが猫に全く似ていない棒読みの声まねで話しかけながら後をついていき、三人もその後を追う。しばらくそうしていると猫は商店街の端にある喫茶店の前でお座りをして動かなくなった。


「ここですね」

「おばさまは中かしら」

「入ってみようか。ほら、猫撫でてないで行くよエンジ」

「もうちょっと」


 猫を撫でながらごねるエンジを引っ張って四人は少し寂れた雰囲気の喫茶店に入る。店内を見回すとカウンターにはコーヒーを淹れている男性のマスターがおり、奥のテーブル席に一人の女性が座っていた。その女性は笑顔でこちらを見ながら手招きをしている。四人はその席まで行き、相席をした。


「四人とも久しぶりね! 燕尼(えんじ)、元気にしていた?」

「元気だった。かあさまは?」

「色々忙しかったけど、元気だったわ!」


 そう言うとかあさまと呼ばれた女性はエンジにガバッと抱きつき、撫で回す。エンジは嬉しそうに、なされるがまま撫でられる。


「お久しぶり、(つばめ)おば様」

「溺愛っぷりは変わんないね」

「おばさまですからね」


 その勢いに呆れながらも慣れた様子で三人は挨拶をする。それに返答しながらもエンジを撫でる手は止まらず、そのまま自身の膝の上に彼女を乗せた。

 そうしてやっと満足したのか、落ち着きを取り戻し真面目な顔で三人に話しかける。


「急に呼んでごめんなさいね。改めて、みんな久しぶり。燕尼は迷惑をかけていないかしら?」

「ええ、何の問題もないわ」

「見ての通り元気ですよ」

「おっちょこちょいな所は変わらないけどね」


 彼女がお代を持つと言うので、四人は飲み物を注文した。飲み物が来るまでのあいだ、近況の報告をする。


「あと、最近は昨日転校生がきたね」

「違いますよ有夏。復学です」

「へぇ~、どんな子なの?」

「こちらを警戒しているようで、目付きが悪かったわ」

「そうなの燕尼?」

「変な雰囲気はする」

「そうね、だから念のため警戒はしているのよ」

「エンジのポカで認識阻害弱くなっちゃったけどね」

「あら大変。じゃあ、こっちでも調べておくわね」

「お願いします、おばさま」


 つい昨日復学してきた八巻の話しになり、状況を燕に説明していく。

 有夏がエンジの失敗を笑いながら伝えると彼女は頬を赤く染め恥ずかしがって、そんな彼女を見て燕は頭を撫でたのだった。

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