神の攻撃
わたしの前歯にズキンと鋭い痛みが走りました。
神からの攻撃です。
わたしは人の形をした悪魔です。常に神の攻撃にさらされています。
いまは恋人と喫茶店でデートしています。
炭酸の林檎ジュースを飲んでいましたが、耐えがたい歯痛のせいで、これ以上飲むのは不可能です。
「痛い。前歯が痛いよお」と泣きべそをかきました。
「また痛みかい?」と恋人はうんざりしたように言いました。
コーヒーをひと口飲み、わたしが涙を流しているのを冷たく眺める恋人。
先日、初体験を迎えようとしていたとき、あそこに死ぬほどの痛みが走り、拒否して以来、彼は冷たいのです。
神め。この世界には神も仏もいないのか。
わたしは生まれついての悪魔です。出生にはわたしに罪はありません。どうしようもない。しかしわたしが悪魔であるというだけで、神は執拗に攻撃してくるのです。
ああっ、いまものすごい耳鳴りが。うるさいうるさいうるさい。
わたしの両親はふつうの人間です。なぜか悪魔のわたしが誕生しました。理由はわかりません。
わたしには悪魔的な特殊能力は何もありません。人を呪い殺すとか、指も触れずに物を破壊するとか、できません。
能力的にはふつうの人と変わりません。むしろ平均より劣っているぐらい。運動神経は鈍いし、偏差値はやや低いです。
でも悪魔なの。
あ、あ、あ、神がまた攻撃してきた。
お腹が痛い。胃が破れるう。
「胃が痛い。助けて。神がわたしを攻撃してくるの」
「またか。悪いけど、きみの中二病にはつきあいきれない。想像の痛みといつまでも遊んでいてくれ」
「想像の痛みなんかじゃないのーっ!」
「とにかく、痛いとばかり言っている女とはもうつきあえない。別れてほしい」
恋人は伝票を掴み、立ち上がりました。
ああ、またフラれるのか。
そのとき、わたしの脳に、ふいに特殊能力を伝える信号が飛び込んできました。
わたしには『地球人の男性を瞬時にすべて消せる能力』があるとのことです。
それを受信したとき、感電死しそうな激痛がわたしの全身を苛みました。
ビクビクと痙攣してしまいました。
また神の攻撃です。
神はわたしを殺すことはできないみたいです。
痛みを感じさせる攻撃しかできないのです。苦痛集中攻撃を受け、わたしは悶絶寸前……。
『ちきゅうじんのおとこほろべ』とわたしが言えば、地球の男は滅亡します。能力発動の代償として、わたしも死にますが、この痛みから逃れられるのなら、死はむしろ歓迎です。
だけど、わたしは男の人が好きなのです。惚れっぽくて、すぐに恋に落ちてしまうの。
男の子、大好き! 滅ぼしたくなんてない。
同時に、神が創造したすべてのものを憎んでいます。
男がいなくなれば、生殖できなくなり、人類は早晩滅亡します。
わたしの美貌に嫉妬して、さまざまな嫌がらせをしてきた女たちなんか、絶望させてやりたい。
人類、滅ぼしてやろうかな?
でも男が愛おしい……。
その葛藤を抱え、痛みと戦いながら、わたしは林檎ジュースが入ったコップを見つめていました。
彼はもう喫茶店内にはいません……。
とある喫茶店で若く美しい女性が不審死し、同時に地球上からすべての男性が突如として消滅した後のこと……。
女性同性愛者の斉藤百合が14歳のとき。
男性がすべて消えて、地球人類は女性だけになった。
原因は不明。
ほとんどの女性が嘆き悲しんだが、百合は内心で歓喜した。
彼女は幸福な一生を過ごした。
愛する女性13人とつきあった。
人類の滅亡は確定しているが、どうでもよかった。
寿命が来て死神が見えたとき、彼女は自分の人生を全肯定していた……。