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第98話 元S級ハンター、焼肉を食う

この話を空きっ腹で見直した作者を褒めて……。

 焼肉……。


 文字通り、肉を焼く料理のことである。


 シンプルだがおいしさは天井知らずで、奥が深い。


 肉1つとっても、牛肉、豚肉、鶏肉といったオーソドックスなものから、馬肉、羊肉、鹿肉、狗肉と多岐に渡る。


 焼肉を扱う店となれば、オールドブルにごまんと存在し、各国必ず1軒は存在する。


 焼肉とは国際的な食べ物であり、肉を焼くという行為は人間の本能と言ってもいい。


 その中で焼き肉店は独自色を出そうとして必死だ。


 例えば焼き方が、各々違う。


 網、鉄板、石、串焼きから始まり、火種にしても普通の『魔法(ルーン)』の炎もあれば、木炭、石焼きなど、涙ぐましい営業努力が払われている。


 そのバラエティや流行は毎年変わり、先史時代からある料理でも、今も尚進化し続ける――――。


「ある意味、料理の最先端なのよぉ――――って、聞いてるあんたたち!!」


 焼肉の蘊蓄を雄弁に語っていた料理ギルドのギルドマスターは、突然「キィィイイ!」と叫び続ける。


 しかし、そのギルドマスターの前では、1枚の上ロースステーキを巡って、熾烈な争いが繰り広げられていた。


「おい、プリム! その肉は俺が育てていたヤツだぞ。手を出すな」


「違うよー、ししょー。それは僕が最初に広げた肉だよー」


「ほう。ししょーの俺の命令が聞けないのか、弟子よ?」


「ししょー、その殺気……。やる気だね。修行かな?」


 俺たちが握った箸が光る。


 キィンキィンキィンカンカンカンカン!!


 激しく箸が打ち合わせされる。


 互いの箸を叩く音は、金属製の武器を打ち合った時のような甲高い音を立てた。


「少しはやるようになったじゃないか、弟子ぃ……」


「ししょーは3年も休んで鈍ったようだね」


「おのれ! 馬鹿弟子!! 言わせておけばぁあああああああ!!」



 うっさい!! あんたたち!!



 思いっきり拳骨が俺の脳天を直撃した。


 身体の芯に届く痛みに、俺とプリムは頭を抱えて悶絶する。


 拳を震わせていたのは、パメラだった。


「プリムさんはともかく、ゼレットまで何をしてるのよ。ここはね。『エストローナ』の周りにあるような下町の大衆食堂じゃないのよ」


 何気に近くの店をディスってないか、お前?


 まあ、無理もないか。


 今俺たちがいる店は、ジャジャ園というヴァナハイア王国王都にも展開してる高級肉を扱うチェーン店だ。


 チェーン店といっても、貴族も通う名店として名が通っており、他の個室では静かに貴族たちが談笑をしている。


 店全体でいえば、王宮の一室のような厳かな雰囲気が漂っていた。


 その中で俺たちは、肉をかけた死闘を繰り広げていたのである。


「シエルの前なんだから、もうちょっとパパらしくしなさい。……たくもう」


 パメラは怒りが冷めやらぬまま席に座り直す。


 そのシエルは子どもの用の椅子に座り、ハンバーグをモグモグと食べていた。


 最初は初来店の店に戸惑っていたが、今では口の周りにソースとミンチの痕がつけるぐらい、夢中になっている。


 ちっちゃな子供用のフォークとナイフを持つ我が子を見ながら、俺は目が眩んだ。


 はあ……。我が子ながら尊い……。


「あはははは……。子どもさんができても、ゼレットさんはゼレットさんですね」


「変わらないっていうよりぃ、ちょっと幼児退行してる感じじゃな~い」


「ホントよ。プリムさんと合わせて、もう3人も子どもがいるみたいだわ」


 憤然と怒りを吐き出すのに対して、オリヴィアとギルドマスターは揃って笑った。何故かプリムも笑っている。馬鹿だ。


 俺は気を取り直し、先ほどの上ロースステーキに手を付けようとするのだが、弟子と相争っていた肉は忽然と音もなく消えていた。


 下手人はすぐに判明する。


 モグモグと咀嚼していたのは、リルだった。


 ご丁寧にタレまで付けて食べたらしい。


 銀のモフモフ毛に魚醤がかかっていた。


『わぁう』


 満足そうに喉を鳴らす。


 うん。さぞかしおいしかったろう。


 俺が丁寧に熱の低い網の端っこの方で焼いた肉だからな。


「リィィィイイイイルゥゥゥゥウウウウ!」


 血涙を流していたのは、プリムだった。


「リル! 返して! それ僕のだよ」


「なにをドサクサに紛れて、自己主張してるんだ、馬鹿弟子」


 やかましい! と再びパメラの鉄拳を食らったのは言うまでもない。


 それを見ながらシエルがキャッキャと喜び、「ぱーぱ。どんばい」と慰めてくれる。


 我が子ながら天使過ぎる……。





「うまい……」


 魔獣肉もうまいが、やはり最高級の食肉牛もまたうまい。


 表面を軽く焼き、まだ中が冷えた状態ではあったが、これが良い。


 表面の香ばしい風味から、腰の強い饂飩(うどん)のような歯応えは食べた瞬間、魅力的な味が頭の方へと上っていく。


 噛んだ直後に滲み出てくる旨みは、ポンと膝を叩きたくなるほど見事。


 特にこの店自慢の岩塩がいい。


 ピリッと効いていて、かつ肉の旨みを台無ししない。


 上品な味に、ついつい頬が緩んでしまう。


 サイドメニューも充実している。


 俺が頼んだのは、牛骨スープだ。


 白濁したスープには、じっくりと煮込まれた骨付き肉。身はぷるっとしていて柔らかく、スープを吸って旨みがたっぷりだ。


 骨は長時間煮込まれたことだけあって、つるりと食べれてしまった。


 みんなが頼んだ名物の野菜サラダには、大蒜、魚醤、胡麻油がかかったドレッシングがかかっていて、これがまた食欲を増進させる。


 胡瓜の周りの皮が剥かれていて、如何にも高級店という配慮がなされていた。


「はあ……」


 俺は膨らんだ腹をさする。


 腹八分目に抑えたが、久しぶりのハントの後だからか、満足感が違った。


「よく食べたわねぇ」


 ややげんなりした顔をしたのは、ギルドマスターだ。


 特に滅茶苦茶食べた覚えはないがな。


 そもそも俺は小食の方だし。


 そう思いながら、横を見る。


 まるでゴム風船みたいに腹を膨らましたプリムと、満足そうに牙を舐めるリルの姿があった。


 側には大量の皿が積み上がっている。


 リルはともかく、馬鹿弟子の方は少し遠慮というものを知らないのか。


 とはいえ、俺は忠告したがな。


「まあ、いいわぁ。ゼレットくぅんに渡す賞金から天引くからぁ」


「おい!」


「うふふ……。冗談よぉ。これぐらいの出費、ここ最近の料理ギルドの盛況ぶりを考えれば、痛くもかゆくもないわぁ」


 ギルドマスターは自信満々に微笑んだ。


「そんなに盛況なのか。魔獣肉」


 自分で言うのもなんだが、俺が休んだことによって逆に注目度が下がると思っていた。


 当時は俺以上の食材提供者はいなかったし、注目度の高い魔獣を提供することが難しかったはずだ。


「ゼレットくぅんの心配は当然ねぇ~。でも、ゼレットくぅんが火を付けてくれた炎は、3年程度では燃え尽きないわよぉ」


 3年で魔獣肉は、大手の商会にまで卸すようになり、提供しやすく、食材として食べやすいものは、一般家庭の食卓に並ぶようになったらしい。


 言わば、この3年間はならし(ヽヽヽ)の時代。


 魔獣食をしっかりと文化として根付かせるために、庶民レベルでの試食会や料理教室を各地で展開してきたそうだ。


 結果、有名焼肉店に皿を積んでも、ビクともしないぐらい、料理ギルドは潤っているという訳だ。


「逆に言うとね、ナイスタイミングで戻ってきてくれたと思っているの。……そろそろみんな、ありきたりな魔獣肉じゃ飽き飽きしてきた頃だろうからね」



 その通りです。



 厳かで上品な声が、個室の外から聞こえた。


 店員に案内され、現れたのは1人の少女だ。


 いや、少女というのはもう失礼かもしれない。


 何故ならその姿は、俺が初めて出会った時より、数段美しくなっていたからだ。


 長い睫毛が持ち上がり、薄い口紅が引かれた魅力ある口元が開く。


 やがて天女もかくやという風に、女性は笑った。


「お久しぶりです、ゼレット様」


 ラフィナ・ザード・アストワリ。


 二十歳となった公爵令嬢が、そこに立っていた。


※※ お知らせ ※※

他の作品でもお知らせいたしましたが、

しばらくWEBの更新を控えさせていただきます。

ありがたいことに、現在書籍化作業を複数抱えていまして、

さらにプラスして他のお仕事もいただいており、毎日多忙な日々を送っております。


ただなかなかWEBの更新まで手が回らない状況にありまして、

さらに連日の暑さで体力もミリミリ削られている状態でして……。


読者の皆様には大変ご迷惑をおかけするのですが、

8月末日(次回のコミカライズの更新日まで)お休みをいただこうと思います。


楽しみにされている方には、本当に申し訳ないと思っておりますが、

何卒ご容赦の程、引き続き『魔物を狩るな~』をご愛顧いただければ幸いです。

よろしくお願いします。


※できれば、ブックマークはそのままにしていただけると有り難いです!

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