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第93話 元S級ハンター、説得する?

近くコミカライズの続報をお伝えできるかと思います。

楽しみに待っていてくださいね。

「この野郎!!」


 ガンゲルはストックを振り下ろした。


 腹にため込んだ怒りをそのまま吐き出すように、大木槌を振り下ろす。


 ズーが食べ残し、沼地をうようよと動いていたスライムが潰れる。そのアメーバ状になった部分が広がり、スライムは死んでしまった。


 ガンゲルは荒い息を吐き出しながら、周囲を見渡す。


 視界で確認できる限り、スライムらしき姿はない。


 どうやら今のが最後だったらしい。


「はあ……」


 息を吐き出し、疲れたとばかりに尻餅をついたが、結局ガンゲルが潰したのは、1万匹いたスライムのうち、たった24匹だった。


 報酬はスライムを倒した数になるので、たかがしれたものだろう。


 今から報酬のことを考えると憂鬱だが、先ほどまでの大魔獣決戦を見た後では安堵の方が大きい。


 浅いとはいえ、下が沼地であるにも関わらず、ガンゲルは尻が汚れることも厭わず腰を下ろした。


 どうせ身体は飛び散ったスライムの残骸でべちょべちょだ。


「ガンゲル、精が出るな」


 聞き知った声を聞いて、ガンゲルが振り返る。


 一旦落ち着いた心が、赤いマントを見せられた闘牛のように最高潮にまで達した。


「ゼレット! 貴様ぁ!!」


 バチャバチャと沼地を横切り、縁に立つゼレットに掴みかかろうとする。


 しかし、寄る年波に勝てないらしい。元々なれない討伐もあって、足腰がふらふらだったガンゲルは、距離半ばで盛大に沼の中でずっこけた。


 泥だけになったガンゲルを見て、ゼレットの横にいたプリムは腹を抱えて笑う。


 リルは『わぁう!』と声を上げたが、励ましているのか、「間抜け」と罵っているのか、ガンゲルにはわからなかった。


「大丈夫か?」


 ゼレットは珍しくガンゲルを慮る。


「うるさい! 貴様のせいでめちゃくちゃだ!!」


 当の本人は泥の中から顔を上げると、怒声を放った。


 ゼレットの心配は杞憂だったようだ。


「貴様、なんてことをしてくれたんだ、お前のせいで、こっちの段取りは――――」


「はあ……」


 ゼレットは大きく息を吐き出した。


「な、なんだ? その態度は?」


「溜息ぐらい吐かせろ。まあ、予想通りだがな」


「何が予想通りというのだ?」


「料理ギルドから通達が来てなかったか?」


「通達? そんなもん知らん」


「知らんことはないだろう。街にある全ギルドのギルドマスター全員に書簡を送っているはずだからな」


「書簡? 私は――――」


 知らん、と言いかけて、ガンゲルははたと思い出した。



 ◆◇◆◇◆



 2週間ほど前になる。


 いつも通りガンゲルはハンターギルドの執務室で、執務を執っていた。


 すると、部下の1人がやってくる。若いがガンゲルの部下の中でも最古参の人間だ。ガンゲルも信頼を置いていた。


「ガンゲル様、こちらの書類を先に見ていただけないでしょうか?」


「あん? なんだ、これは?」


「料理ギルドのオリヴィアという受付嬢から――――あ、あああ!! 何をするのですか! ガンゲル様!!」


「やかましい! 料理ギルドだと! お前、よくこんな書簡を私に見せようと思ったな。あのギルドがうちに何をし、私がどんな赤っ恥を掻かされた忘れたわけではあるまい!!」


 料理ギルドがハンターギルドに与えた影響は大きい。


 今は魔物料理の人気は衰えることを知らず、人材がどんどんと食材提供者という職業に奪われている。


 魔物が出たら、ハンターギルドよりも、料理ギルドに通報することの方が多くなり、依頼も激減していった。


 やはりリヴァイアサンの1件は国内ではかなりインパクトを以て伝えられただけあって、そういう構図になってしまったのだ。


 ハンターギルドのギルドマスターとしては、赤っ恥。これではパトロンも集まらないといった状況だった。


「し、しかし、いきなり破ることはないでしょ。せめて中身を確――――」


「うるさい! 今度料理ギルドの書類を持ってきてみろ。お前を首にしてやるからな」


 ガンゲルが言うと、部下は急に真面目な顔になった。


「ガンゲル様」


「あん?」


「今、ハンターギルドは死に体です」


「何を今さら……」


「それでもハンターには一定の需要があり、これからも人々の暮らしを守っていく上では必要な職業だと考えておりました」


「なんだ、私に説教するつもりか?」


「ガンゲル様、これが私からの最後の忠告です」


「は! 最後?」


「ハンターギルドを存続させるには、横の繋がりを作る事です。今からはそういう時代になると私は考えております。どうか息災に」


 そう言って、部下は懐に忍ばせていた辞表を提出し、その場を去ったのだった。



 ◆◇◆◇◆



「あれか!」


 ガンゲルは頭を抱えた。


 よもや料理ギルドから届いた書簡にそんなことが書かれていたとは……。


「おかげで他のギルドは冷静だったぞ。国にも送っているはずだが、ヴァナハイア王国の事務方の仕事の遅さはお前もよく知っているのだろう。書簡を確認する前に、お前に依頼を送ったようだな」


 ゼレットはやれやれと首を振る。


「だが、その書簡を確認していれば、こういうことにはならなかったはずだ。完全にとは言わんが、料理ギルドの書簡を確認しなかったお前が悪い」


「ぎゃあああああああああああ!!」


 ガンゲルは仰け反る。


 もはや反論の余地などなかった。


 確かに国が依頼を出さなければ、ハンターギルドが動くことはなかっただろう。


 依頼がなければ、動けないからだ。


 しかし、書簡さえ確認していれば、こんな空振りに終わることはなかったのである。


 そうなると、気になるのは書簡の内容だ。


「ゼレット、教えろ。あ、あれには何が書かれていた!」


 ゼレットはいつも着ている黒のコートを叩く。足元に現れたのは、ガンゲルが破り捨てた書簡だった。


 ガンゲルは慌てて書簡を広げた。


 目で追いながら、ガンゲルは息を飲む。


「おい! スライムの大群が北方に現れるのを予期していたとあるが……」


「北方のスライムには周期があってな。春先に長雨が続くと、今の時期に増殖を始めるのだ」


「『バズズ』の襲来も予想していたとあるが……」


「予想していたというのは違うな。ただスライムを倒すだけでは味気ないからな。スライムを利用して、『バズズ』も釣ろうと初めから考えていた」


「初めから考えていたって……。お前、まさか全部仕組んでいたのか?」


「スライムは『バズズ』を釣る絶好の餌だ。あいつをここまで誘導するのは、一苦労だったがうまくいって良かった」


 そこでようやくゼレットの表情に笑みが灯る。


 『バズズ』を射殺したことよりも、あの大怪鳥を誘導することの方が難しかったという顔だ。


 ガンゲルはようやく理解した。


 要はリヴァイアサンの時と同じだ。


 すべて全部、ゼレットの手の平の上で踊っていたに過ぎないことを。


「いやだ! 認めん! 絶対認めんぞ!!」


 叫びながら、ガンゲルは背を向けて、ゼレットから逃げていく。


 途中また泥に足を取られて転けたが、すぐまた起き上がって、走り出した。


「ししょー、いいのー。ハンターギルドと仲良くしよーって、ちびっこ受付じょーさんから頼まれているんでしょ?」


「それを言うなら、ハンターギルドと料理ギルドの連合だ……。まあ、俺は一介の食材提供者だから、そういう政治部分はオリヴィアと料理ギルドのギルドマスターに任せるさ」


「ふーん」


「それに俺は休み明けだ。今の料理ギルドの状態にさえ疎い、俺が勝手にいうのもおかしいだろう」


「うーん。……わかんないや」


「すまん。お前に話した俺が馬鹿だったよ。さあ、プリム。お前の出番だ。3年のブランクのせいで鈍ってないだろうな。鈍っていても、このズーを街の近くまで持ち帰らせるがな」


「あいー。頑張る!」


 いつも通りプリムは馬鹿力を使って、ズーを持ち上げる。


 こうしてゼレット・ヴィンターも街へと帰還するのだった。


おかげさまで無事、拙作『アラフォー冒険者、伝説となる ~SSランクの娘に強化されたらSSSランクになりました~』が発売されました。

BookWalkerのファンタジーランキングで3位になったりと、好調のようです。

気になる方は、是非コミックスの方をお買い上げいただけると嬉しいです。

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