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第89話 元S級ハンター、押す

おかげさまで新作「300年山で暮らしてた引きこもり」好調です。

一時期、日間総合の2位にまで入る事ができました。

読みに来てくれた方に感謝申し上げます。

続てっぺん取るために頑張っておりますので、まだの方は是非読みにきてくださいね。

「な、なんじゃこりゃ!!」


 ガンゲルがそう叫ぶのも無理はない。


 湿地帯にいたのは、1000匹どころか1万匹に及ぶスライムだったのだ。


「まさか2日の間に増えたのか」


 考えられない話ではない。


 実は昨日も雨が降ったのだ。その時に、またスライムが増殖した可能性は十分に考えられる。


 それにしても、1万というのは多い。


 ガンゲルはもちろん、他のハンターも唖然としていた。


「こ、ここでこうしても仕方がない。1000匹だろうが、1万匹だろうが、スライムはスライムだ! 恐るるに足りん! それにだ。討伐数が増えれば、依頼料も上がる。お前たち、気合いの入れ時だぞ!!」


 己に言ったのか、それとも背後にいるハンターたちを指して鼓舞したのか。


 ガンゲルは腕を高々と掲げて、士気を上げようとする。


 ハンターたちも「付き合うか」と半ば諦めの境地で、ガンゲルに付き従った。


 その時である。


 キュンッ!!


 ガンゲルの目の前の地面がえぐれた。


 乗っていた馬が立ち上がり、手綱を手から離してしまう。


 そのまま落馬してしまった。


 しかし、これでもギルドマスターである。身体だけは頑丈故に、頭を軽くぶつけた程度で済んだ。


 突然の狙撃にハンターたちは慌てふためく。


 ガンゲルを残して、後退してしまった。


「こら! お前ら!!」


 拳を振り上げ叱咤すると、また何か空気を切るような鋭い音が聞こえる。


「ん?」


 ガンゲルが顔を横に向けた瞬間、ちょうど顔の中心に何かが当たる。ガンゲルの丸い鼻から鼻血が出ると、再びひっくり返った。


 そのガンゲルの横でころりと転がったのは、伝声石(マジックフォン)である。すでに通話中にあるようだ。


 そこから、湿った空気とは真反対の明るい声が聞こえてきた。


『しーしょー、豚に当たった。直撃だよー。すごいでしょー。ほめてー』


『ああ。すごいすごい……。だが、顔を狙うのは止めてやれ。これ以上、あのブサイクな顔が変形したら誰かわからなくなってしまうぞ』


『あいー』


『狙うなら、心臓だ。わかったか!!』


「死ぬわ!!」


 ガンゲルはバネのように起き上がった。


 伝声石(マジックフォン)に掴みかかるなり、がなり立てる。


「ゼレット! 貴様ぁ!! なんのつもりだ!! こっちは作戦行動中だぞ!!」


『それを言うなら、こっちだってそうだ。俺のハントを邪魔するな……』


 伝声石(マジックフォン)越しでも漂ってくるゼレット・ヴィンターの強い意志と、そして殺意。


 聞いていたハンターたちをおののかせるには十分だった。


 しかし、この男には通じなかったようである。


「私は脅しに屈しないぞ。料理ギルドに移ったお前が、何故スライムなんぞに興味を示しているのか皆目見当も付かんが、どうせリヴァイアサン()の時のように高い賞金がかかっているのだろう」


『…………』


「くかかかか! 図星か! 3年前と何も変わっていないな! あの時、お前が口を滑らせてどうなったかもう忘れたのか?」


『お前の方こそ、その後どう痛い目にあったか忘れたようだな』


「ぐっ……」


 ガンゲルはその時になって思い出した。


 ハンターたちを囮にされた屈辱と苦汁を思い出して、奥歯を噛みしめる。


「う、うるさい!!」


『ともかくその場から離れろ。俺の作戦の邪魔だ』


「誰がお前の言うことなど聞くものか!! お前の方こそ去れ!!」


『忠告はしたからな』


 ゼレットは一方的に伝声石(マジックフォン)を切ってしまった。


「ちぃ!!」


 ガンゲルは伝声石(マジックフォン)を地面に叩きつける。柔らかい湿地帯の土の上に、すっぽりとハマってしまった。


 くるりとガンゲルは、背後でやりとりを見ていたハンターたちに振り返る。


 すでにハンター達の間では大騒ぎになっていた。


「ガンゲルさん、今のってゼレット・ヴィンターさんですか?」

「あの伝説のハンター……」

「引退したって……」

「俺は育休をとったって聞いたぞ」

「いずれにしろ、伝説のハンターがいるなら、俺たちいらなくね」



 やかましい!!!!!!!



 ガンゲルは喝破すると、まるで竜の嘶きのように広い湿地帯にこだました。


「お前たちに言っておく。ゼレット(あいつ)みたいにはなるな。反面教師としては最高の逸材だが、お前たちのような平ハンター(ペーペー)には毒でしかない。それを肝に銘じておけ!」


 軍隊の鬼教官を彷彿とさせるように、ガンゲルは腰に手を置き、ハンターたちの前を行ったり来たりを繰り返す。


 しかし、有象無象のハンターたちの士気は低く、襟も姿勢も正すこともなく、ガンゲルの長い話が終わるのを待ち続けた。


「いいか。相手がスライムだといって、決して油断するな。これほどの数のスライムだ。群体化してしまったら、一巻のおしまいだからな」


「あの~、群体化って……」


 ハンターの1人が手を上げる。


「ばっっっっっかもん! ここに来る前のブリーフィングで説明したではないか! 何を聞いていた、貴様!!」


 雷が落ちる。


 その迫力にさすがのハンターたちも竦み上がった。


「お前らの頭の容量でも覚えられるぐらい簡潔に説明してやる。スライムが合体することだ。わかるか? ……ここにいるスライムが残らず群体化してみろ。あっという間に我々は飲み込まれるぞ。わかったか!?」


 ガンゲルは声を荒らげると、さらに言葉を付け加えた。


「くれぐれもスライムを刺激するようなことを避けるように。倒す時はそっとだ。ああ。そうだ。雷属性系の『魔法(ルーン)』持ちはいるか? 絶対に使うなよ。雷属性の『魔法(ルーン)』が打ち込まれた瞬間――――」


「あ……」


 1人のハンターの口が開く。


 その視線は宙を泳いでいるかと思えば、ガンゲルの後ろを見ていた。


 しばらくしてハンターたちがにわかに騒がしくなる。何故か逃げ出すものも現れた。


「おい! こら! 何をしておる!!」


 すると、風がガンゲルのお寒くなった頭を通りぬけた。


 肩越しに青白い光が見える。


 ハッとなって、振り返った時、遠くの山の方で雷光が閃いているのがわかった。


「まさか――――」


 ガンゲルが息を飲む。


 その時、ガンゲルの耳朶を打ったのは、元ハンターの冷たい声だった。


『ガンゲル、逃げるなら今のうちだぞ』


「や、やめろ! ゼレット! 何を考えておる! そんなことをしたら――――」


 次の瞬間、雷光が空気を裂く。


「やぁぁぁぁめぇぇぇぇぇろぉぉおおお!」


 ガンゲルの悲鳴が、スライムが渦巻く湿地帯に響き渡るのだった。


押すなよ、押すなよ……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] くっついたスライムが食材とみたっ! ゼリーにしたら美味しいかも?(笑) 夏らしい涼し気な料理でるかなぁ? ドキドキしながら続き待ってまーす! [一言] 書籍版買いました〜♪ ウハウハしな…
[一言] 3年の月日はハンターギルドを芸人ギルドに変えてたんだなw 更新ありがとうございます!
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