表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/222

第88話 元S級ハンターが辞めたギルド

★★ TSUTAYA週間ランキング18位!! ★★

『ゼロスキルの料理番』以来、ベスト20位に入りました。

お買い上げいただいた方ありがとうございます。

「スライムの大群だと……」


 街の北にある湿地帯にスライムが大量に発生した――――その第一報がハンターギルドにもたらされたのは、正午の鐘が鳴る前のことだった。


 そろそろ愛妻が作った弁当を広げようかと思っていたハンターギルドのギルドマスター、ガンゲルは弁当を包んでいた布を摘まんだまま顔を上げる。


 ハンターの減少により、現場に赴くことが多くなったガンゲルの顔は、ゼレットが出て行った頃よりも遥かに陽に焼けていた。


 頑なに白状しようとしなかった鬘も取り去り、今は剃り上がった頭がつるりと光っている。


 おかげで人相の悪い顔が、余計に悪くなっていた。


 しかし、偉そうな口ひげは未だに健在で、弁当の包みを持っていた指を離して、もったいぶった感じで髭を伸ばした。


「はい。その数およそ1000匹以上……」


 部下は抑揚のない声で答えた。


 最近部下がやめたばかりで、今は2年目の新人がガンゲルの秘書と事務を兼任している。


 抑揚がないのは、寝不足のおかげか。


 随分と目の下は黒かった。


「多いな」


「このところ長雨が続きましたからね。スライムが増殖しやすい条件が揃ったのかと」


 スライムがどうやって生まれるのかは、まだ謎が多い。


 有力なのは水の中に住む小さな微生物などが、濃い魔力を浴びて突然変異したというものだが、それにもいくつかの反証が見られる。


 ただ雨の日の後や、湿気が多い状態がなどが続くと増える傾向にあるということだけはわかっていた。


「厄介な数だな……」


 ガンゲルはギルドマスターの椅子に深く腰掛けた。


 スライムは雑魚魔物だ。その気になれば、子どもでも倒せてしまう。その辺の野原にいる毒蛇の方がよっぽど厄介だろう。


 だが、塵も積もれば山となる。


 1000匹ともなればなかなか厄介だ。


「群体化したら取り返しがつかんな」


「その通りです」


 と言った部下の言葉にはあまり緊迫感がなかった。


 群体化というのは、スライム同士が突然変異によってくっついてしまう現象のことである。


 スライム1つ1つは小さくとも、それが1000匹も合体することになれば、それはもはやスライムの“波”と一緒だ。


 下手をすれば、街を丸々飲み込みかねない。ガンゲルたちハンターギルドは、群体化を懸念していた。


「すでに衛兵を通して国から依頼が届いていますが、いかがしましょうか?」


「くそ! 役人どもめ! 自分たちがやりたくない仕事だけ押し付けおって。こっちは便利屋じゃないんだぞ――――痛っ!!」


 ガンゲルは悲鳴を上げた。


 どうやら勢い余って、机の角に小指をぶつけたようである。


 赤い顔をしながら、足首を押さえていた。


「では、ハンターたちに依頼を出します。それと今回の現場指揮官ですが、めぼしいハンターは出払っていまして……」


 ギルドの職員は恐る恐る視線をガンゲルに向ける。


 大勢の魔物を討伐する際、多くのハンターが必要になる。


 ハンターは普段個人で動いている。当然連係なんてとったことがない。現場で初めて顔を合わせる者も少なくないだろう。


 故に効率良く駆除するためにどうしても指揮官が必要になるのだ。その指揮官も、そこそこのネームバリューやランクがなければ務まらない。


 新米が指揮官をやったところで、結局烏合の衆の集まりになってしまう。


 ハンターギルドが凋落する前は、様々な人材がいたが、今は優秀な人材は抜けていく一方だ。


 今流行の食材提供者とやらに転職して、名を轟かせる者まで現れ始める。


 特に――――。


 ギリッ!


 ガンゲルは思わず歯噛みした。


「ガンゲル様?」


「ん? あ、ああ……。なんでもない。わかった。私が現場の指揮に当たろう」


「ありがとうございます。早速、ハンターを手配いたします」


 やつれたギルド職員は目を輝かせると、ガンゲルの気が変わらぬうちに、そそくさとギルドマスターの部屋から出て行った。


 ガンゲルは大きく溜息を吐く。


 回転椅子をくるりと回転させると、背後の窓に視線を向けた。


 眩い夏の日差しに目を細める。


「3年か……」


 ガンゲルは無意識のうちに、その数字を呟いていた。



 ◆◇◆◇◆



 2日後……。


 スライム討伐の準備が完了し、いよいよハンターたちは街から出陣した。


 集まったのは30人ほど。


 下は新人から、上はDランクのロートルまで。


 人材はバラエティ豊かでも、何かパッとしない。


 指揮官となったガンゲルも、葬列の先頭を歩く神父のような気分になってきた。端的に言えば、士気が低いのだ。


「他のギルドに応援要請しますか?」


 ガンゲルの部下が集まったハンター達を見て、肩を落とす。


「ふん! 他のギルドの手助けなどいらん。そもそもスライムとはいえ、街の北方に魔物の大群がいるのだ。それに無関心でおる方がどうかしてる。どうせ臆病風に吹かれたのだろう。放っておけ!!」


 とはいえ、最近ハンターが少なくなってきたため、ガンゲルは他ギルドに応援を要請することは少なくない。


 昔は逆で、ハンターギルドからよそのギルドに出向させるほど人材が抱負だった。


 いつの間にか、立場が逆転したのである。


「いつからこうなった」


 ガンゲルは舌打ちする。


 改めて集まったハンターたちを見つめた。


 少ないとはいえ、よくも30人も集まったものである。


 1000匹とはいえ、相手がスライムだからだろう。クエストの成功率が高いと踏んだ者たちがこぞって集まったわけだ。


 戦地へ向かいながら、ガンゲルは「昔なら」と思い出さずにはいられなかった。


 個性の強いハンターばかりだったが、実力は折り紙付き――というものばかりだ。


 特にまだ『黒い暴風(ダークフォース)』と呼ばれたシェリルがいる時などは、毎日怒ってばかりいたような気もするが、ギルドの経営としては安定していたように思う。


 元勇者を慕って、数多くのハンター志望者が、ガンゲルのハンターギルドに押し寄せてきたからである。


 ところが今はどうだ。スライムの討伐するだけで、準備に2日間もかかってしまった。


 活気ある頃であれば、即日誰かがスライムを討伐しにいったであろう。


「くそっ! これもそれもゼレッ――――」


 ゼレットのせいだと言おうとして、虚しくなって止めた。


 ガンゲルもゼレットのせいではないことはわかっている。元凶を辿れば、あのヘンデローネに付いてしまったことが、1番の問題だった。


 ヘンデローネが北の地へと追放され、なんらかの理由で隣国カルネリアに逃げ伸びた後に、再びヴァナハイア王国に強制送還されたことは知っている。


 今も王国の地下収容所で、臭い飯を食べながら処刑の日を待っていると風の噂で聞いた。


 リヴァイアサンの一件は、結局ヘンデローネの責任として押し付けられたらしく、ガンゲル自身に罪は及んでいない。


 むろんきつい取り調べを耐えることになったが、あれから王宮に呼び出されることはなかった。


 ヘンデローネがすべての罪を被ったのか、とも思ったが、そんな器用なことができる貴婦人ではないことぐらい、ガンゲルもよく理解している。


「ガンゲル殿、あれを……」


 いつの間にか湿地帯に辿り着いていた。


 手綱を引き、ガンゲルは少し高いところからそれらを見下ろす。


「うへ……」


 思わず声が漏れる。


 そこには1000匹どころではない。


 おそらく1万にも達するスライムが、湿地帯の中にひしめいていた。


新作『300年山で暮らしていたひきこもり』も、

おかげさま早くもハイファンタジー部門10位に入りました!

読みに来てくれた方ありがとうございますm(_ _)m


すでに2万文字近くまで投稿しております。

後追いするなら今が好機かと思いますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~

コミカライズ9巻1月8日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる⑨』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス8巻 11月12日発売!
50万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



シリーズ大重版中! 第5巻が10月18日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本5巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本2巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月25日!ブレイブ文庫様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large






好評発売中! 全編書き下ろしですよ~。
↓※タイトルをクリックすると、カドカワBOOKS公式ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる2』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large

小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] 1万スライムかあ……某見た目は子供で中身は社畜のスライムオタクテイマーさんなら大張り切りで全部テイムしてくれそうな案件ですね(苦笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ