第84話 S級ハンターの弟子(前編)
★★ Renta!週間ランキング1位 ★★
★★ hontoランキン 6位 ★★
★★ TSUTAYAランキング14位 ★★
書籍、電子書籍ともに売れてます!!
お買い上げいただいた方、本当にありがとうございますm(_ _)m
果てしない雪原を歩いているようだった。
強烈な吹雪の向こう……。
すぐそこに神獣がいるというのに、視界は真っ白に塗りつぶされていて何も見えない。
すとんと孤独の中に落とされた僕は、押し戻すように吹きすさぶ吹雪の中を歩いて行く。
ザクザクと足音を響かせながら、1歩ずつ歩いていった。
……温かい。
身体が徐々に凍り付いていってるのがわかる。それでも僕が前に進めるのは、胸の中に抱いた小さな神獣のおかげなのだろう。
僕よりも遥かに小さな生物が、白い孤独の中に放り込まれた僕に、勇気を与えてくれる。小さく震える度に、前を進む力を貸してくれた。
「もうすぐだからね」
実は、僕は親の愛情とかそういうものをあまり知らない。
生まれた時から僕は忌み子として、エルフの里の人たちに嫌われてきた。
それは両親だって例外じゃない。
多分、そんな僕がここにいるのは、パメラの両親やシェリルのおかげなのだろう。
そんな僕だけどわかる。いや、知らないからこそ僕は知っているんだ。
この赤ん坊に何が必要かを……。
「神獣! 君が必要なんだ!!」
気が付いた時には、白い氷壁の前に立っていた。
いや、違う。
銀毛だ。
ふわふわという、モフモフというか。
ともかく触り心地の良さそうな銀毛が、吹雪の中で揺れていた。
神獣だ。神獣が立っていた。
僕は胸の中に抱えていた子どもを掲げる。
「君の赤ん坊だよ、お母さん」
話しかける。
すると、ぐわっと神獣は口を開いた。
目は血走っていて、やはり暴走しているように見える。
『ミュー。ミュー』
赤ん坊が鳴いた。
まだ目だって満足に開けられないのに、必死に何かを探している。
母親、それともお乳だろうか。
必死になって頭を動かし、何かを訴えるように声を上げていた。
赤ん坊の声は、暴風雪の中に灯る蝋燭のように弱々しい。
けれど、鈴の音のようにはっきりと僕と母神獣の間に響き渡った。
開かれた神獣の口が、ゆっくりと閉じていく。
冷ややかな金属のような殺意が引いていくのを、僕は感じた。
ゆっくりと頭を動かし、黒い鼻を僕と赤ん坊に突きつける。ヒクヒクと動かすと、大きな舌が飛び出した。
べろり……。
僕ごと赤ん坊を舐める。
ゆっくりと、何か僕たちの体温を味わうかのように。
「ふふふ……」
くすぐったい!
思わず笑ってしまった。
胸の中の子どもも『ミュー。ミュー』と鳴いている。こちらも喜んでいるように見えた。
気が付いた時、吹雪は収まっていた。
いつの間にか空を覆っていた黒雲が徐々に晴れていく。
ついに雲間が開き、明るい月光が街に差し込んだ。
気温が上がっていく。
風に香る匂いも、秋のそれを思わせる。
残ったものといえば、膝下まで埋まった雪だけど、すぐに溶けてなくなるだろう。
ただ街は一足早い冬景色となっていた。
「わぁ……」
真っ白な銀世界に、僕は声を上げる。
そのまま走り出したい気分だった。
けど、その前に僕の身体は当に限界を過ぎていたらしい。
不意に力が入らなくなると、次に目の前が真っ暗になる。
僕は雪原の上に倒れた。
それからのことは、よく覚えていない。