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第82話 S級ハンター、魔剣を振るう

挿絵(By みてみん)


★★★ TSUTAYAランキング7位 ★★★


お買い上げいただいた方ありがとうございます。

後書きには、さらに告知がございます。そちらもお楽しみに!

「『疾風怒濤(ストームブリンガー)』……」


 シェリルがそう呟いた瞬間、急に夜の街が騒がしくなった。


 石畳の上に乗っていたゴミ、枯れ葉、あるいは塵が浮き上がる。側の料理店の看板が軋みを上げて揺れ、窓が独りでに音を立て始めた。


 僕の黒い髪が靡く。


 そして黒瞳の視線が向かう先には 緑色の魔剣があった。


 シェリルが力を入れると風が巻き起こり、纏っている黒コートと尻尾を揺らす。


 空気――――いや、風の流れがすべて魔剣へと集約されていく。


 もはや魔剣は鋭利な刃物というより、特大の暴風を纏った巨大な棍棒のようだ。


「あれがシェリルの力……」


「そうだ」


 僕の呟きに、ガンゲルが反応する。


「あの女は、あの魔剣で魔竜王ブリガルドを討伐し、『黒い暴風(ダークフォース)』という異名がつけられたんだ」


 つまりそれって、勇者の剣。


 僕が知らないシェリルのもう1つの顔。


 魔剣を中心にして渦を巻く風の動きが、さらに活発になる。


 回転が上がり、さらにシェリルの黒髪を乱した。


 そのシェリルの身体が前へと傾く。


 直後、走り出した。


 異名通りだ。


 まさしくそれは『黒い暴風(ダークフォース)』だった。


「でやあああああああああああ!!」


 シェリルの裂帛の気合いが夜の街を切り裂いた。


 それだけじゃない。


 神獣を覆っていた分厚い氷に、一筋の光が走る。


 遅れて光から風が噴き出した。


 氷を押しのけるように暴れ狂う。


 当然氷はバラバラになり、夜空へと舞い上がった。


 白い霜のような煙が辺りを覆う。


 一面が白くなり、僕の視界からでは何が起こっているかわからなかった。


「シェリル……」


 急に不安になってくる。


 保護者のこともそうだけど、神獣のことも心配だった。


 だが、それは僕の杞憂だったらしい。


 煙の中から現れたのは、シェリルだった。


 何かを抱えている。


「もしかして……」


 赤ちゃんだ。


 おそらく神獣の赤ちゃんだろう。


 小さすぎて、先ほどまで目の前にいた神獣の面影すらない。柔らかそうな毛はなく、ほぼ肌が剥き出ているような状態だった。


 シェリルはそんな赤ん坊を抱きかかえた後、僕に差し出す。


「あとは頼んだよ」


 赤ん坊を受け取ると、シェリルは崩れ落ちる。


「シェリル!!」


「あたしのことはいい。それよりも、その赤ん坊をなんとかしてやれ」


「なんとかって……」


 僕は赤ん坊を見つめる。


 小さい。本当に生まれたての子犬ぐらいの大きさだ。


 これがいつか目の前の神獣のように大きくなるのかと思うと、想像も出来なかった。


「おい。その赤ん坊、息をしておらんのではないか?」


「え?」


 ホントだ!


 どうしようこのままだと死んでしまうよ。


「シェリル……。どうしよう! 折角生まれたのに死んじゃうよ、この子」


「…………」


 シェリルから返事はない。


 何とか意識を保っているのが精一杯といったところらしい。


 まずい。神獣の子どもも大変だけど、シェリルも大変だ。


 僕は涙目になっていると、横から怒鳴り声が聞こえた。


「何をしておるか!」


 ガンゲルだ。


 僕から神獣の子どもを取り上げる。


 ハンカチで、丁寧に濡れていた神獣の赤ん坊を拭き取った。すると、鼻の頭や口元を舐め取る。


「何をやってるの?」


「愚か者! 素人は黙ってろ」


 あとで聞いた犬の話だけど、切開して生まれた犬の赤ん坊に呼吸を促す行動だったらしい。


 そう言えば、羊の時も母親が生まれた赤ん坊を舐めていたっけ。


「むむ……。なかなか息をせんの」


「貸して! 僕もやる!!」


 僕はガンゲルから赤ん坊を取り上げると、鼻の頭や口元を舐める。


 しばらくそうしていると、ヒューヒューと呼吸を始めた。


 やった!


 思わずガンゲルとハイタッチをしてしまう。


 これでひとまず赤ん坊の山場は越えたといってもいい。


 問題は側で動かなくなったシェリルと、白い霧の向こうにいる神獣だ。


 依然として空気は冷たく、まるで結界のように霧が僕たちを阻んでいる。


 切開したんだ。母体の方もタダでは済まないはず。


 生きているかどうかすらわからなかった。


 生死の境を彷徨ってるなら、尚更だ。


 ちゃんと生まれた赤ん坊を見せてあげないと……。


「おい! 小僧!!」


 僕は赤ん坊を抱えたまま走り出す。


 胸に抱えた神獣が小さく鳴いた。


「大丈夫……。今、お母さんに会わせてあげるよ」


 折角生まれたんだ。


 このままお母さんのぬくもりも知らず、万が一のことが起こったら、あまりに不憫すぎる。


 あの神獣が今からどんな母親になるかなんて僕にはわからない。


 けれど、決死の覚悟で生んだ子どもなんだ。


 生まれた瞬間ぐらい喜んでくれるはず。


 僕は霧の中に突入する。


「うっ……」


 寒い。


 息を吸うだけで喉が痛くなる。


 側で赤ん坊が震えているのがわかった。


 僕は少し強く抱きしめ、霧の中の神獣を探す。


 すると、獣臭が濃くなるのがわかった。同時に息づかいも聞こえる。


 良かった。まだ生きてる。


 息づかいが聞こえる方へと向かうと、神獣がぐったりとした状態で立っていた。


 真っ白な霜が降りている。


 お腹から流した血や、恐らくシェリルが切ったと思われる臍の緒の跡があった。


 一目見てわかった。


 神獣が危険な状態にあることを。


 1つ幸運なことは、血が止まっていることだ。開いた傷口を凍らし、神獣は自分の血を止めていた。


 きっとこの濃い霧も、患部の氷を溶かさないためのものだろう。


 無理な【使役(テイム)】や、シェリルとの戦い。そして切開による出産。


 それだけの経験をして、まだこういうことができるのは、この神獣がまだ若いからかもしれない。


「起きて。神獣……。君が生んだ子どもだよ。ちゃんと生まれたよ」


 僕が話しかけると、神獣は目を開いた。


 先ほどまで猛っていた猛獣の姿はない。


 子どもに向ける視線は、母親のそれだった。


 口を開き、差し出された子どもをペロリと舐める。


 それに呼応して、赤ん坊も「みぃ。みぃ」と鳴いた。まだ目が開かないけど、それでも母親の匂いと声を覚えように甘えている。


 僕はいつの間にか泣いていた。


 でも、さっぱりその理由がわからない。


 特別悲しいわけじゃない。嬉しさはあるけど、泣く程じゃない。


 ただ僕の中で渦巻いていた感情が一気に爆発した。


 そんな感じだった。


「あ。お乳がほしいんじゃないかな」


 いや、神獣ってそもそもお乳がいるのか?


 全然わからない。


 シェリルとかわかるかな?


『う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛……』


 僕が首を捻っている横で、突然神獣は唸り出す。


 何か警戒させるようなことをしたのだろうか。それとも親子水入らずのところを、人間がいるから。


 邪魔なら……。


『わぁう!!』


 神獣はカッと目を開き、立ち上がる。


 大きく首を振ると、僕を突き飛ばした。


 石畳に叩きつけられる。


「ガハッ!!」


 悲鳴を上げる。


 直後、「小僧!」というガンゲルの声が聞こえた。


 側のシェリルがぴくりと動く。


 僕は一応無事だ。


 ちょっと息ができないし、背中はズキズキと痛いけど、それだけだった。


 シェリルや、あの神獣が受けた痛みに比べれば百倍増しなはずだ。


 咄嗟に抱えた神獣の子どもも無事だった。


 問題は親の方だ。


『う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛……』


 また低い唸りが聞こえる。


 ずっと白い霧の中にいた神獣が、姿を現した。


 金色の瞳を真っ赤に血走らせて……。


 どうしちゃったんだろう。


「ふはははははははは……」


 狂信的な哄笑が聞こえる。


 神獣と共に現れたのは、ラクエルさんだった。


さて、書籍版がお手元にある方はすでにご承知のことと思いますが、

ありがたいことに、『魔物を狩るな~』ですが……。


☆☆☆ コミカライズ 決定しました!! ☆☆☆


すでに漫画家さんには作業に入ってもらっておりまして、

今夏コミックノヴァより連載していく予定です。

小説ともども、そちらの方もお楽しみいただければ幸いです。

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