第7話 元S級ハンター、依頼を断る
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剣と魔法の世界『オールドブル』。
その異名の由来はまさしく『剣』の力『スキル』、『魔法』の力『ルーン』に分けられるからだ。
この世界に住む生きとし生ける者の中には、どちかの奇跡が宿る。
しかし、この世には例外というものが存在する。
『剣』の力――スキル。
『魔法』の力――ルーン。
俺はその力を2つ持つ。
人はそれを『ダブル』と呼び、その中でも俺は2つの属性を持っているため、『魔法剣士』と言われていた。
「『魔法剣士』……。本当に実在していたなんて――あれ?」
憧憬の眼差しで、俺を見つめていたオリヴィアは何かに気付く。
注目したのは、俺の耳だ。
高い襟に隠された俺の耳を指差し、質問した。
「ゼレットさんって、エルフなんですか? その耳…………。でも、普通エルフって、パメラさんみたいに金髪碧眼じゃ」
「プライバシーの侵害だな。それとも、今の質問もギルドの試験の内か?」
俺は冷たい声を響かせる。
すみません、とオリヴィアはしょげると、パメラがフォローした。
「それは訊かないであげて。まあ、色々あったのよ。子どもの頃。……こら。ゼレット、オリヴィアが落ち込んでるでしょ。まだ昔のことを引きずっているなら、髪を伸ばすなり、耳当てをするなりして隠しなさいよ」
「イヤだ。お洒落じゃない」
「もう――――。ごめんね、オリヴィアさん。悪いヤツじゃないのよ、決して」
「それは――――あっ!」
オリヴィアは指差す。
ギルドの入口に逃げ出そうとする3人の婦人たちの姿があった。
オリヴィアに見つかると、足早に退散しようとするが、すぐにその足が止まる。
玄関の前に、銀髪を逆立てた大狼が、歯牙を見せて威嚇していたからだ。
「な、なんだい? この狼は?」
「気を付けろよ、お前たち。最近、飯の量が少ないと、リルは気が立っているんだ。見たところお前たちは不味そうだが、腹の足しぐらいにはなるだろう」
ギルドの玄関に顔を突っ込んだリルは、牙の間から涎を垂らす。
ふん、と鼻から獣臭を吐き出すと、それだけで3人のご婦人方は縮み上がってしまった。
「プリム……」
「師匠、何々??」
「そのご婦人方を縛り上げろ。丁重にな。あとで衛兵に突き出せば、褒賞金ぐらいは出るはずだ」
「あいあい……」
プリムは怯えるご婦人たちの前に躍り出て、俺の言うとおりに行動した。
すっかり戦意を失い、文字通り大人しくお縄につく。プリムの馬鹿力が発揮されるまでもなく、グルグル巻きにされてしまった。
「できたー、師匠」
「お前にしては上出来だ」
「やったー! 褒められた!」
プリムは無邪気に喜ぶ。
ゴロゴロと喉を鳴らして、俺の腕にまとわりついた。
「すごい。未熟とはいえ、戦技使いを含めた4人をあっという間に……。それだけじゃなくて、グバガラを使って地中の強盗を捕まえるなんて」
「それだけじゃないわね~」
やや艶っぽい声が響く。
絶世の美女でも登場するのかと思ったが、ギルドの奥から現れたのは、やたら胸襟の大きなおっさんだった。
派手な紫色の髪に、やたら化粧っ気の高い大きな瞳。
俺よりも背が高く、見事な逆三角体型。身体こそ男らしくみえるが、唇には真っ赤な口紅を塗り、マスカラを使った睫毛は長く、上に向かって孤を描いている。
「ぎ、ギルドマスター!!」
「こ、こんにちは、ギルさん」
オリヴィアは声を震わせる一方で、パメラは親しげに手を振った。
こいつが料理ギルドのギルドマスター?
料理人? それとも食材提供者か?
いや、そもそも男なのか? 男……でいいんだよな。
呆気に取られていると、ギルドマスターは俺の方を向く。
俺の肩に手を置いたと思ったら、今度は二の腕、胸、肩甲骨、果ては脹ら脛をパシッと両手で叩いた。
「いい足ね~~」
「はっ?」
「ほれぼれしちゃ~う。ゼレットくぅん、だったかしら?」
「あ、ああ……」
Sランクの魔物を前にして、仰け反ることがない俺が、何故か本能的な危険を察して、後ろに1歩下がった。
「見事な手並みねぇ。それになかなかのイケメン。私ほどじゃないけどね、なんちゃって」
ギルドマスターは1人で戯ける。
引き続き呆然としていると、指でチッチッチッと降った。
「……で~も、グバガラの実をここまで成長させたのはな~ぜ? あなたの腕なら地中にいる強盗たちを捕まえることも造作もなかったと思うけどぉ」
「ヤツらがどこまで掘り進めているのかわからなかったからな。それならグバガラに捜してもらった方が早いと考えた。ヤツらは地中を掘る時に、必ず土属性の魔法を使っていたはずだ。グバガラならその魔力に必ず反応して、根を伸ばすだろう」
俺の答えに、ギルドマスターは大げさに拍手を送る。
「すんばらし~~い」
「すごい。そこまで考えていたなんて」
説明を聞いて、オリヴィアもまた賛辞を送った。
ギルドマスターは周囲に張った幹や根を見ながら、言葉を続ける。
「結果的にぃ、グバガラの根や幹がギルドに張り巡らされたことによって、強盗たちは退路を失ったのねぇ。壁を破ろうにも、魔法は使えない。戦技使いも倒しちゃった。強盗を捕まえるための檻に、ゼレットくぅんは魔改造したわけね~」
「ハンティングの基本は、獲物の行動を予測すること、そして獲物の行動を抑止することだ。最後のトドメはその結果でしかない」
俺は説明を付け加える。
ギルドマスターは口端を広げると、再び手を叩いた。
「さすがはS級ハンター……。口もお上手なのね」
「元だ。――――で、俺は試験に合格できたのか?」
「も~ちろん! おめでとう、ゼレット・ヴィンターちゃん。君は今日から料理ギルドの食材提供者よぉ」
ギルドマスターはその場で会員証に判子を押す。赤い判子がついた会員証を俺の方に掲げた。
その会員証を見て、喜んだのはパメラだ。
いきなり俺の方に飛び込んできた。
「やったね、ゼレット! おめでとう!!」
「ふん」
「もう! ちょっと喜びなさいよ、ゼレット」
「当然だろう。……パメラが推薦したのだからな」
「ぜ、ゼレット……」
パメラは、ぽわんと頬を赤らめる。
熱くなった頬を手で隠し、ピンと立ったアホ毛をクルクルと回した。
なんだ、その反応。
別に俺は、落ちたら推薦したパメラの根回しが甘かったのだ、と言いたかったのだが、まあいいか。
「師匠、おめでとう! ご飯、食べられる?」
「はっ?」
「だって、ここ料理ギルドでしょ? ご飯、食べるところじゃないの?」
プリムの飛んでもない発言は、みんなに聞こえたらしい。
ドッと笑いが起こり、先ほどまで殺伐としていた空気は吹き込んだ風と一緒に外へと出て行ってしまった。
――ったく、バカ弟子め……。
俺は襟を立てて、顔を隠すしかなかった。
「さ~て、ゼレットくぅん。早速だけどぉ、あなたに依頼したい食材があるのよぉ」
「ほう……」
「すごいじゃない、ゼレット! いきなり依頼を貰えるなんて」
「どんな依頼だ? 魔物の名前は?」
「なかなか手強い相手よぉ。今のところ、どの食材提供者にも頼めなくて困ってるのぉ。その中にはゼレットくぅんのような元ハンターも含まれているんだけどぉ、全員断られちゃったわぁ」
ギルドマスターはくねくね身体を動かし、俺の方にすり寄る。
そして1枚の紙を俺に見せた。
まるで賞金首を描いたようなビラに、1体の魔物が描かれている。
3つの首を持つ竜種であった。
「三つ首ワイバーン……。珍しい種類の飛竜ね。ゼレットくぅんにこの三つ首ワイバーンの肉を提供してもらいたいの~」
ギルドマスターは挑戦的な笑みを見せる。
俺は紙を受け取り、描かれた三つ首ワイバーンをしげしげと眺めた。
そして、こほんと咳払いし、喉を整えるとこう宣言する。
「断る」
…………。
え、ええぇぇ……。
先ほどまで喝采が送られていたギルド内は、途端に失望と沈黙に満たされるのだった。
ハイファンタジー部門では1位となりました!
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