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【コミック発売中】魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~  作者: 延野正行
第5章

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第75話 S級ハンター、依頼を受ける

「シェリル! 今さら何しに来た!!」


「ああん!! こちとら、うちの弟子に怪我までさせてんだ。黙って、慰謝料を払えや、ガンゲル!!」


 シェリルとガンゲルは互いに腕まくり、睨み合う。


 ハンターギルドのギルドマスターの執務室は、拳闘試合の様相を呈していた。


 僕はいつものことだと思って割り切っていたけど、たまたま執務室にいたラクエルさんは見慣れない大人同士の喧嘩に、おろおろと戸惑っている。


 しばし試合前の拳闘士みたいに接近した2人は、揃ってそっぽを向いた。


 シェリルは執務室の中にあるソファにふんぞり返れば、ガンゲルもまた自分の執務椅子に座ると、紫煙をくねらせた。


「えっと~~……」


 なかなか話が進まないことに、痺れを切らした僕は、顔を赤くしたガンゲルに向かって口を開く。


「ガンゲルさん、僕……迷い猫を見つけました」


「なんだと?」


「本当かい、坊や??」


 ラクエルさんは「神よ」とばかりに僕の前に膝を突いた。


 僕の両肩に手を置き、激しく揺さぶる。


「あの子はどこにいた? 元気だったかい? 何か! 何か情報をおくれ! ボクはあの子のことが心配で心配で」


 これまでシェリルやガンゲルの態度に戸惑うだけの伯爵様が感情を露わにする。


 藁にも縋るというか、とにかく必死で、人が変わったようだった。


 身体を揺さぶられながら、僕は少し怖かった。


「ちょっと……」


 居竦んでいる僕を助けてくれたのはシェリルだ。


 ラクエルさんは我に返り、「すまない」と手を引く。胸を押さえ、心底ホッとした様子で項垂れる。


「ガンゲル、とりあえず事情を話せ。むろん、あの馬鹿でかい猫についてだ」


「………………ま、仕方ないか」


 葉巻を灰皿に押し付ける。


 ガンゲルは依頼書にない情報を語り出した。


「ラクエル殿は『戦技(スキル)』【使役(テイム)】の持ち主だ」


「テイム……?」


 僕はシェリルの方を向く。


「馬や牛、果ては魔物を自由自在に操る『戦技(スキル)』だよ」


 そんなのがあるのか、凄い。


 目を輝かせて、ラクエルさんを見ると苦笑が返ってきた。


「で? そのラクエル殿が使役していた魔物が逃げた、と……」


「え?」


 今度はガンゲルの方を向くと、あっちは苦虫をかみつぶしたような顔で、シェリルを睨む。


「察しがいいな、さすがはS級ハンター」


「黙れ。お前に言われると虫酸が走る。――――で? 逃げた魔物の種類は? 何故、街の中にいる?」


 この時の僕は不勉強で知らなかった。


 【使役(テイム)】によって捕まえた魔物を街に入れる際、街と関係ギルドの許可が必要になるらしい。場合によって檻で運ぶこともあるそうだ。


「それは――――」


 ガンゲルが言葉を濁すと、代わりにラクエルさんが語った。


「ボクはその……魔物の診療をやっていてね」


「魔物の診療?」


「ああ……。貴族の業務の傍らで、君たちのようなハンターが仕掛けた罠で手足などを欠損した魔物を保護して、治療し、野生に返す仕事をしている」


 じゃあ、ラクエルさんはお医者さんなのか。


 なるほど。あの時に感じた薬の匂いはそれか。


「感心しないな。ハンターが仕掛けたのは、魔物が害獣だからだ。その魔物を治療するなんて」


「君たちの仕事を蔑ろにしようとは思っていない。ヘンデローネ侯爵夫人のように声高に魔物の保護を訴えるようなことも、ボクはしないよ。ただ彼らが可哀想でね」


 そう言うラクエルさんは、まるで童心に返ったように笑っていた。


 魔物が可哀想か。


 僕はそう思わないな。だって、僕の村は――――。


「じゃあ、なんでその魔物がうちの街を徘徊してる? 首輪もなしにだ」


 シェリルは詰問を続ける。


「年に1度、蒐集した魔物を国王陛下に見てもらうお披露目会があってね。その道中で檻を破り、魔物がこの街に逃げ込んでしまったんだ。街の住民には申し訳なく思っている」


「それにしたって、【使役(テイム)】をしている魔物が檻を破って出て行くなんて相当だぞ?」


「それについても申し訳ないとしか言いようがない。まさか逃げ出すなんて。ボクにも想定外だったんだ」


「で――――さっきから話を逸らし続けているが、一体何が逃げたんだ?」


 シェリルの目が据わる。


 思わずゾッとしてしまった。


 本気で怒っている時のシェリルの顔だ。


 それはガンゲルもラクエルさんにも通じたらしい。2人は一瞬押し黙った後、ラクエルさんは重い口を開いた。


「あれは僕にもわからない。おそらく新種の魔物だと思う」


「新種……」


 シェリルは目を細める。


 確かにあんな魔物は見たことがない。


 触ると心地よさそうな銀毛に、黄金色の瞳。狼系はたくさんいるけど、そんな魔物は図鑑にはなかった。


 あんなに綺麗でかつ獰猛な狼系の魔物はいないはずだ。


「わかった……」


「シェリル、どうするの?」


「今さら引き下がるわけにはいかないだろう」


「おお。依頼を受けてくれるか、シェリル」


 初めてガンゲルの顔が綻ぶ。


 それを見た時のシェリルの表情もまた、苦虫を噛みつぶしたみたいだった。


 すると、僕の頭に手を置く。


「すでにうちの弟子が巻き込まれてるんでな。黙って引き下がるわけにはいかないだろう」


「よし……」


 ガンゲルは拳を振り上げる。


「ラクエルさん、安心して下さい。このシェリルという女は口こそ悪いですが、優秀なハンターです。あなたの魔物をきっと見つけだしてくれますよ」


「おお……。シェリル殿、よろし――――」


「ただし! ラクエルさん、あんたにも同行してもらう」


「え?」


 思ってもみなかったらしく、ラクエルさんはシェリルに下げた頭をピンと伸ばした。


「あんたは飼い主だろ? その新種の魔物とやらには詳しいはずだ。ヤツはどういうわけか、巧妙に街の中に潜伏している。飼い主の見地から、少しでもいい。ヤツがいそうな場所を推察してくれ」


 ラクエルさんは1度ガンゲルと目配せする。


 先に目を伏せたのはガンゲルだった。


「……やむを得ないかと、ラクエル殿」


「むしろ有り難い申し出です。ボクも宿で待っているよりはずっといい」


 ラクエルさんは同意する。


 皆が新種の魔物を捕獲する中で、1番納得がいかないのは僕だった。


「シェリル! 僕も! 僕も同行する!!」


 手を上げる。


 その手をかいくぐり、シェリルは僕の顔に顔面クローする。痛ててててっっっ!


「やかましい! ちょっと黙ってろ、お前は」


「痛い! ……で、でも、この依頼を最初に受けたのは僕だよ。僕から依頼を取らないでよ」


「ガキがませたことを言ってんじゃないよ」


「いやだ! 僕も同行する!」


「ああ! そうしろ!!」


「え?」


 その瞬間、シェリルは僕から手を離した。


 すとんと脱力した僕は尻餅を付く。背の高いシェリルを見上げた。


「誰がお前を外すと言った? お前は魔物を釣る餌だ」


「え、餌ぁ??」


「相手はあの巨体で街中に潜伏できるほど賢い魔物だ。ちょっとやそっとの揺さぶりや罠にも動じないだろう。だが、お前にはまだ昨日の魔物の匂いがついてる」


「あ…………」


「自分と同じ匂いの人間が徘徊している。何らかの興味を示すはずだ。……それにお前、なんかあいつが興味を示すようなものを持ってるだろ?」


 それはわからないけど、シェリルの言う通りだ。


 昨日の魔物の仕草。


 僕を食おうとしているのではなくて、何かを探しているようだった。


「ホントに僕が同行してもいいの?」


「ああ……。デカい大魚を釣ろうじゃないか?」


 シェリルは親指を立てるのだった。



 ◆◇◆◇◆



 早速、シェリルはラクエルさんとともに聞き込みに回った。


 街の中を足が棒になるぐらい練り歩いたけど、特に情報を得られない。皆、魔物ではなく例の宝石強盗のことを恐れているようだ。


「おや、シェリルさん。珍しいね、こんな時間に。いつもは酒場が開く頃にしか起きてこないのに」


 声をかけたのは、宿屋「エストローナ」の主人――パメラの親父さんだ。


「いつもはっていうのはひどいなあ、主人。まあ事実なんで否定はしませんけど」


「がはははは……。ところで、そちらの方は?」


「ラクエル伯爵殿です。この街に来るのは初めてらしく、あたしが案内を」


 シェリルが紹介すると、ラクエルさんは小さく会釈した。


「ああ。なるほど。それと――――」


 主人が空を仰ぐ。


 シェリルが大きな木の枝を担いでいて、まるで釣り竿の先端についた餌のようにぶら下がっていたのは、僕だった。


「シェリル! 下ろしてよ!!」


 縄で縛られ、身動きが取れない僕は涙目で訴える。


 枝の先端に吊されている恐怖よりも、周囲から受ける視線があまりに恥ずかしくて死にそうだった。


 あと、おトイレ……。


 そしてそこに追い打ちをかけるようにやってきたのは、パメラだった。


「あら? シェリルさん――――って、ちょっとゼレット、何をやってるのよ?」


 はあ……。パメラだけには見られたくなかった。


「あなた、あの後真っ直ぐ帰らなかったんでしょ。シェリルさんが怒るのも無理ないわ」


 人が海老みたいに吊されているのに、パメラは逆に僕を叱り付ける。


 なんていう勘のいい幼馴染みなんだ。


 有り難すぎて、涙が出そうなんだけど……。


「シェリルさん、ごめんなさい。あの時わたしが念を押しておくべきだったわ」


「パメラちゃんはしっかりしてるねぇ。うちのゼレットの嫁にするには勿体ないぐらいだ」


「よ、嫁ぇぇえええ!! そ、そそそそそそんなことあり得ません」


 パメラはぶんぶんと金髪を振って、否定する。


「あはははは。振られたな、ゼレット」


 もうどうにでもして……。


「心配しなくてもいい。これは本人が志望したんですよ。海老で鯛を釣るそうです」


「……??」


 親父さんとパメラは首を傾げる。


 シェリルは満面の笑みで微笑んだ。


「こちらの話です。案内があるので、あたしはこれで……。ああ。迷い猫の話。よろしくお願いします」


「ああ。うちに泊まっているハンターや冒険者どもにも聞いておくよ」


 そこで親父さんとは別れた。


 結局、街の聞き込みも空振りに終わり、痕跡も見つけることができなかった。



 だけど、その日――奇跡的に出ていなかった死者がついに出てしまった。


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