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第71話 元S級ハンター、告白する

第4章完結です。

 久しぶりの遠征は色々あった。


 幻の魔物『スターダストオークス』から始まり、カルネリア騎士団が加わっての大騒動。そして初めて飲んだ『星屑ミルク』の感動は、一生忘れられないだろう。


 そして故国カルネリアへの帰郷。久方ぶりの弟子との再会。その後ヘンデローネとも再会するとは思わなかったがな。


 ケリュネア教の壊滅と、カルネリア王の謁見……。


 『色々』とは言ったが、『色々』という言葉の範疇を超えているな、これは。


 だが、中でも記憶に残るのは、パメラとキュールの活躍だろう。


 実際『星屑ミルク』はパメラとキュールがいなければ取れなかったし、ケリュネア教については、俺とリル、プリムだけでも問題なかったかもしれないが、時間はかかっていたかもしれない。


 それに、あの破壊された集落を見た時、側にパメラがいてくれたことが大きい。


 パメラは俺が昔『黒い絶望』と呼ばれていた時を知っている。


 もし、パメラがいなければ、俺はあの時――――――。


『キャアアアアアアアアア!!』


 悲鳴が上がる。


 あてがわれた王宮の一室のベッドで寝そべり、これまでの旅程について思いを馳せていた俺は、飛び起きた。


 隣の部屋だ。


 確かパメラの部屋があるはずである。


 ベッドの横で力尽き、リルと共にぐっすり寝ているプリムを横に見ながら、俺は隣の部屋に向かった。


 パメラは貴重な『精霊使い(エレメンタラー)』である。


 精霊と交信できるどころか、それと契約できる人間など、世界でも指折り数えるほどしかいない。


 彼女の噂を聞きつけ、誘拐しようとする人間がいてもおかしくない。


「パメラ!!」


 俺は砲剣を構えて、扉を開ける。


「キャアアアアアアア! な、何これ!! す、すご!! 一気にお肌がプルンプルンになっちゃった。こんなアメニティ、無料で置いてるなんて、さすがは王宮だわ。……ゲッ!! しかも、こっちはギャーバの高級香水じゃない。……これ本当に持って帰っていいのかしら。ていうか、ほしい! めちゃほしい! うちの宿屋とかにおいたら、『エストローナ』に来てくれる女性客が増えると思うのよ。まあ、その前にむさい男どもを排除しないと――――って、あら? ゼレット、何? いたの?」


 パメラは化粧水で艶々になった顔を、俺の方に向けた。


「何?」と問いかけつつ、持っていた高級香水をワンプッシュする。


 どうやら杞憂だったらしい。


 よく考えてみれば、王宮の硬いガードの中でパメラを狙うよりも、隙間風がひどい『エストローナ』にいる時を狙った方が、確実性は高まるだろう。


「ゼレット、今そこはかとなく『エストローナ』のことを馬鹿にしたでしょ」


 こいつ、『精霊使い(エレメンタラー)』じゃなくて読心術使いだったのか。


「そう言う顔をしてる」


「どういう顔だ」


 やれやれ、と首を振った。


「家主だもの。すぐにわかるわ」


「なら、幼馴染みの悲鳴を聞いて慌ててやってきた俺の心境も汲み取ってくれ」


「あら? ごめんごめん。もしかして、心配して駆けつけてくれたの?」


「…………」


 俺がジト目で睨むと、パメラは笑って誤魔化した。


「ごめんってば。だって、しょうがないじゃない。ここって、もうお姫様が泊まるような場所なのよ。女子として、テンションが上がるのは仕方ないことよ」


 天蓋付きのベッド。クローゼットにはTPOを弁えたドレスが数着。今、パメラが座っているドレッサーの鏡は綺麗で、引き出しを開ければ、高級品のチークなどがそれぞれ揃っている。


 ベッドも、シーツも清潔で、『エストローナ』とは雲泥の差だ。


 どれも庶民には縁遠いものばかり。


 英雄譚の中の世界と言われれば、確かにそうだ。


「お姫様か……。その場合、竜に攫われて、地下の洞窟に閉じ込められるのはお前だぞ」


「大丈夫よ。強い竜を討ちたくて、うずうずしてる王子様がいるんだもの」


 それって俺のことか……。


 否定はしないが。


「ふふふ……」


 パメラが笑い出せば、俺も釣られて笑ってしまった。


「「あははははははは!!」」


 色々とあったが、なかなか楽しい遠征だった。リルとプリムがいれば、それだけで騒がしいのだが、今回輪をかけて楽しい。


 不意に昔を想起させることもあったが、それでも悪くないハントだった。


「はしゃぐのはいいが、早く寝ろよ。明日にはここを立って、ヴァナハイア王国に戻るんだからな」


「え? 戻るの? 残りの食材をカルネリア王国で見つけるんじゃ?」


 俺に依頼されていた食材は、計5つだ。


 まずスターダストオークスから搾った『星屑ミルク』。これがまずメインになるだろう。


 さらに『神の使い』と言われたケリュネアの肉だ。


 これに3つの食材が加わる。


 1つはフラワーオニオン。


 魔物ではなく、こちらは魔草だ。生で食べると強烈な疲労回復効果があったり、煎じて飲むと便秘の改善など、様々な効果がある。


 魔草としても、食材としても有名だが、カルネリア王国にしか生えていない珍しい魔草だ。


 2つ目はミサイルキャロット。


 Dランクの魔樹で、赤い人参のような実を砲弾にして飛ばしてくる厄介な魔物だ。ちなみにミサイルという言葉は、古代語で『砲弾』を意味するらしい。


 最後は爆弾芍(ばくだんしゃく)


 ミサイルキャロットと同様に魔樹の一種で、一見綺麗な白い花を咲かせる魔樹だが、その近くを踏むと地中で膨らんだ茎が爆発するという仕掛けを持つ。


 人間の足ぐらいなら吹き飛ばすのは容易で、その血に含まれる魔力を吸って生きるという、ちょっと曰くありげな魔樹だ。


「ほら、触ってみろ」


 俺が道具袋から1つ取り出す。パメラの方に放り投げると、見事その手の平に収まった。


 外皮は黒く、ちょっとグロテスク。ただゴツゴツとした表皮は、馬鈴薯とよく似ている。


「ゼレット、これ……」


「爆弾芍だ」


「ひ、ひぃいぃいぃぃい!!」


 慌ててパメラが爆弾芍を俺に放り返す。


「ちょ! ちょっと! いきなり何をするのよ、ゼレット。爆発したらどうするの? ここ王宮なのよ」


「心配するな。感知器になってる“芽”の部分は全部取り除いてある。爆発することはもうない」


「あらかじめ説明で聞いてたから知っていたけど、爆弾芍のインパクトが凄いわ。それ、食べるのよね」


「魔物のほとんどが、そういう生物だ。俺たちも一緒で生きることにヤツらも必死なのを忘れるなよ」


 魔物食が広まることによって、少し懸念していることは、魔物が食用化されていくことによって、それ自体が危険な生物であることを忘れてしまうことだろう。


 普段、何気なく口にしている牛や豚も、自然で遭遇すれば、人間に害を与える動物なのである。


 それは決して忘れてならないだろう。


「ここに爆弾芍があるってことは……」


「ああ。他にもあるぞ」


 俺は玉葱というよりは、真っ白なレンゲを思わせるようなフラワーオニオンと、人参よりもさらに赤いミサイルキャロットの実の部分を差し出す。


「いつの間に!」


「ん? 確かフラワーオニオンはケリュネア教のアジトを探るついでに、拝借した。ミサイルキャロットと爆弾芍は、エトワフの森でパメラと別れた時に、スターダストオークスの子どもに見つからないように採取したが、何か問題があったか?」


「…………」


 パメラは頭を抱える。


 ん? 俺、なんかおかしいことをしただろうか。


「ごめん。最近ゼレットのそういうところを見ていなかったから、忘れていたわ。そうよね。あんたからすれば、Dランクの魔物なんて、薬屋で薬草を買いにいくのと同じぐらい簡単なことよね」


 それは違うぞ、パメラ。


 薬屋で薬草を買うには、金が必要だ。ちょっと奮発したランチより高いぐらいだが、その金を稼ぐことより、ずっと簡単なことだぞ。


「でも、そうか。じゃあ、これで旅は終わりなのね」


「ああ。お前には助けられた、パメラ」


「私の力っていうよりは、キュールのおかげでしょ」


「キュールは契約者であるお前の言うことだから聞いているのだ。実質、パメラの力なんだよ。そろそろ自信をもったらいい」


「元S級ハンターが言うなら、そうなんでしょうね。ありがと、ゼレット。私、これからも色々やれそうだわ」


「それにだ」


「え?」


「集落の時、パメラが側にいてくれて良かった。アジトに行って、ヘンデローネを見つけた時もだ。お前がいたから、多分俺はあの侯爵夫人に引き金を引かなかった」


「ぜ、ゼレット……。今日はいやに私を称賛するわね。なんか照れくさいというか、逆に気持ち悪いまであるんだけど」


「気持ち悪いはないだろ」


「あははは。うん。ごめん。それはごめん」


 パメラは苦笑する。


「1つ言えることは、お前がいなければ、俺は人の道を外していたかもしれないということだな」


「わかるよ。ゼレットに起こった昔のことをみんなが聞いたら、今のゼレットの気持ちを理解してくれると思う。けど――――」


「ああ。殺しはダメだ。それはお前や師匠に教えられたからな」


「ゼレットがまだ幼い頃のことに苦しんでるのは知ってるから。また苦しくなったらいってよ。話を聞くことしかできないけど」


「その上でだな。……色々と今回の旅を通して、総合的に考えたことがある」


「え?」


 パメラと俺の視線が合わさる。


 そして、俺は口を開いた。


 なんの躊躇もなく。


「なあ、パメラ……」



 俺の相棒になってくれないか。


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