表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

67/222

第66話 元S級ハンター、誘発する

総合ポイント73000pt超えました

ブクマ・評価いただいた方ありがとうございます。

「見たか、ヘンデローネ。これがお前が信頼してきたものの姿だ」


 俺は耳飾りについた伝声石(マジックフォン)越しに話しかけるも、答えは返ってこなかった。


 予想はしていたが、ヘンデローネのような者にとって、その真実は重くのしかかったことだろう。


 なんてことはない。よくある話だ。


 密猟者から動物を守る組織の実体が、本当は密猟組織だったなんてことは……。


 ケリュネアが狩ることができなくて、1番困るのは何も農業に従事するものだけではない。密猟ができなくなった密猟者だ。


 そして往々にして、犯罪とわかって犯罪を犯す者は、如何にうまく犯罪を犯すか考えるものだ。つまり悪知恵が働く。


 その結果がこれだ。


 おそらくケリュネア教ができたのは、ケリュネアの保護政策が生まれた時だろう。表ではケリュネアへの信奉を訴え、保護し、自分たちで頭数を調整しつつ、闇市場で角と蹄を売りさばいていたのだろう。


「――――とまあ、ここまでが俺の予測だが、あながち間違ってはいまい、大主教殿」


『おのれ!!』


 瞬間、俺は銃把を引いた。


 大主教が指に嵌めていた指輪の宝石が吹き飛ぶ。粉々に砕け散り、辺りに飛散した。


『がががががががああああああ!!』


 大主教の悲鳴が伝声石越しに聞こえた。


 遠眼鏡で見ると、手を押さえて蹲っている。きっちり宝石を狙ったが、指の骨か、あるいは指そのものが吹っ飛んでいてもおかしくない衝撃があったはずだ。


「痛いか、大主教。だが、その痛みの何千倍もの苦痛をお前は、この国と、その民、さらに信者にも与えてきた。ヘンデローネのように本気で魔物を保護しようと考えた人間の心まで弄んだのだ」


『――――っざけるな、ハンター風情が正義の使者気取りか!! お前たち! 何をぼうと突っ立っておる。早く狙撃手の居所を探し当てろ! 一体、どれだけ時間がかかっておるのだ? やれ! 奴を殺せ!!』


 悪鬼のように大主教は豹変する。


 すぐに信者が動き、その周りを囲い、大主教を守護する壁となった。


 化けの皮が剥がれても、人望があるらしい。しかし、全員というわけではない。信者の一部には従わない者もいる。ヘンデローネもその1人だ。俯いたまま静かに佇んでいる。


 ここに強制的に連れてこられた者たちは、趨勢を眺めていた。


『やれ!! お前たち!! 神の裁きを……』


 信者たちの嵌めていた指輪が光る。


 ケリュネアを操る魔導具が一斉に起動を始めたのだ。


『ぶははははははは!! 見ろ! これが我らの力だ。国ですら、この力に恐怖し、我々に手を出すことができなかった。見よ、偉大なる神の裁きを!!』


 伝声石越しに大主教の高笑いが聞こえてくる。


 俺は再び銃把を引いた。


 弾丸は軽い衝撃を持って、信者の肉壁を越えて大主教の胸に当たる。


 再びスッ転ぶはめになった大主教に、更なる受難が襲う。


 当たった弾が炸裂し、現れたのは大量の煙だった。


『ご、ごほ!! ごほ! ごほ!! なんだ、この煙は? むせる! 臭い!!』


 奇妙な紫色の煙を吸い込み大主教は涙目になる。周囲で肉壁になっていた信者も巻き込まれ、むせていた。


『この匂い?! もしかして……』


『ワッシュ!!』


 パメラの声が聞こえる。側でリルがくしゃみをしていた。


「パメラ、リルから離れるなよ」


『え? うん……』


『ゼレット・ヴィンター、貴様何をした!?』


「先ほど俺は言ったな、大主教。お前は国と民と、そして信者を惑わせた。だが、もっともお前から被害を受けた者がいる」


『な、なにぃ?』


「それは、そいつの仕返しだ」


 コツッ……。


 伝声石(マジックフォン)越しに、硬い蹄の音が聞こえる。


 1つや2つではない。それも無数にだ。


「来たな」


 俺はスコープを少し動かす。


 それはすでにアジトの周りを包囲していた。


『ケリュネア!!』


 巨大な鹿の魔物がゆっくりとアジトの中心へと迫ってくる。雄は黄金色の角を振り、雌は赤黒い瞳を光らせていた。


 誘われるように大主教の下へと集っていく。鼻息を荒くし、口から泡と涎を垂らして、頻りに舌を出していた。


『な、なんだ? 何かおかしくないか?』


「大主教、その煙はな。グバガラの樹の匂いを凝縮し、粉にしたものだ」


『なんだとぉ!!』


「元密猟者なら、グバガラの樹がどんな効力を持っているか知っているな。人間にはわからないが、魔物にとっては魔薬のようなものだ。花の蜜に群がる蜂だよ」


 ケリュネアは大主教たちの意に反して近づいてくる。


 ふん、と鼻息を荒くすると、大主教や信者たちは、ぶるりと震え、過剰に怯えた。


『き、貴様!!』


「ケリュネアの怨念はさぞ積もっていることだろう。人間にいいように使役され、利用され、最後は解体されて、自分の一部を薄汚い金に換えられた。俺なら間違いなく、呪い殺している」


『ひぃ!!』


 大主教の引きつった悲鳴が聞こえる。


『言うことを聞け、ケリュネア!!』


「無駄だ、大主教……。どうやってケリュネアの意志を操っているのかは知らないが、魔物にも人間にも抗いがたい欲望というものがある』


『そ、それは――――』


「食欲だ……。ケリュネアにとって、今のお前達はおいしそうな匂いをさせた――――」



 ご飯なんだよ……。



『やめろ!! お、お前! こんなことをして良いと思っているのか。こんなもの私刑だ! 許されるはずが……』


「別に……。ケリュネアを呼び込んだのは、お前だ。そしてケリュネアの恨みを買ったのもお前たちだ」



 その怨念にまみれながら、地獄で後悔するんだな……。



 ケリュネアが大きく口を開けるのが見えた。


『ひぃ……』



 ひぃぃいいいいいいいいいいいいい!!



 大主教の声が響き渡るのだった。


6月15日に『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~』が発売されます。

詳細は近日中に……。是非お買い上げ下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~

コミカライズ9巻1月8日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる⑨』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス8巻 11月12日発売!
50万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



シリーズ大重版中! 第5巻が10月18日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本5巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本2巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月25日!ブレイブ文庫様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large






好評発売中! 全編書き下ろしですよ~。
↓※タイトルをクリックすると、カドカワBOOKS公式ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる2』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large

小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ