第62話 元S級ハンター、連係する
ケリュネア教が立てこもっているセレネールの森に、俺たちは到着した。
ヴァナレンの言う通り、森の中はトラップまみれだ。どれも巧妙に隠されていて、1フィット進むだけでも至難の技になっている。
罠を無視して進むことが可能だが、その場合リルやプリムが犠牲になる可能性もある。
ケリュネア教に気取られる可能性もあるからな。
そこで森と言えば、奴の出番である。
『きゅるるる~』
キュールが声を上げる。
自ら率先して罠にはまるが、すぐに霊体化して難を逃れる。
さらには罠のあるところを、この森に住む精霊たちが教えてくれるらしい。
キュールとこの森の精霊の活躍があって、俺たちはトラップに引っかかることなく、進むことができた。
「キュール、大活躍ね。ありがと」
『きゅるる~!』
パメラに思いっきり抱かれて、キュールは少し赤くなった。
考えたこともなかったが、キュールって男と女どっちなんだろうか。
そんなことを考えながら、歩いていると、建物が見えてきた。
「集落だわ」
一旦茂みに隠れ、様子を見る。
そこは原始的なエルフの集落だった。
他の木々とは一線を画す大きな大樹を中心にして、畑が広がり、水路が敷かれている。木をくりぬいた住居の玄関は狭く、大型の魔獣が入ってこないようになっている。そこに親子4~5人で川の字になって眠るのだ。
街で暮らすエルフとは違った牧歌的な森の民の姿が、そこにあった。
「なつかしいわね」
『きゅる?』
何? 何? という風にキュールが上を向く。
パメラが話しかけたのは、俺だろう。苦笑いを浮かべて契約精霊に応じた。
「私たちが昔住んでいた村もあんな感じだったの。今は街に住んでるから、想像も付かないかもしれないけど」
そう。今、目の前にある集落は俺たちが住んでいた村にそっくりだった。
無論場所が違うから、全く違うのだが、思わずフラッシュバックしてしまった。今は亡き、俺の故郷を……。
ああして、鍬を振るい、種を蒔き、狩猟に出かけて森の恵みを得る。そんな日常が当たり前の世界に俺たちは身を置いていた。
10年前までは……。
「ゼレット……!」
気付いた時には、パメラに肩を叩かれていた。
どうやら少し郷愁に囚われていたらしい。
「大丈夫? 顔が――――」
「ああ。大丈夫だ」
「そう。それならいいけど。……で、どうする?」
パメラは村の方を向いた。
「武装しているのは4人だな」
村を守っているというよりは、村の人間が逃げ出さないか見張ってるという雰囲気だ。
夜番もいるだろうから、あと数人は建物の中か……。
「またキュールの出番だな」
『きゅるるる!』
キュールは勇ましい声を上げた。
村の外周で警備していた男に、スルスルと木の枝が伸びていく。
ほぼ無音で男の首に巻き付くと、そのまま一気に釣り上げた。
持っていた剣を近くの茂みに落とし、男はジタバタともがくが、悲鳴すら上げることなく気を失う。
他の3人も同様に意識を失った。
おそらく村の脅威になっていたであろう警備の者たちは、一瞬にしてキュールが操る木によって無力化されてしまう。
「驚いたな……」
指示したのが俺だが、手際だけみれば一流暗殺者のそれだ。
可愛い姿をしているが、意外とキュールは暗殺向きかもしれない。
とはいえ、人殺しをさせるつもりは毛頭ないがな。
「すごい! キュール!! 偉い!!」
パメラが声を最小限にしながら、キュールの頭の枝を撫でた。こうすると、キュールが喜ぶらしい。
事実、全身を真っ赤にして照れていた。
「これで一先ず警備は無力化した。あとは、頼むぞ、リル、プリム」
『ワァウ!』
「やっっっっるよー!」
待ってましたと、それぞれ尻尾をぐるりと回す。
茂みから飛び出したのは、リルだった。
大きな狼の登場に、村のエルフたちは腰を抜かす。悲鳴があちこちで巻き起こり、それだけで騒ぎになった。
そこにリルはダメ推しとばかりに遠吠えを上げる。
『ワァウォオォオォォオオォォオオオ!!』
空気を掻きむしるような声に、側にいたエルフが忽ち竦み上がる。
その最中で動いたのは、建物から出てきた半裸の男だった。
「あれだな……」
俺は砲剣の遠眼鏡を覗く。
馬面の男が慌てている姿がはっきりと見えた。
周りの騒ぎに集中して、俺のことは認知していない。
「やれやれ……。これならCランクを撃つ方がマシだ」
俺は引き金を引く。
爆発音に似た音が空気を震わせたのと同時に、男は吹っ飛んだ。
「まず1匹……」
俺はレバーを引く。
「な、なんだ! 何があった!!」
馬面が出てきた木の洞から次々と男たちが出てきた。
しかし、その質問に答える者も、答えられる者もいない。
俺は冷静に引き金を引く。
「2匹目……」
そういった瞬間、また1人――男が吹き飛ばされていく。
さらに3匹、4匹と続いた。
残ったのは、1人だけだ。
「ひ、ひ、ひぎゃああああああああ!!」
男は後ろを向いて、逃亡を始めた。
その行く手を阻んだのは、プリムだ。
突然、能天気そうな獣人が現れ、男はそれだけで身を固めてしまう。
逆にプリムは容赦がなく拳打を男の鳩尾に入れて、吹き飛ばした。
男はそのまま泡を吹いて、気絶する。
警備の無力化から、仲間の掃討。
あっという間の出来事だった。
「ふっ……。見事な連係だな」
即席のチームにしては悪くなさそうだ。
すでにAmazonなどには情報が出ておりますが、
近いうちに書籍の発表ができると思います。
今しばらくお待ち下さい。







