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第57話 元S級ハンター、医療の国へ

第4章「神の使い」編が開幕です。

「見えましたよ」


 騎乗し、馬に乗ったアネットが指を差す。


 リルの背中に乗り、カルネリア騎士団と一緒に行軍していた俺とパメラは、首を伸ばした。


 互いの目に映ったのは、城壁に囲まれた都市と王宮だ。


 カルネリア王国王都である。


 カルネリア王国は、俺たちが住むヴァナハイア王国よりも小さな中堅国だ。


 国土の6割が森に覆われ、西には3000フィット級の山々が連なるユーヴァー山脈が広がり、豊富な雪解け水が森のあちこちで流れている。


 国民の8割がエルフで、そのほとんどが森の中に住み、昔ながらの狩猟生活を送っている。実は、俺もパメラも元はカルネリア王国出身なのだ。


「ゼレット殿が、カルネリア出身だとは聞いていたのですが、まさかパメラ殿もとは」


「あの……、アネットさん。そのパメラ“殿”はやめませんか? ゼレットはともかく私は、ただの宿屋の主人なだけなので」


「あれ? ゼレット殿の奥方ではないのですか?」


「ちちちち、違います」


 パメラは慌てて頭と手を振った。


 ピンと伸びた耳は、先まで真っ赤になっている。


「パメラは単なる(ヽヽヽ)幼馴染みだ…………痛った! パメラ、いきなり何をする?」


「べ~つ~に~。な~んかちょ~~っとムカついたっていうか~」


 一転して、パメラは唇を尖らせる。


 顔を赤くしたり、怒ったり、色々と忙しい奴だ。


 それを見て、「ふふ……」とアネットは笑う。最初出会った時の剣幕はなりを潜めていた。


 騎士団の副長に任されるぐらいだ。今俺たちに見せている表情が、アネットの本来の姿なのかもしれない。


「やはり仲が良いのではありませんか?」


「別に仲良くありません!」

「そうだ。単なる腐れ縁だ」


 揃って抗議するのだが、アネットの笑いを誘うだけだった。


「カルネリア出身ということは、カルネリアがなんと呼ばれているか知っていますね?」


「医療の国だな……」


 カルネリア王国の森は、世界でも有数の魔草や薬草の群生地だ。それらを材料にした薬を主軸に据え、カルネリアは医療に特化した国作りを目指してきた。


 その医療技術は世界的にも認められていて、毎年各国から医者に匙を投げられた患者が運び込まれてくる。


 カルネリア王国は比較的小さい国でありながらも、高度な医療技術を持った医療大国なのだ。


 王都に入ると、その言葉の意味がわかる。


 そこかしこに薬屋や、民間の病院が建ち並んでいることは当然として、山から引いた上水道が街のあちこちを流れ、常に清潔に保たれている。さらに街の大通りは砂塵が巻き起こらないように石畳が引かれていた。


「馬の糞は馬主の責任」といった張り紙を見ることができるのは、カルネリア王国だけだ。


 おかげで、ゴミゴミとした都市部でも空気が綺麗だ。これが他の王都となると、全く違う。それほど衛生管理に厳しいのである。


 俺たちはその日は王都の宿屋で1泊した。





 次の日、使いの者がやってきて、王宮へと案内される。


 王宮の中にある騎士団の宿営所へと通された。


 ここで待っててくれ、というので、しばし側の王宮を眺めながら、昔の話をしているとアネットが男を伴ってやってきた。


 サラサラの金髪に、エルフのお手本のような綺麗な碧眼。甘いマスクの一方、長身で肩幅も広い。


 全体的に鎧に覆われていたが、芯のぶれが少ない歩き方をしていて、相当鍛えていることはすぐにわかった。


「ゼレット殿、こちら――――」


「君、可愛いね。あとでオレのベッドの住所を教えるから、絶対に来てよ」


 アネットが紹介する前に、男はそのままパメラに迫ると、その手を取って甲に口付けした。


 流れるような動きに、しばし俺もアネットも、そしてパメラも唖然とする。


 奇襲に成功した男だけが、目を細め、愛おしそうにパメラを見上げていた。


「ちょ! あの……」


 慌ててパメラは手を引っ込める。


 再びその耳は真っ赤になっていた。対する男の反応は余裕で、薄く笑みを浮かべて恥じらうエルフの乙女を見つめている。


「失礼……。驚かせたかな」


「あ、あの……」


「おい。こら。俺の連れに何をしている」


 男の肩に手を置く。


 やっと俺の存在に気付いた男は、パメラと違って、実に醜そうに眉間に皺を寄せた。


「なんだ、君? その黒い頭は……。目も黒いし。なのに、君――エルフだろ?」


 男は俺を覗き込む。


「あ、あのゼレットは……」


 パメラが仲裁に入ったが、ちょっと遅い。


「それがどうした?」


「聞いたことがある。ダークエルフでもないのに、黒い髪と瞳を持って生まれたエルフの少年の話を……」


「だから、どうしたというのだ?」


「……実に醜いね。オレはね、美しいものが好きなんだ。たとえば、彼女のようなね」


 男は歯を見せ笑う。


「ヴァナレン様! どうしたのですか? 普段はそんな――――」


「黙れ、アネット。君はこんな醜いものを紹介するために、オレをここに呼んだのかい? ならば君は副長失格だ」


「そ、そんな!」


 アネットは抗議するが、ヴァナレンと呼ばれた男は全く聞く耳を持たない。そのままこちらを向いて、警告した。


「そういうわけだから、とっととこの国から出て行ってくれたまえ。勿論、彼女(パメラ)を置いてね」


「ああ……。そのつもりだ。用事が済んだらな」


「用事?」


「俺たちはケリュネアの肉を求めてやってきた」


「ケリュネア……」


 ヴァナレンの雰囲気が変わる。先ほどまでの軽い空気ではない。眉間に皺を寄せて、目尻を釣り上げていた。


「ケリュネアは我が国で『神の使い』と呼ばれていることを、君は知っているのかな」


「ああ……。知っている。それでも俺の依頼には、ケリュネアが必要だ」


「看過できないな。ケリュネアを殺すどころか、その肉を求めるなんて。なんと野蛮な……」


 ヴァナレンは顎を上げて、俺を見下げる。


「鞭打ちにして追放してやりたいが、折角だ。オレ自ら相手になってやろう」


 ヴァナレンは腰に下げていた剣を引き抜く。


 すでに場は戦いの雰囲気になっていた。


「ゼレット!」


「心配するな、パメラ」



 S級ハンターが魔物だけに強いと思ったら大間違いであることを教えてやろう。


一部地域で緊急事態宣言が宣言されてしまいましたが、

引き続き皆様の巣ごもりのご支援ができますよう定期的に更新してまいりますので、

よろしくお願いします。

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