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第51話 元S級ハンター、別行動をとる

 全く……。


 気付かなかった俺もそうだが、魔物の幻覚魔法に翻弄されているカルネリア騎士団も、騎士団だ。


 とすると、あの女騎士が俺をゼレット・ヴィンターだと認識しなかったのは、すでにスターダストオークスの支配下にあったからか。


 だとしたら、何故あの時俺たちを襲わなかったのだろうか?


 いずれにしても情報が少なすぎる。俺たちはスターダストオークスに対して、あまりに無知すぎる。まず情報を集めなければ。


 相手は万の大軍でもなければ、Sランクの魔物でもない。


 幻のAランクのモンスター。


 やはり相手にとって不足はない。


「待てぇ!!」


 悠長に考えている暇はなさそうだ。


 後ろからは烈火の如く、アネット率いるカルネリア騎士団が迫りつつあった。


 その股にしいているのは、グレイハウンドやエトワフの森を代表する魔物たちの背中だ。


 人間と魔物の共生。仮にヘンデローネ侯爵夫人がこの光景を見たら、泣いて喜んだことだろう。


「食らえっ!!」


 アネットは弓を引く。器用なヤツだ。鐙もない魔物の背の上から矢を射ってくる。


 さすがに命中精度は悪いが、1本だけ俺の頬をかすめた。


 全く性格も行動も厄介な女だ。とにかく撒くにしてもどうすればいい。


 おそらくスターダストオークスは、光属性の魔法を使って、このエトワフの森全体の獲物の動きを把握している――そう認識した方がいい。


 そうでなければ、俺たちを追跡することは難しいはずだ。


「ゼレット! あれを見て!!」


 リルのモフモフの背にしがみついたパメラが、顔を上げる。


 視界に見えたのは、大きな木の切り株だった。側には、緑と赤の葉っぱが大量に落ちている。


「これって、ゼレットが植えた……」


「ああ……。魔物に倒されたんだ」


 1度目の襲撃の時も思ったが、やはりグバガラの樹を狙って襲ってきたのだろう。


 よっぽどスターダストオークスにとって、グバガラの樹はよくないものらしい。


 そして、おそらくだが今回こうして襲ってきたこととも、何か理由があるはず。


 グバガラの樹と…………。


「煙幕か……」


 俺は振り返る。


 先ほど、俺たちが撒いた煙幕が、空に向かってたなびいているのが見えた。


「そうこうせい……」


「え? ゼレット、何? リルちゃんの走行性能が気になるの? 疲れてるとか?」


「いや、そういうわけじゃない」


 だいたいわかった。


 だが、もう1つピースが足りない。


 俺の推測が正しければ、スターダストオークスはそこにいるはず。しかし、目的がわからない。


「ねぇ! 私たち、あれに捕まったら、どうなるの?」


 パメラは振り返る。


 亡者のように気色を変えた騎士団と、我を忘れて暴れ狂う魔物を見て、パメラの顔色はすでに悪くなっていた。


「魔物の餌? それとも、スターダストオークスに捧げ物として食べられるの?」


「いや、スターダストオークスは、そもそも内臓を…………」


 そうか。


 うっかりしていた。俺は大事なことを忘れていたようだ。


 スターダストオークスの属性と、特徴を考えれば、すぐ気付くものなのに……。やれやれ、実戦から遠ざかっていると射撃の腕だけではなく、頭の回転も鈍るようだ。


「ゼレット、何かわかったのね」


「よくわかるな」


「幼馴染みだもの。当たり前でしょ」


「なら、次に俺が考えていることもわかるか?」


「うーん……。あんまり考えたくないけど、陽動とか」


「ナイスだな。その通りだ」


「本当に当たっちゃった」


 パメラは苦笑いを浮かべる。


「リルとプリムを付ける。護衛としては十分だ。絶対お前を傷付けさせない。だから――――」


「うん。大丈夫。ゼレット、信じてるから」


「…………」


「何よ、その顔。言ったでしょ。私たちは幼馴染みよ。ゼレットが約束を1度も破ったことがないって知ってるから」


「家賃の滞納もな」


「それはどうだっけ」


 おい。1度も滞納したことがないはずだが。


「うそうそ……。なるべく早く帰ってきてね」


「心配するな。そんなに時間はかからん」


 俺は砲剣を取り出す。


 砲身を明後日の方向に向け、弾丸を装填し、レバーを引く。


「行ってくる……」


「うん。行ってらっしゃい」


 パメラは笑顔で見送る。


 その瞬間、銃把を引いた。砲身の先から四方に火が吹き上がる。


 弾丸は真っ直ぐ地面に向かい、炸裂する。その瞬間、森の地面が大きく捲れた。


 土煙が噴き上がり、視界が覆われる。


 俺は土煙に飛び込み、さらにぽっかりと出来上がっていた穴の中に入る。


 森の地面の下は空洞になっていて、まるで土竜(もぐら)が通った痕のように網目状に洞窟が広がっていった。


 溶岩が固まってできたエトワフの森特有の地形だ。


 俺はしばらく息を潜める。直後、上を無数の魔物たちが走って行くのがわかった。誰も俺に気付いた様子はない。


 おそらくスターダストオークスにしても同様だろう。


「やはりな……」


 俺は道具袋からカンテラを取り出し、薄暗い洞窟を照らした。


「光の届かない場所では、スターダストオークスも探知できないんだ」


 おそらくスターダストオークスには、五感がない。


 その代わり、光には非常に敏感に反応する走光性(そうこうせい)の魔物なのだろう。しかも、その情報量はミドリムシなどよりも遥かに多く、確度も高い。


 森にいても、光が届く場所なら俺たちの位置を簡単に特定できるほどにだ。


 しかし、裏を返せば光が届かない場所なら、スターダストオークスは反応できないということでもある。


 闇の中を進む。目的地はこの森を一望できる場所だ。


 俺は一路北へと向かった。



 ◆◇◆◇ パメラ 視点 ◇◆◇◆



 はわわわわわわわ……。


 恥ずかしい! 恥ずかしい!!


 めっちゃ恥ずかしい!!


 ヤバい! ヤバい! 動悸が止まらない。顔も熱いし、耳もいつにもましてピンとしてる。鏡を見なくてもわかるわ。今、私がどんな顔をしているか。


『ゼレット、信じてるから』


『いってらっしゃい』


 新妻か! 私、新妻か。


 なんかピンチ過ぎて、思考があれだったけど、冷静になるとめちゃくちゃ恥ずかしい言葉を口走ってたわ。


 でも、こうなったら腹をくくるしかない。


 ゼレットが助けに来てくれるまで、なんとか私たちで持ちこたえなくちゃ。


「頑張りましょう、プリムさん」


 横を向く。


 するとプリムさんも私の方を向いていた。


 実は、結構苦手なんだよね、この子。ゼレットの部屋に転がり込んでから、だいぶ経つけど、なんというか何を考えているかわからないというか。


 むしろこの子と2人っきりになったことの方が怖いというか。


 そのプリムさんから返事がない。


 かと思えば、横を走りながら、私の方にまん丸い目を向けた。


「お腹……空いた……」


「へ?」


「わーい。大きなお肉発見!」


 ジュルリ、とプリムさんは涎を垂らす。


 その目からはすでに人間らしさが飛んでいた。


「ま、まさか……」


 プリムさんもスターダストオークスに操られてるぅうううう!!


 あり得る!


 というか今の今まで、私たちが操られてこなかったことの方が奇跡だ。


 屈強なカルネリア王国騎士団ですら、その術中にはまってしまった。


 プリムさんや、私が幻覚にかかってもおかしくない。


「いただきまーす」


 プリムさんは大口を開けて、こっちに突っ込んできた。


「プリムさん、だめぇ!!」


 私は悲鳴を上げる。


 瞬間、プリムさんは吹き飛ばされる。その姿は後ろで追いかけてきている魔物たちの群れの中に消えた。


「ぷ、プリムさぁぁぁああああんん!!」


 声を上げたけど、能天気な返事はない。


 それよりもプリムさんを容赦なく後ろ肢で蹴ったリルの方が気がかりだった。


「まさか……。リルも幻覚に??」


 あり得ない。


 リルは光属性だと、ゼレットは言っていた。同じ属性を持つ魔物の魔法に、神獣であるリルが引っかかるわけがない――と信じたい。


 ただそれはあくまで私の希望的観測にしかすぎない。


 それでもリルが暴走している可能性は、ゼロじゃなかった。


「リル……」


 すると、リルは立ち止まってしまった。


 今もなお魔物は私たちを追いかけ続けているのに……。


「リル! どうしたの? 走って! じゃないと、追いつかれるわ!」


 叱咤する。


 すると、リルは動き出した。


 先ほどとは別の方向に……。


 まるで何かに導かれるように……。


 当然、魔物たちは追いかけてくる。


「なんかおかしい……」


 走るリルを見て、私は首を傾げる。


 もしかして本当にリルは、スターダストオークスの幻覚にかかってしまったかもしれない。


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