第4話 元S級ハンター、魔物を食す
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スカイサーモンは魔物だぞ……。
俺がツッコむ間もなく、パメラはスカイサーモンを抱きかかえ、『エストローナ』に戻っていった。
何をするのかと、厨房まで付いていくと、おもむろに包丁を持ち出す。
「本当に食うのか、お前?」
「いいから。いいから。ゼレットは黙って見てて」
見ててと言われてもな。
そもそも魔物の解体経験なんてあるのか?
持ってる包丁が飛んできたりしないよな。
俺は少しパメラから距離を取る。
すると、プリムがひょこりと厨房から顔を出した。
この馬鹿弟子は、師匠が戦っている最中、お腹いっぱいになってテーブルに突っ伏して二度寝していたらしい。
頬に皿の痕がくっきりと残っていた。
「パメラがスカイサーモンを食べるんだと。魔物だぞ。食べられると思うか?」
俺が肩を竦める横で、プリムはクンクンと鼻を動かす。
「でも、ししょー。とってもおいしそうな匂いがするよ」
何??
俺がプリムと話している横で、パメラの作業は始まっていた。
スカイサーモンを覆う鱗を1枚1枚包丁を入れて、剥いでいく。
固く、軽石のように軽い鱗があり、スカイサーモンはこれを開閉させることによって、方向転換をしたり、浮力を得ていると考えられている。
大きめのパズルピースのような鱗の数は、魚よりも格段に少なく、意外と剥がしやすい。すべてを取り切ると薄い紫色した身が露わになった。
「鮮度は良さそうね。さっき捕ったばかりだから当たり前なんだけど」
パメラは実に楽しそうに調理をしている。
目の前にあるのが、パメラの細腕なら容易く噛み切ることができる凶悪な魔物だというのにだ。
鱗を取り除いてしまえば、後は魚の要領だ。宿屋で長年腕を振るうパメラからすれば、魚を下ろすなど造作もないことだろう。
あっという間に、スカイサーモンを切り身に捌いてしまう。
その切り身を網で焼き始めた。
途端、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。焼くことによって色目が変わり、ほんのりと赤い桃色へと変化する。
よく脂が載り、網からこぼれて、パチッと鋭い音を立てていた。
「出来たわ」
網焼きスカイサーモンの切り身よ。
皿をテーブルに載せた。
「ごくり……」
思わず俺は唾を呑んだ。
テーブルの上にあるのは、たった今討伐したばかりのスカイサーモン。
それが香ばしい香りを立て、ジュウ! と空きっ腹に響く音を立てていた。
ほんのりと薄い紅色の身には、脂が手を振るように光っている。
断っておくが、俺はさほど食いしん坊ではない。
毎日干し肉でも構わないぐらい、特に食べ物にこだわりはない。食べられるものであれば、何でも食べるタイプの人間だ。
その俺の食指が、敏感に反応していた。
今目の前にあるスカイサーモンの切り身にである。
「食べられるのか?」
「まあまあ、騙されたと思って食べてみてよ」
訳知り顔のままパメラは、猫のように笑う。
騙されて、本当に死んだら――――と思ったら、すでにプリムが完食していた。
先ほど朝食を食べたはずなのに、もう平らげたようである。
さらにはリルも加わり、「おかわり」とばかりに道ばたに落ちていたスカイサーモンをパメラに献上していた。よっぽどうまかったらしい。
食べてないのは、俺だけか……。
別に追い詰められたからというわけではない。
食べないという選択肢は十分あったのだが、俺の箸は動き始めた。
鮭の切り身と同様に、薄紅色の身を箸でほぐす。
綺麗に中まで火が通っていて、白い湯気が立ち上った。
「ままよ」
勢いよく口の中に放り込む。
最初の一噛みで驚いた。
ふっくらとして驚く程柔らかい。
もっとカサカサしているイメージだったが、そんなことはまるでなかった。
パメラが焼く前に酒を少量かけたことも起因しているのだろうが、それでも普通の鮭と比べても断然柔らかい。
噛むと、竹が割れるように身がほどけ、風味が口内に充満していく。
身にたっぷり載っていた脂も、こってりとしているわけでもなく、サラサラとして身体の中に染み渡っていくようだった。
驚いたのは塩気の違いだ。
普通の鮭とは違い、雑味がなくダイレクトに塩っぱい。
「これは岩塩の味だな」
スカイサーモンは産卵期以外の日中は、浅い川辺にいることが多い。諸説はあるが、空を飛ぶために軽い身体を求めたため、浮力の影響で海に潜れなくなったらしい。
川辺にいるのは、いわば海が恋しいという裏返し、岩塩を舐めるのもそのためだと説く学者も少なからず存在する。
「さすが詳しいわね、ゼレット」
「魔物のことは隅から隅まで調べるのが、俺の流儀だからな。それがDランクの魔物であろうと変わらん」
「感心、感心。でも、魔物が食べられるって知らなかったでしょ」
それはそうだろう。
昔から魔物食は禁忌と言われていた。
実際、子どもの頃試しに食べた魔物は不味かったし、食えたものではない。
しかし、このスカイサーモンは違う。絶品だ。
香り、食感、そして味。高級鮭でも出せないような上品な味をしている。
カルチャーショックとでも言うのだろうか。
しばらく俺は箸を置くことができなかった。
「ところで、ゼレット。仕事は決まった? ほら、あの紹介した警備会社はどうだったの?」
「あそこはダメだ」
話題を転じたパメラに、俺は椀を置いて、手を振った。
「Sランクの魔物が、護衛対象に近づいてきたら、撃退してもいいのか、と面接で聞いたんだ。そしたら、ヤツらはなんて答えたと思う」
はあ、と俺は息を吐く。
あの時の失望感がパメラでもわかるよう、大げさな表情を浮かべた。
「『護衛対象をそんな危険な場所に近づけないように腐心するのが、我々の役目だ』だと……。端から、Sランクの魔物と相手するつもりはないらしい。だから、こっちから断ってやった」
――というのは、嘘だ。
本当はその警備会社で、俺の再就職は決まる予定だった。
警備の仕事ならば、今まで培ったスキルを生かせるし、S級の魔物と相対する確率もゼロというわけではない。
しかし、契約締結の直前で先方から断りの連絡が入ってきた。
はっきりした理由は教えてくれなかったが、それとなく圧力がかかったことを臭わせていた。
おそらくハンターギルドか、その上のパトロンが何か圧力をかけたのだろう。
警備会社とハンターギルドは、割と近い関係にある。
前者が後者に協力を要請することもあれば、後者が仕事の斡旋を頼むこともある。
意外と2つのギルドは、持ちつ持たれつつの関係なのだ。
そんなごちゃごちゃした理由を、折角紹介してくれたパメラに話す気にはなれず、俺は嘘を付くことにした。
「もう! 折角、『エストローナ』の人脈を使って探してあげたのに」
宿屋『エストローナ』は、業界人の中では有名な宿だ。
ここから様々な職種の人間が大成していった。
だから、連綿と受け継がれた人脈は今も生きていて、今それを引き継いでいるのが、パメラなのだ。
「まあ、そんなところだろうと思った。じゃあ、ゼレット。あなた――――」
料理ギルドに興味ない?
初週でどこまでptが伸ばせるかが、
この作品の成否をわけると思ってます。
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