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第47話 元S級ハンター、魔物をおびき寄せる

 幻の魔物スターダストオークス。


 触ることも、目撃することすら難しいこの魔物には、1つ食材にできる部分が存在する。


 ミルク――つまりは生乳だ。


 ラフィナが調査を進めている歴史書の中に、このスターダストオークスの乳を搾り、そのミルクを食材として使ったという記述があるらしい。


 こちらも名前からモジって、『星屑ミルク』と名付けられたそれは、蜂蜜のように甘く、普通の牛乳よりも倍以上に濃厚で、風味が豊かなのだという。


 ギルドマスターの説明は続いた。


「『星屑ミルク』は5種の食材の中でも、1番の要であり、目玉食材よ。これだけで、8000万以上の価値はあるわ」


「は、8000万!!」


 再びパメラは目を剥いた。


 そして1度、話を整理すると、パメラは居住まいを正し、真っ直ぐ尋ねる。


「つまり、『星屑ミルク』をスターダストオークスから捕るために、キュールが必須ってことなんですね」


「キュールも必要だが、『精霊使い(エレメンタラー)』であるパメラの力も必要だ。俺が相棒としたいのは、キュールじゃなくて『精霊使い(エレメンタラー)』パメラだからな」


「ふふふ……。ですって、パメラちゃん。どうする? ゼレットくぅんは、こう言ってるけど」


「キュールに危ない目にはあってほしくないけど……。でも、ゼレットもやる気みたいだし。受けます! この仕事!」


 最初は戸惑っていたパメラだったが、最後には了承してくれた。


「う~ん。いい返事ね~。でも、気を付けて~、2人とも。敵はおそらく魔物だけに限らないわよ~」


「どういうことですか?」


 パメラは瞼を瞬かせると、オリヴィアが神妙な表情を浮かべた。


「すでにスターダストオークスの目撃情報が、市中に出回っている可能性があるんです」


 目撃された森には、ここの料理ギルドの食材提供者の他にも、複数の同業者やハンターが詰めていたという。


「それに~。森はうちのヴァナハイア王国から隣国のカルネリア王国に跨がる大森林よぉ。国境が森の中にあるから、区分けが難しくて、ここで獲れる食材は両国の共有財産ってことになってるの~」


「カルネリア王国の者が出てくる可能性がある、と?」


「あっちも魔物食のブームが始まってるの。この情報を見逃す手はないはずよ」


「競争相手が多くて、大変ね。大丈夫かしら」


「何を言っている、パメラ。どんな有象無象がこようと、俺以上のハンターはいない。それに今回はパメラもいる。問題ない」


「ゼレット…………。ありがとう」


 パメラは耳まで赤くして感謝を述べた。


 別に礼を言われるようなことは言っていない。


 『精霊使い(エレメンタラー)』は稀少だ。すぐに手配することは、不可能と言ってもいいだろう。


 現状、この競争はリードしているのは俺たちだ。


 ただし、相手次第だがな。


「ゼレットくぅん、何か気がかりでもあるの?」


「いや、別に……。パメラ、今日は早く寝ろよ。明朝1番の馬車で向かうぞ」


「う、うん! じゃあ、帰って明日のお弁当を作らないとね」


 パメラの声は弾んでいた。


 やれやれ……。ハイキングじゃないんだけどな。



 ◆◇◆◇◆



 俺たちが住む街から馬車に揺られること、2時間。


 隣国カルネリア王国の国境付近に広がる森に到着した。


 エトワフの森と名付けられている森は、ヴァナハイア王国有数の森林地帯で、古来より様々な恵みと資源を、俺たちに与えてきた。


 魔草を含む植物の種類だけでも、120種類以上。


 野生動物なども合わせると400種類以上も棲息しており、そこに魔物も含めると、約500種類にもなると言われる。これはヴァナハイア王国にある森林の中でも、もっとも多い数だ


 豊富な水資源と、木の実り、穏やかな気候は、生命を育み、さながら動植物のビオトープと化していた。


 その中を、すっかり都市の生活に定着したエルフが進むのは、我ながら皮肉めいたものを感じる。


「ゼレット、ムクギドリの巣があるわ」


 パメラはやや興奮気味だ。


 久しぶりに大きな森にやって来たからだろう。


 俺もパメラもエルフ。昔、森の中に住んでいた。その後、パメラは父親と一緒に街に住むことになり、森を出て行ったが、その後奇しくも俺も村を襲撃されて、師匠の下に身を寄せると、同じ街にパメラが住んでいたというわけである。


 それにしても、随分なはしゃぎっぷりだ。


 ハイキングではないというのに……。


「ゼレット! これを見て!」


 パメラが森の中にポッカリと開いた横穴を見つけ、指を差した。


 エトワフの森は、近くの火山の溶岩が流れ込み、冷え固まった上に出来上がった森である。そのため、森のあちこちにこうした穴が開いていて、野生動物の隠れ家になっていた。


「ここにスターダストオークスがいたりしないかしら?」


「不用意に覗き込むなよ。蝙蝠ぐらいならまだいいが、魔物の巣になってる可能性もあるぞ」


「げっ!」


 パメラは慌てて俺の後ろに隠れる。


 やれやれ……。かつて、これほどのんびりしたハントがあっただろうか。


 とはいえ、この森に住む魔物は、下はFランクから上はBランクだ。


 仮にスターダストオークスがいれば、エトワフの森初のAランク認定の魔物ということになるだろう。


 昼食休憩を挟み、俺たちは森の奥へと進んでいく。


 今のところ、スターダストオークスの姿も、形跡もない。


 やはり普通の魔物や動物を追うとはわけが違う。


 相手は足跡はおろか、糞や食べさしを置いて行くような相手ではないからだ。


 リルの鼻もそれらしい匂いを感知しないらしい。特に立ち止まって確認することもなく、森を進んでいた。


 逆に、ハンターたちが残した形跡は残っている。


 噂を聞きつけた同業者たちだろう。おそらく、俺たちと違って『星屑ミルク』を狙っているのではなく、スターダストオークスを討伐して、名を上げようとしているヤツらだ。


 幻の魔物だからな。討伐できれば、それだけで名が売れる。


「ゼレット……。あなたがまだハンターだったら、スターダストオークスを討伐しにきた?」


「さあな。奴が人に仇成す存在なら、討伐したかもな」


「ふーん」


「なんだ?」


「いや、ゼレットらしいなって思っただけよ」


「??」


 とりあえずパメラの事は放っておこう。


 これは勘だが、おそらく闇雲に探し回っても、スターダストオークスは見つからないだろう。


 けれど、観察を続けてみると、実に不思議な森だ。ところどころ、不自然な場所に熊や魔物が、幹を噛んだ痕がある。


 それだけではない。これだけ鬱蒼と木々が茂っているのに、森の中はかなり明るい。地面の方に向けると、枝打ちをしたような小さな枝が転がっていた。


 まるで誰かに手入れされているみたいだ。


「ゼレット、何か気付いたことがあった?」


「そうだな……。この森は明るいな」


 エトワフの森は、ヴァナハイア王国よりも歴史は長く、1000年近い歴史を持つ。光を求めて、成育した樹木が枝を伸ばしているため、森の底は昼間でも暗いのだが、エトワフの森は不思議な程明るかった。


 これも『幻の魔物』の影響なのだろうか。


「森が明るい? そう言えば、そうね? 私たちが住んでいた森より、採光がとれてるっていうか。それの何が気になるの?」


「少し違和感を感じた程度だ。精霊たちはどうだ?」


「ダメ……。実はさっきから度々見てるんだけど、色んな精霊がいすぎて。私には何がなんだか。キュールも探してくれてるみたいだけど、全然だって」


『きゅる~』


 霊体化を解除したキュールが現れ、契約者と同じく手を上げた。


 こればかりは経験だからな。


 新人の『精霊使い(エレメンタラー)』に、半霊体化してる魔物を探させるのは、さすがに酷か。


「仕方がない。多少、荒療治だが……」


「どうするの、ゼレット?」


「簡単だ。向こうから俺たちを見つけてもらう」


「誘い出すってこと? どうやって?」


「これを使う。……プリム」


「あい~」


 プリムは一旦担いでいた山のような荷物を下ろした。


 その中から、人の顔ほどある種を取り出す。


「それって……。グバガラの実?」


 そうだ。グバガラの実だ。


 かつて料理ギルドの登録試験の時に、オリヴィアが固有属性と魔力量を調べる時に持ち出したものである。


 今回、ギルドから借りてきた。向こうの経費持ちだから、こちらとしては有り難い話だ。


「ゼレット……。もしかして――――」


 パメラの顔が引きつる。


 どうやら、俺が今からやろうとしていることを察したらしい。


 さすがは俺の幼馴染みだな。


 俺はグバガラの実を手にしたまま、試験の時と同じく魔力を込める。


 瞬間、グバガラの実から無数の芽が飛び出る。そのままそれは絡まり合うように1本の幹を形成し、上へと伸びていった。また根は土の養分を求めて、広がっていく。


 気が付けば、周囲の木々を突き抜け、枝葉を増やしていくと、赤と緑――鮮やかな2色の葉が生い茂っていた。


 グバガラの樹は、魔物が好きな匂いを発しておびき寄せ、その魔力を吸い上げる。


 スターダストオークスも、その姿は特殊だが、元は魔物だ。


 何らかの反応があるはずである。


「さすがゼレットね。ナイスアイディアだわ」


「称賛はありがたいが、この作戦には1つ欠点がある」


「それって――――――」


 ドドドドドドドドドドドドドドドッッッッッ!!


 突如、無数の足音が俺たちの耳朶を打つ。


 それは今、俺たちが立っているグバガラの樹に近づきつつあった。


 ただ一方向だけではない。四方八方から音が聞こえる。


 すでに囲まれつつあった。


「ちょっと……。これって……」


「グバガラの樹の匂いに引かれてやってきた魔物たちだ」


「やっぱりぃぃいいいいいい!!」


 パメラは顔を青くする。


「ど、どうするのよ、ゼレット」


「どうする? ……パメラ、何を言ってるんだ? 迎え討つに決まってるだろ。リル、プリム、任せたぞ」


『わぁおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』


 リルは遠吠えを上げる。


 久しぶりに本格ハントだ。存分に暴れると感じて、リルは喜んでいた。


「あい~」


 横でプリムも大きく伸びをする。


 せっせと準備体操をすると、「さあ、来い」とばかりに構えた。


「リルちゃんと、プリムさんだけ」


「十分だ」


「ホント?」


「パメラは俺の後ろに……」


 必要ないと思うけどな。


 先頭の魔物の姿が見える。この森に棲息しているグレイハウンドだ。ランクは“C”。大型の野犬のような魔物で、額から首元まで赤い鬣が生えている。


 その鼻はよく利き、目もいい。俊敏さは語るまでもなく、四肢の先に伸びた爪はいずれも鋭い。


 森に住む野生の猟犬といったところだ。


 リルとプリムは、それぞれ逆方向から襲いかかってくるグレイハウンドの群れに向かっていった。


 リルは牙を光らせ、プリムは大きく振り上げる。


『わぁう!』


「せーの!!」



 ドゴォンンンンンン!!



 轟音が鳴る。


 瞬間、それぞれの攻撃が先頭のグレイハウンドに直撃する。


 魔物が仰け反るまでは良かったが、リルとプリムの攻撃はそれだけに収まらない。


 衝撃波を伴うと、まるで波に押し返され、後続のグレイハウンドを吹き飛ばした。残ったのは、扇状に広がった衝撃の痕と、(ベロ)を出して絶命するグレイハウンドの死骸だけだった。


「…………強っ!」


 マジマジと見つめていたパメラは、そう言葉を絞り出すのに精一杯だった。


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