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第39話 元S級ハンター、リヴァイアサンの卵を食す

 スフレオムレツが運び込まれてくる。


 しかも、大人4人で端を持ち、運んでこなければならないような大皿でだ。


 その大皿の大きさにも驚かされるが、中身のスフレにも驚かされる。


 厨房で見たスフレオムレツよりも、軽く5倍は大きい姿をしていた。


 さらにふわふわした部分が露わになり、陽光を受けて輝く。


 鶏卵とは一線を画す朱色のオムレツ。


 さらに鶏卵なら何個分使ったのかわからないほど、大きなスフレオムレツに、参加者は全員度肝を抜かされた。


 ギルドマスターは薄く口角を上げる。


「ど~やら、第1印象はうまくいったようね~」


「お前の仕業か、ギルドマスター」


「そうよぉ。食材のプロデュースも、料理ギルドの職分の1つだもの。魔物食は今、料理ギルドにとって1番のグラ箱(かせぎがしら)よ。しかも、まだ未成熟……。けれど、いまだ魔物食には根強い偏見があるわ。それを払拭するのが、私たちの役目なのよぉ」


 ギルドマスターはさらりというが、“負”の性質のものを“正”に転じさせることは、並大抵の努力では済まない。


 これぐらい大げさに演出して、初めて人の心に刺さることもあるだろう。


 事実、大きなスフレオムレツは見事に参加者の心を射止めた。


 皆が立ち上がり、スタンディングオベーションで称える。


 仮にこれが通常サイズのスフレオムレツなら、こうならなかっただろう。


 リヴァイアサンの卵と聞けば、皆がその卵の大きさを想起する。


 実際他の魚卵と比べて大きかったわけだが、それが調理によって小さくまとまっては、卵どころかリヴァイアサンのあの雄大な大きさを語ることは難しい。


 頭の良いものなら、これが演出だとわかるだろうが、出来上がった巨大スフレオムレツを見て、手を叩かない者は皆無だった。


 その巨大スフレオムレツからいくつか取り分け、テーブルに並べていく。


 全員分を取り分けると、巨大スフレオムレツが冷めてしまい、折角の食感が台無しになる。多くの給仕が、スフレを載せた小皿を持って一斉に会場になだれ込むと、次々と参加者の前に並べていった。


 いよいよ厨房で、その片鱗を見せたリヴァイアサンのスフレオムレツが、ヴェールを脱ぐ。


「では、実食いたしましょう」


 皆が一斉に口を付ける。


 老若男女、男爵も公爵も、地位も名誉も関係なく、皆が笑顔を灯して口の中にリヴァイアサンの卵で作ったスフレオムレツを口にした。


「「「「「「「う~~~~~~~~~~~~~~~~~~んんんん!!」」」」」」」



 うまい!



 会場が興奮のるつぼと化す。


 やはりうまい。


 口に含んだ瞬間、広がっていく卵の濃厚なコク。


 噛んだ瞬間にわかる柔かさ。直後濃厚なコクと、魚卵としての風味が口の中に広がり、余韻を残して消えていく。


 そう。まるで夜空に打ち上がった花火のようだ。


 舌に載せ、歯で噛む度に、巨大な花火が口の中で広がっていく。


 最初の強いコクから、やや塩気のある風味が爽やかに口内を満たしていくのだ。


 不思議なことに、黄身の部分にはかすかにぷちっとした食感もあって、打ち上がった花火から派生した小玉のように舌を刺激した。


「ふぅ……」


 空になった皿に向かって、吐息が漏れる。


 俺だけではない。俺よりも遥かに舌が肥えた参加者も同様だ。


 ほぼ同じタイミングで食べ終えた参加者たちが、フォークを置いた。俯き加減で息を吐き、空の皿を見て項垂れている。


 その反応を見ながら、オリヴィアやギルドマスターが指を組んで祈っていた。


 見れば、ラフィナも皆の反応を、心配そう見つめている。


 ギルドの関係者としては、緊張の瞬間だろう。


 リヴァイアサンの卵が、食材として受け入れられるかどうかなのだから。


「皆様、如何だったでしょうか?」


 怖ず怖ずとラフィナが、たまらず質問した。


 胸の前で握った拳はかすかに震えている。


「あの……」


 1人の貴族が手を上げる。


 目が不自由な白髪の老人だった。


「おかわり、あるかの……」


「え?」


「こっちも!」

「僕も食べたい!」

「私も!」

「おかわり下さい!」


 次々と皆が手を上げて、「おかわり」と連呼する。


 これまでキッシュ、冷製スープ、魚卵添えの2種類の貝柱、肉料理とフルコースを堪能してきたはずの者たちが、ここに来て「おかわり」を所望する。


 それは「うまい」という言葉よりも、そのスフレオムレツに抱いた感想よりも、直接的な評価として表すものだった。


 万雷の拍手よりも戸惑う反応を見て、ラフィナは余裕で対応してみせる。


「食いしん坊さんばかりで困りましたね。わかりました。皆様のご期待にお応えしましょう」


 ラフィナは軽くウィンクする。


 そのお茶目な演出に、さらに声が沸き立つ。早速、おかわりが用意され、参加者たちは舌鼓を打った。


 2度、いや正確には3度か。


 これだけ食べても驚かされる。


 魔物食材の複雑な味。


 俺が知る卵という概念が、見事に覆った。


 今後、味を研究され、様々な調理法が生まれれば、一体どういう風に進化していくのだろうか。


「ふふふ……」


 笑ったのはオリヴィアだった。


 その横のギルドマスターや、パメラも笑っている。


「面白いでしょ、ゼレットくぅん。魔物食……」


「ようやくゼレットさんに、魔物食の醍醐味を伝えることができて、わたし嬉しいです」


「どう? 魔物をただ討伐するハンターより、面白いでしょ? 料理ギルドって」


 最後にパメラがドヤ顔で質問した。


 もう答えがわかっているような表情に、俺は少し眉を顰める。


 やがてスフレオムレツを食べ終え、口元を拭った。


「まあまあだな……」


 と答えておいた。


実食回、いかがだったでしょうか?

「おいしそう」と思っていただけたら、

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