表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

31/222

第30話 元S級ハンター、クライマックスへ向かう

 ◆◇◆◇ ガンゲル 視点 ◇◆◇◆



 くくく……。ゼレットのヤツ、墓穴を掘りやがったな。


 お前は確かに、私が見てきた中でも最高に近いハンターだった。それは戦績を見れば、一目瞭然だろう。


 だが、私からすれば、まだまだ甘ちゃんだ。


 私に見せつけるために、依頼内容をペラペラと喋ったのだろうが、仇になったな。


 こうなったら、お前より先に見つけて、あの公爵令嬢(こむすめ)に高く売りつけてやる。


「ぐふふふ……」


「何を笑ってるのよ。気持ち悪いわね」


 遠眼鏡で海を覗き込んでいた私は、ヘンデローネ侯爵夫人に頭を叩かれる。


 持っている遠眼鏡はとても武骨で大きい双眼鏡であったが、侯爵夫人の顔が大きすぎて、小型のオペラグラスのようだ。


「夫人、うまくいきましたね」


 私は早速揉み手をし、ご機嫌を取る。


 しかし、今日の夫人の機嫌はこの程度では晴れないらしい。


 双眼鏡から目を切ると、「ん?」と私の方を向いた。側付きに日傘を持たせていたヘンデローネ侯爵夫人の目は、影のせいか少し赤いように見える。


 自分の船が壊れたのは、一昨日のことだ。


 それから私にハンターや食材提供者を雇うように指示を出してからは、昨日までずっと宿の中で泣き喚いていた。


 時にリヴァイアサンに、時にアストワリ家の令嬢に、時にゼレットに憎々しげな声を荒らげていたことを、私は知っている。


 夫人のおかげで、宿の部屋の中はガチョウの羽毛まみれだ。


 掃除をさせるため連れ出し、ゼレットたちが困っている顔でもみれば、気分も晴れるだろうと考えていたが、浅はかだったらしい。


「ガンゲル……」


「は、はい……」


「リヴァイアサンはもう卵を産んだのかしら」


 侯爵夫人はぼんやりと呟く。


「それは…………おそらく産んでいないかと」


「どうして、あんたにそれがわかるの」


 …………。


 私は沈黙した。


 何故なら舌の上に載せることすら拒否したくなるような言葉を、今から喋らなければならないからである。


「ゼレットです」


 私はまず短く答えると、ヘンデローネ侯爵夫人は薄い眉を動かした。


「何故、あのハンターの名前が出てくるの?」


「あまり褒めたくはないですが、ヤツのハンターとしての腕は一級品です」


 性格こそ問題があるが、魔物の知識――特にヤツが目の敵にしているSランクの魔物に関して、王国の魔物研究家が舌を巻くほどだ。


 ハンターとしても一流だが、魔物の研究家としては、ヤツは非凡なのである。


「あのハンター、Sランクの魔物に並々ならぬ執着があるようね。実に醜い」


 ヘンデローネ侯爵夫人は吐き捨てる。


「ヤツが子どもの頃に住んでいた村が、Sランクの魔物に襲撃を受けたそうです。詳しくは知りませんが……」


「魔物に逆恨みなんて。ますますおぞましいハンターだわ。これだから嫌いよ、野蛮人は」


「仰る通りかと……」


「けれど、ようやくわかったわ。……あのハンターが動かないから、他のハンターや食材提供者も動かないのね」


 なかなか鋭いところを突く、と思わず感心してしまった。


 そうなのだ。各所から集まってきたハンターたちも、リヴァイアサンではなく、ゼレットの動向に注目しながら、浜辺や沖合で待機を続けていた。


 ハンターたちの行動を見た食材提供者も、その動きを見て察したようだ。同様に、ゼレットの行動を観察している。


 着々とゼレット包囲網が広まりつつあった。


 これでゼレットも身動きが取れまい。私としては、卵をゲットするよりも、ゼレットが依頼を失敗する方がいいのだ。


 そして、失敗に打ちひしがれるヤツの背中に、こう言ってやる。


『200万で受けておけばよかったのにな』


 とな――。


 狡猾とゼレットは、私を呪うかもしれないが、痛くもかゆくもない。


 楽しみだよ、ゼレット。


 お前の顔が、涙で歪むのがな。



 ◆◇◆◇ ゼレット 視点 ◇◆◇◆



『くしゅん!』


 くしゃみをしたのは、俺の横で寝そべるリルだった。


 ズルッと鼻水を吸い込み、瞼を閉じて眠り続ける。俺は労るように、そのモフモフの毛を撫でた。暑いとはいえ、ずっと潮風を浴び続けているのも、あまりよろしくない。


 とはいえ、この浜辺から離れるわけにもいかなかった。


「悪いな、リル。もうちょっと我慢してくれ」


 わしゃわしゃ撫でる。氷狼の毛の中は、思いの外冷たい。リルの基礎体温が低いからだろう。


 モフモフな上に、冷やっこい毛を存分に堪能したいところだが、残念ながらリル自身は暑さが苦手だ。普段よりも体力が落ちているため、あまり無理もできなかった。


「ゼレット様、気付いておられますか?」


 薄い羽織を肩に掛けたラフィナが近づいてくる。黒い髪を、鍔広の麦わら帽子の中に収めていた。


「人がどんどん増えてきてますね」


 オリヴィアも話の輪の中に入る。周囲を伺いつつ、同業者を探しているらしい。


「それに伴って、わたくしたちに向けられる視線も多くなってきていますわ」


「美女を見て、鼻の下を伸ばしているんじゃないのか?」


「ぜ、ゼレットの馬鹿! そういうのじゃないわよ、これは!」


 パメラが胸の前でビーチボールを抱きしめながら、周囲の視線を伺う。


 無論、俺は気付いていた。チチガガ湾の浜辺に集ったハンターや食材提供者たちの視線を……。


 その頭に浮かんでいる漁夫の利を狙った考え方もだ。


「ゼレット……。依頼のこと、あのガンゲルっていうギルドマスターに話さない方が良かったんじゃないの?」


 パメラが心配そうに見つめる。


 俺はビーチチェアから立ち上がった。その動きを見て、周囲の空気がピンと張り詰めたが、俺がやったことといえば、パメラの頭をポンポンと撫でることだった。


「心配するな、パメラ。……ところで、俺が卵を捕った後の段取りは進んでいるのか?」


「うん。料理ギルドのギルドマスターが進めているはずよ」


 なるほど。こっちにあのギルマスがいないのは、そういうことか。


「資金の方も問題ありませんわ、ゼレット様」


「準備万端です!」


 最後にオリヴィアが胸を張った。


 ということは、後は俺が卵を捕ってくるだけか。


 にしても、リヴァイアサンはなかなか動かないな。


 文献によれば、湾内で確認されてから10日前後と書かれていた。


 チチガガ湾にリヴァイアサンが出現し始めて、20日以上が経過している。さすがに遅すぎる。


「もう10日以上経ってるってことだよね。難産なのかな?」


 パメラが首を傾げる。


「いや……。そういうことじゃない。俺の推測が正しければ、それぐらいのズレは問題ない」


「どういうことですか、ゼレット様」


「引き続き待機だ」


 その時だった。



 リヴァイアサンだ!!


【作者からのお願い】

ここまでお読みいただきありがとうございます。

『面白い』『続きが気になる』と思っていただきましたら、

ブックマークの登録をお願いします。

また↓へとスクロールすると、☆☆☆☆☆にて作品評価ができます。

評価いただきますと、励みになるのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~

コミカライズ9巻1月8日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる⑨』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス8巻 11月12日発売!
50万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



シリーズ大重版中! 第5巻が10月18日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本5巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本2巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月25日!ブレイブ文庫様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large






好評発売中! 全編書き下ろしですよ~。
↓※タイトルをクリックすると、カドカワBOOKS公式ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる2』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large

小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ