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第29話 元S級ハンター、宣戦布告される

 海といえば、海の家……。


 海の家といえば、定番の焼きそばである。


 俺はいつも通りビーチチェアに座りながら、香ばしい匂いを漂わせる焼きそばを食べていた。


 モチモチとした手打ち麺は、噛み応えが抜群で、ソースにも絡んで相性バッチリだ。塩茹でした牡蠣の出汁をベースにしたソースは、旨みがたっぷりで、口内にほのかに磯の風味を漂わせる。


 玉葱、ソーセージ、もやしといった具材も秀逸だ。


 玉葱の甘みもさることながら、シャキシャキした食感が、手打ち麺とは別の食音を奏でて楽しませてくれる。食べやすいサイズに切ったソーセージもコリコリと口の中で気持ちの良い音を立てていた。


 焼きそばの敢闘賞といえば、生姜だろう。少量でも鼻から突き抜けるぐらいのシャープな辛さは、ピリッとしたソースの味と一線を画す。


 簡単な料理のように見えて、意外と奥が深い。


 それが焼きそばである。


 特に浜辺で、潮の香りと一緒に吸い込む焼きそばは最高だった。


「パメラ、おかわりだ」


『ワァウ!』


「ボクも!」


「あの~~。わたしも~~」


 葉の皿を掲げる。ボォンという爆発音みたいな名前の植物の葉で、乾燥させて水分が抜けると、とても固く頑丈になり、即席の食器としてよく使われる。


「オリヴィアまで。はいはい。ちょっと待ってて」


 おいしそうな匂いを纏いながら、パメラはおかわりの焼きそばを鉄板の上で炒め始める。手作りの牡蠣ソースをかけると、得も言われぬ香りが辺りに漂った。


 小気味良い音を立て、コテを使い麺を返していく。料理ギルドに料理人として登録しているだけあって、パメラの動きはなかなか堂に入っている。


「朝からよく食べますわね、あなたたち」


 ラフィナが俺たちとは遅れて海岸にやってきた。


「ラフィナさん、おはようございます。おひとついかがですか?」


 ボォンの葉に出来立ての焼きそばを盛りつつ、パメラは尋ねた。


「ありがとうございます。お気持ちだけいただきますわ。それよりもゼレット様、こんなにのんびりと構えていてよろしいのですか?」


 ラフィナの視線が周囲に向く。


 今、海岸線には昨日よりも多くの人が詰めかけていた。


「海水浴客っていう感じがしませんわね」


「じゃあ、野次馬? それにしたって、多すぎない?」


 パメラはコテで麺を返しながら、周囲の状況を確認する。


「大半は昨日のハンターさんたちですが、中にはゼレットさんみたいな魔物に特化した食材提供者が混じってるみたいですね。何人か、うちに卸してくれている食材提供者の方をお見かけしました」


「つまり、ゼレットのライバルってこと?」


 パメラは出来上がった焼きそばを、おかわりを待つプリムに渡した。焦がしたソースの香ばしい香りに、赤い耳をピコンと立てて、口元の涎を拭う。


 早速、箸で掻き込むと、頬を膨らましながら幸せそうな顔を浮かべた。


「おうおう。こんなところに、女連れの海水浴客が居やがるぜ」


 目の前に現れたのは、1人の巨漢だった。だが、ただの巨漢ではない。肩幅は広くがっしりとし、太股は西瓜が丸々1つ入りそうなほど発達している。


 異様に高い鼻は空を仰ぎ、目線は下に向けて、俺を頭の上から見下げていた。


「シャーナックさん!!」


 どうやらオリヴィアの知り合いらしい。ということは食材提供者か。


「お前がゼレット・ヴィンターか。三つ首ワイバーンを倒した噂は聞いてるぜ」


 あんなAランク(ざこ)を倒したぐらいで、もう同業者にまで噂が広まっているのか。


「あれがゼレット……」

「三つ首を倒したっていう」

「元S級ハンターらしいぜ」

「可愛い女の子をはべらしやがって」

「絶対に負けん!」


 周囲はにわかに騒がしくなる。


 どうやら周りも俺のことを知っているようだ。やたらと俺に敵対的な視線を向ける者が多いと思ったが、そのほとんどが同業者だったというわけだ。


「誰だ、お前は?」


「俺様の名前はシャーナック・ブリーズ。お前と同じ食材提供者だよ」


「ご同輩か……」


「そうだ。いいか。先輩として忠告しておいてやる。あまり調子にのるな。そのワイバーンもたまたま(ヽヽヽヽ)当たり所が悪くて死んだだけだ」


 たまたまか……。本気で言ってるなら、相当なお花畑人間だな。


 たまたま三つ首ワイバーンの急所を射貫き、たまたま3つ首とも同じ所に当たり、たまたま人のいないところに落下した。


 どれだけ天文学的な確率だと思っているのだろう。


 むしろ偶然で括る方が不自然だろう。


「シャーナックさん、なんでここに?」


 オリヴィアは目を丸くしながら、シャーナックに尋ねる。


 そのシャーナックは歯揃い良い歯茎を剥き出し、笑った。


「とぼけても無駄だ、オリヴィア。聞いたぞ、リヴァイアサンの卵に4000万の依頼料らしいじゃないか?」


「ど、どうして、それを?」


 オリヴィアはラフィナの方に振り返る。


 依頼主であるラフィナは黒髪を大きく乱し、首を振った。


「おかしいですわ。わたくし、今回の依頼はゼレット様にしか告げておりませんのよ」


「すでに噂になってるぜ。……オリヴィアよ、【深海魚ハンター】と呼ばれる俺様を差し置いて、新人の食材提供者に依頼するなんてどういうことだ、ああん?」


 シャーナックはオリヴィアに詰め寄る。


 オリヴィアも負けてはいない。眼光鋭く、シャーナックを睨み返した。


 おそらくこういうトラブルは、ギルド内では日常茶飯事なのだろう。料理ギルドの小さな受付嬢は、ひどく冷静だった。


「これはゼレットさん、一個人で受けている依頼です。わたしはその仲介をしたに過ぎません。もしギルドの職員に乱暴などしたら、その時点であなたの食材提供者の免許は剥奪されますよ」


「ちびっこが! 黙って聞いてりゃ図に乗りやがって! 俺様のバックにはな――――」


 その瞬間、シャーナックが浮き上がる。否、浮き上がったのではない。俺の体重の倍はありそうな巨漢が、大きく持ち上がったのだ。


 まるで巨大マグロを掲げるが如く、夏の太陽にさらしたのは、プリムだった。


「おじさん、うるさい!」


「へっ?」


「ぽいっ!!」


 そんな呑気な擬音どころではない。


 投擲されたシャーナックは、凄まじい速度で青い空の中に消えていく。


「おおおおおぉぉぉぉぉっっっ……」


 という悲鳴も一瞬にして遥か遠くへと飛ばされ、やがて沖の方に落下した。


「ごはんの時、静かにしなきゃいけないんだぞ!」


 プンプン、と怒ると、プリムは再び焼きそばに箸を付けた。


 先ほどまでの怒りは一瞬にしてピリッと効いたソースによって洗い流されたらしく、ズルズルと音を立てて食べ始めた。


 俺はコートに伸ばした手を抜き、100%果汁のジュースを口にする。


「なんだ、あれは?」


「シャーナック・シャークさんと言って、魚介を中心に提供いただいている食材提供者さんです。珍しい深海魚とか仕入れてくれて、クライアントの評判はまあまあなんですけど、ちょっとがさつなところがあって…………。あ。でも、あの人の戦技(スキル)は潜行といって、素潜りで世界記録をもっている方です」


「世界記録……」


 胸の前で指を組みながら、ラフィナは呆然とする。


 オリヴィアは説明を続けた。


「リヴァイアサンは海溝の深い場所に、卵を産むと言われています。彼の能力はそういう意味では打ってつけかもしれませんね」


「うかうかしてると、本当にシャーナックさんが、先に卵を見つけるかもしれません」


「もう! オリヴィアも、ラフィナも……。今は4000万グラっていう依頼が、どこから漏れ出たかが問題なんじゃない」


 パメラはコテを2つ持ったまま、ズバリ指摘する。


「おそらくヘンデローネ侯爵夫人だろう」


「侯爵夫人が?」


「大方、リヴァイアサンの卵に賞金でもかけて、広くハンターを集ったんだろう。それを聞いた食材提供者まで、集まってきたというわけだ」


「夫人はリヴァイアサンの卵をどうするの? 食べるだけ?」


「パメラ、煙が出てるぞ」


「わわわ……」


 パメラは慌ててひっくり返す。間一髪といったところだろう。少々焦げていても、どうせプリムならおいしくいただくはずだ。


「自分が食べるより、もっと有意義に利用する方法がある」


 俺の言葉を聞いて、ラフィナは不敵に笑った。


「なるほど。わたくしに売りつけるつもりですね。昨日の意趣返しというわけですか。随分と恨まれたものです」


「女の嫉妬は怖いですからねぇ」


 自分も女であることを忘れ、オリヴィアは苦笑する。


「それでどうするのですか、元S級ハンターとしては……」


「どうもしない……。時を待つだけだ」


 おかわりを食べ終え、俺はビーチチェアに寝っ転がる。パラソル越しに、青い夏の空を見つめた。


月間総合に入ったことによって、再びPVが上がってまいりました。

お読みいただいている方、ありがとうございます。

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