表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/222

第27話 元S級ハンター、預言する(前編)

念願叶って、月間総合10位入ることができました! なろう表紙入り!

ここまで応援いただいた方ありがとうございます!

 ◆◇◆◇ ヘンデローネ 視点 ◇◆◇◆



 ああ……。暑かった。


 なのに何の成果もなかったなんて、屈辱以外の何ものでもないわ。


 屈辱といえば、何なのあの元ハンター! そして公爵家の令嬢は!!


 特にあのラフィナとかいう小娘は生意気よ。当主はどういう教育をしているのかしら。


 今度パーティーの席で見つけたら、数人で囲んでいじめてやるんだから。


 それにしても今日泊まる宿ってここなの? かび臭くて鼻が曲がりそうなんだけど……。


 夫に綺麗だねって褒められた鼻が、豚鼻になったら、宿主は責任を取ってくれるのかしら。


 暑い、暑い……。


 肌もヒリヒリするし。もっとたくさん日焼け止めを塗っておくべきだったわ。


「ほら、もっと強く扇ぎなさいよ」


「は、はい! すみません、ご当主様」


 あたしは水を飲みながら、連れてきた側付きに怒りをぶつけた。如何にも垢抜けない田舎娘は、慌てて扇を強く扇ぐ。


「この水も、なんでこんなに温いのよ。もっと冷たいのないの?」


「申し訳ありません、当主様。今、水を凍らしている最中でして」


「言い訳なんて聞きたくないわ! 取り替えなさい!」


「かしこまりました!」


 別の側付きが、グラスごと下げると、部屋を出て行く。


 代わりに入ってきたのは、ガンゲルだった。相変わらず営業スマイルが下手だ。森に住むゴブリンの方が、もっと愛想よく笑えるだろう。


「何よ、ガンゲル。リヴァイアサンは追い払えたの?」


「それが……まだでして――――」


 ガンゲルは頭を下げる。


「じゃあ、なんでここに来たの?」


「実はお耳に入れたいことがありまして」


「しょうもないことだったら、リヴァイアサンの餌にするわよ」


「自信がございます」


 ガンゲルは目を光らせ、滔々と語った。


 確かにそれは興味深い話だった。どうやら料理ギルドは、リヴァイアサンの卵を捕獲しようとしているらしい。


 それを聞いた時、あたしの魅惑ボディは震えた。おぞましい。人間が食べるために、卵を捕獲しようなんて……。許せないわ。


「あと、リヴァイアサンがここ数日大人しいのは、ゼレットが連れてる神獣のせいのようです。おかげで海は穏やか――――」


「沖にいることは確かなんでしょ? それじゃあ、何の解決にもならないじゃない! ノコノコ船を動かして、リヴァイアサンにあたしの船が潰されたら、あんた弁償してくれるの?」


「も、申し訳ありません」


 ガンゲルは慌てて頭を下げ、縮こまる。


「しかし、ヘンデローネ様……。このまま沖に留まられては、集めたハンターも形無しです。リヴァイアサンは海では無類の強さを誇ります。チチガガ湾に引きずり込み、ある程度地上からの援護が見込めない限り難しいかと」


「あなた、馬鹿なの! そんなことをして、リヴァイアサンを傷付けたらどうするの? あなた、責任を取れるの? かけがえのない命の責任を!」


「そ、そんなこと言われましても……。手を出さずして、追い払うことは難しいかと。リヴァイアサンが諦めるのを待つしか」


「それよ」


 あたしはパチリと指を鳴らす。


「リヴァイアサンに諦めてもらえばいいのよ」


「ど、どうやって?」


「そんなもの、あんたが考えなさい。要はチチガガ湾がとても危険な場所だって知らせればいいのよ。ほら! あるじゃない! 匂いとか音とか使って」


「匂い……。音……ですか! か、かしこまりました! このガンゲルめにお任せあれ」


 ガンゲルは深々と頭を下げて退室していく。


 全く頭が悪い男だわ。あれでギルドマスターなんて信じられない。野蛮なハンターの上司なんだから、何も考えずに魔物を虐殺してきたんでしょうね。


 暑いわ、暑い……。


「ちょっと! まだ冷たい水は来ないの?!」


 はあ……。また一段と暑くなったわね。



 ◆◇◆◇ ゼレット 視点 ◇◆◇◆



 チチガガ湾にキャンプを張って、3日が経とうとしていた。


 最初は海水浴を楽しんでいたパメラたちも、少々飽きてきたらしい。特に何をするでもなく、ぼうと海を眺めていることが多くなった。


 俺はビーチチェアでくつろぎ、もらった前金を使って、優雅に過ごしていた。


 おかげで少し太ってしまったので、今朝は浜辺をぐるりと走ってきた。


 プリムがせっせと作っていた砂城が、2階建ての建物ぐらいになろうとした時、それは突如として始まった。


 今日は浜辺にいないと思っていたハンターたちが、手漕ぎの小舟に載って、海へと繰り出していく。


 リヴァイアサンがいる沖には出ず、湾内に留まると、突如煙を焚き始めた。煙は湾内の複雑な気流によって滞留を始め、しばらくしてチチガガ湾に紫色の煙が立ちこめることになる。


「ごほごほ! ちょ! なによ、これ!」


 セパレートのワンピース水着の上から、上着を着たパメラは、手で煙を払う。


「全くもう……。突然、なんですの?」


 ラフィナもむせ返っていた。


『ワァウ!!』


 俺の側にいるリルも盛大にくしゃみをする。立ち上がるなり、煙に向かって吠え立てた。


「ゼレットさん、この煙ってもしかして……」


「不魔の香りだな」


 俺は短く答えた。


 不魔の香りとは、別名『魔除け香』と言われ、魔物を寄せ付けないために焚くお香のことである。


 魔物除け用で、人間には無害といっても、煙であることに変わりはない。吸い込めば咳き込むし、目も痛くなる。


 少量ならまだいいが、湾内に充満するほどの量ともなれば、害はないとは言い切れない。


「ふははははははははは! ゼレット、見たか!!」


 唐突現れたのは、顔面を覆うガスマスクをした男だった。


 声からしてガンゲルだ。昨日、ヘンデローネの前では形無しだった男は、今日は胸を張り、マスクの中で笑い声を響かせていた。


「これだけの『不魔の香り』を嗅がせれば、リヴァイアサンも逃げ出すに違いない。少なくとも、この湾でリヴァイアサンが卵を産むことはないはずである」


 マスク越しでも、ガンゲルがニヤリと笑うのがわかった。


「ちょっ! そのためにこんなことを!」

「営業妨害ですよ!」


 料理ギルドに属するパメラとオリヴィアが揃って、声を上げる。


「営業妨害? そんな訳がない。我々はここの漁師の依頼を聞いて、リヴァイアサンを追い払っているだけだ。変な言いがかりは辞めてもらおうか」


「言いがかりですって!!」


 パメラはますます目くじらを立てる。煙の中で佇む怪しいガンゲルに、掴みかからんと鋭い眼光を光らせた。


 そこにやって来たのは、歩くボンレスハム――失礼――ヘンデローネ侯爵夫人だ。


 ガンゲルと同じマスクをしているのだが、顔が大きすぎるのか、明らかにサイズが合っていない。


 マスクからは長年ため込んだ皮下脂肪がはみ出ていた。


「うまくいってるようね、ガンゲル」


「はい。侯爵夫人の目論見通りです」


 ガンゲルはスリスリと揉み手をする。


 そこに噛みついたのは、ラフィナだった。


「ヘンデローネ侯爵夫人……。少々やり方が大胆すぎませんか? 現に煙を吸って気分を悪くしている街の人もいます。せめて、作戦をやる前に説明を――――」


「煙を吸ったところで一時的なことよ。それにこれでリヴァイアサンが追い払えるなら、ここの街の人も願ったり叶ったりじゃない。何事にも犠牲は付きものよ」


「この犠牲を防げたと――――」


「ラフィナ、それぐらいにしておけ」


「ですが、ゼレット様……」


「どうせこいつらは、後で住民に頭を下げることになる」


 と俺は予言するのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

「面白い」「次の話が早く読みたい」と思っていただけましたら、

ブックマークの登録と、下欄に広告下にあります☆☆☆☆☆をタップいただき、

作品の評価を付けていただけると嬉しいです。

作品を更新するモチベーションになります。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~

コミカライズ9巻1月8日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる⑨』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス8巻 11月12日発売!
50万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



シリーズ大重版中! 第5巻が10月18日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本5巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本2巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月25日!ブレイブ文庫様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large






好評発売中! 全編書き下ろしですよ~。
↓※タイトルをクリックすると、カドカワBOOKS公式ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる2』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large

小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ