第214話 元S級ハンター、古代兵器と会話する
今、なんて言った?
気象制御雷……??
そーげんき? テンライ?
聞いたこともない単語が俺の頭の中で渦を巻く。1度言葉を飲み込んでみたものの、まったく理解できない。そんな難しい単語、初めて耳にしたし、口にした奴も初めて見た。それがいつも馬鹿弟子と揶揄するプリムの口から出たのだから、余計頭にクエスチョンが並んだ。
「私は馬型極微殲滅兵器人類掃討機――名称『駿角』を破壊するために、人類によって製造された、テンライのAIです」
「さっぱり何を言っているかわからないのだが……」
プリムの言動は、常時でも奇天烈極まりないもので理解しがたかったが、今日はいつにも増してわからなかった。
ただこのプリムを見ていると、あることを思い出す。ここに来て、度々思い出しているが、プリムと最初出会った時と、そっくりなのだ。そう。まだ俺を「師匠」ではなく、「マスター」と呼んでいた時のことを。
「すまないが、極微殲滅とか……、掃減機とか俺に言われてもさっぱりだ。わかるように話してくれませんか?」
「かしこまりました。今より〇%$#”年……。人間の敵は人間ではなく、人間が作り上げたAIでした」
さも当然のように「AI」という名前を出してきているが、俺にはさっぱりだ。文脈からして、おそらく俺たちでいう魔王みたいな存在だったのかもしれない。
「AIは人類の発展と幸福に寄与しました。しかしある時、人類の発展と幸福には多大なリソースを使用しなければならず、さらなる発展を遂げるには人類を間引きする必要があると結論づけました」
「随分と物騒だな」
「AIは優秀な人類を選別し、星間連絡船に乗せて、月に一時的に移住させました。それが終わると、AIはあなた方がいうキングコーンを作り、人類を殲滅しにかかったのです」
「キングコーンは人類を滅亡させるための兵器だったってことか?」
「その通りです。しかし、残った人類も黙っていませんでした。AIをネットワークから閉め出すことに成功した人類は、独自のネットワークをいちから作り上げ、さらにAIのレベルを第9ランクにまで下げることによって効率化を図りました」
「人類の反撃か」
「はい。人類はその後、猛威を振るっていたキングコーンを破壊するための兵器を作り始めました。それが――――」
「スカイ・ボーンか」
何となく話が見えてきた。
平たく言えば、キングコーンもスカイ・ボーンも古代の兵器、いわばガーディアンだ。前者は人類を滅亡させるため、後者はその人類滅亡を阻止するために作られた対抗兵器といったところだろう。
「言わば、キングコーンとスカイ・ボーンは生涯のライバルというわけか」
「適当な言い回しではありませんが、全く外れているわけではありません。その単語でご理解いただけるなら、それでも問題ないかと」
なんかそこはかとなく馬鹿にされていないか。顔がプリムだろうか。マジマジ見ていたら、なんだか無性に腹が立ってきた。
「しかし、なんだって古代の兵器が今も戦ってるんだ? 制御する人間はどうしたんだ?」
「スカイ・ボーンはキングコーンを殲滅するために唯一有用な兵器でした。ただ作った人間が予想外だったのは、その勝敗が1万年近くかかるということでしょう」
「いち……。途方もない数字だな」
「驚くようなことでもありません。2つの兵器の対応限界は10万年なので」
なんかビックリした自分が損じゃないか。
「話は戻るが、つまり1万年もの間に人類は滅びたってことか?」
「はい。キングコーンによる被害も大きいですが、キングコーンの能力はAIたちの想定をはるかに超えていました。人類だけではなく、それ以外の種にも有効だったのです」
「停止はできなかったのか?」
「キングコーンにも、我々よりはるかに高い知能を持ったAIが積まれています。あなたが狙っていた核がそうです」
「あそこが弱点なのは間違いないのか」
「そのAIは独立型でした。外からのハッキングを受けないようにするために、そうせざるを得なかったのです。多くの人類を殲滅し、さらに我々と戦ううちにキングコーンの中にあるAIは独自の思考を持つようになりました。結果、彼の標的は月にいる人類にすら向けられた」
「おいおい。人類が全滅してしまったぞ。じゃあ、俺たちはなんなんだ?」
「あなた方は月にいた人類です。キングコーンの被害から免れ、かろうじてこの世界に戻ってきた……。その証拠にあなたたちは超能力を持っている」
超能力? ああ……。『戦技』や『魔法』のことだな。
「選別された人間は地位や権力ではなく、貴重な血筋や能力を持つものを選びました。中にはわたしのモデルとなった獣人やエルフなどが存在します」
「なるほど。だいたいわかった。……で? なんで俺たちを助けた?」
「あのキングコーンとあなた方が魔族と呼ぶものを倒すために有用な戦力だと判断しました。そしてもう1つ。この身体です」
「プリムが……」
「このプリムの中には、わたしたちが敵とするAIがアップロードされていますが、個体名プリムはどうやら何かの拍子に独立型になって以降、非常にクリーンな人工知能として機能していたようです。おかげで第16世代にかけられたプロテクトを難なく突破することができました」
「師匠がいいからな」
「否めません」
冗談のつもりで言ったんだが……。
「このプリムにも協力してもらい、あのキングコーンを出し抜きます」
「それってプリムの頭脳を使うってことか?」
「その通りです」
マジか……。確かにこいつは只者じゃないし、妙なところで勘がいいのは認めるが……。
「はっきり言って馬鹿だぞ」
「否めません」
「おい!」
「1つ確かなことは、個体名プリムに搭載されている第16世代人工知能は、わたしの第9世代よりも優れているということ。うまく扱うことができれば、テンライ――――スカイ・ボーンをより良く運用ができるかもしれません」
「つまり、お前がパワーアップできるということか。仮にキングコーンを倒した後で、お前が脅威になることはないのか?」
「キングコーンを倒したのを見届けた時点で、わたしは自壊するようにプログラミングされています。このコマンドは独立しており、わたしの権限で拒否することはかないません」
「そうか。俺とリルは高みの見物か?」
「いえ。リル殿にはわたしの魔力供給源になっていただきたい。わたしは雷の熱エネルギーを使って、エネルギーを補充できるが、貯蔵できる量は無限ではありません」
「魔力のタンクは1つよりも、2つある方がいいというわけだな。どうだ、リル」
『わぁう!』
「ありがとうございます、リル殿」
プリムに乗り移ったスカイ・ボーンは深々と頭を下げ、謝意を示した。リルがどういった返事をしたかわからないが、一発解答ということでいいのだろう。
あと、なんで〝殿〟なんだ?
「俺は何をするんだ?」
「その前にゼレット殿。1つ確認してもよろしいでしょうか? あなたはこの作戦に参加してくれるのですか?」
それはさすがに今さらだろう。
俺の目的はキングコーンと魔族だ。この2つを倒すためには相当優秀な人材が必要になる。それこそ俺やプリムがもう1人いるぐらいのな。
その点において、スカイ・ボーンはもっとも適任だ。キングコーンと戦った経験がある。魔物の〝王〟と呼ばれてきたものと組むことに、一抹の不安はないわけではないが、状況が状況だけに俺からお願いしたいぐらいだ。
「プリムとリルがやる気になってるのに、俺だけ外れるわけにはいかないだろう」
「ありがとうございます、ゼレット殿。あなたならそういうと思ってました」
「それで、俺は何をすればいい」
「あなたにはこのスカイ・ボーンを操縦してほしい」
「は? おい。俺は今日初めてあんたに乗ったんだぞ。操縦なんて」
「フォローはわたしとプリムがする。あなたには判断と戦略を考えてほしい」
「判断と戦略?」
「いつ戦い? いつ逃げるのか。離れるのか。あなたのハンターとしての経験と勘をわたしに伝えてほしいです」
経験と勘か……。
確かにスカイ・ボーンの戦いは単純だった。一撃離脱戦術。有効かもしれないが、はっきり言って、相手に読まれやすく、後半になって被弾するかもしれない。
頭脳においてどっちも同じなら、この戦いはそれ以外の要素が勝利の鍵となる。おそらく、このプリムはそう考えているのだろう。
「わかった。いいだろう。だが、1つ覚悟してほしいことがある」
「なんでしょうか?」
俺はスカイ・ボーンに戦略を語る。俺の提案にスカイ・ボーンは是非で判断しなかった。ただ一言――「面白いですね」とだけ答える。
「なるほど。どうやらあなたに任せて正解だったようですね。わたしではその判断はできなかったと思います」
「いけるんだな?」
「問題ありません。個体名プリムがあなたを信頼しているように、わたしもあなたを信頼しておりますので」
プリムの顔で妙な表情を浮かべる。
もしかして笑っているのだろうか。
かなり不気味なのだが、本人はいたって真面目に笑顔を作ってるようだ。
キングコーンと魔族。
スカイ・ボーンと俺たち。
前代未聞のタッグマッチの2戦目はこうして決まったのである。







