第201話 元S級ハンター、結界を張る
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
本日「魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する」のコミカライズ更新日です。
ピッコマ様で独占配信されておりますので、是非読んでくださいね。
よろしくお願いします。
(さて、どうする?)
スピード、パワーともに俺やリルを上回っている。魔法弾も衝撃波によって跳ね返されてしまった。かといって、接近戦は悪手だろう。斬りかかった瞬間吹き飛ばされるのがオチだ。むしろ相手の土俵だしな。やはり距離を取って、攻撃するしかないか……。幸い相手に飛び道具はないようだしな。
安心していると、突如赤耳の獣人は手を水平に掲げた。そのまま空気を薙ぐように振るう。ドンッ! という音ともに空気が弾かれ、衝撃波が起こる。
空気の壁が広範囲に迫った瞬間、俺は首根っこを掴まれ、空を飛んでいた。
「助かった、リル!!」
『わぁう!!』
それにしても飛び道具もありか。
衝撃波の影響で周りの器材まで破壊しているというのに、本当にこいつはガーディアンの一種なのだろうか。どうやらまずは相手の戦力を推し量る必要がありそうだ。
俺はリルの背中に乗る。
「リル、もう少し近づいてくれ。その後は一定距離を保ちながら様子を見る。相手が衝撃波を撃つ素振りを見せたら全力で回避だ」
『わぁう!!』
まず相手の癖や習性を見たい。
如何に古代の遺物と言っても、動く限りなんらかのルールがあるはず。俺たちはまず見極める必要がある。
リルは言葉こそ喋れないが、俺の意図を正確に読み取る。赤耳の獣人との間合いをうまく計りながら、敵を攪乱する。如何に赤耳の獣人でも全力回避するリルには追いつけない。獣人が距離を潰しに来ると、俺は【砲剣】を放ち、対応した。
「あまりこういうやり方は好みではないのだがな」
俺は【砲剣】に次弾を込める。
(あとでダルミスに怒られそうだ)
仕方ない。契約したのは、ダルミスだからな。
遠慮なく、魔法弾を使わせてもらおう。
ドンッ!!
俺は赤耳の獣人に撃ち込む。
案の定、衝撃で弾かれると、跳弾は入口で虫型のガーディアンと戦うユーギーたちの足元に刺さった。
「うお! 危ないじゃねぇか、黒コート」
「なら、範囲外で戦闘しろ。巻き添えを食うぞ」
「はあ? お前、何をい――――」
ユーギーの声が止まる。
迫ってきたガーディアンの攻撃を回避した。
さらに腹の中に潜り込むと、双剣を突き刺す。
ガーディアンは冒険者に任せて大丈夫そうだ。
俺は魔法弾を撃ち込み続けるが、いよいよ弾数が乏しくなってきた。通常のハントでこんなに撃ったことがないからな。魔法弾は金がかかるから、1回のハントに1発しか撃たないようにしてるし。
「仕方ない。実弾に『魔法』を込めるか」
実弾を握り締め、そこに『魔法』を込める。素早く【砲剣】に装填しようとした時、赤耳の獣人が一瞬速く、俺たちの前に現れた。ブンッ! と音を立てて、空気が歪む。
「ふん。甘いな」
たった今『魔法』を込めた実弾を、親指の上に乗せる。パリッ! と破裂音がした瞬間、雷属性の『魔法』が込められた魔法弾が放たれた。
光に似た速度で魔法弾は飛び出すと、至近にいた赤耳の獣人は身体を捻って咄嗟に躱す。一瞬出来た隙を、リルは見逃さない。俺を乗せたまま身体を捻ると、大きな尻尾で赤耳の獣人を吹き飛ばした。
「ナイスだ、リル」
『わぁう!!』
俺が頭を撫でてやると、リルはどんなもんだいと首を伸ばし、機嫌良く尻尾を揺らした。しかし赤耳の獣人はほとんど無傷だ。空中でくるりと回って、軽やかに着地する。その動きは狼というよりは、猫そのものだ。
「無傷か。だが、弱点は見えた。反撃を開始するぞ、リル」
『わぁう!!』
俺はしばしリルの背の上で、先ほどと同様に実弾に『魔法』を込めていく。いよいよ反撃の準備をととのえたところで、【砲剣】を構えた。リルの腹を軽く叩くと、相棒は俺の意図を察して動き出した。所定位置についた瞬間、銃把を引く。
ドンッ!!
魔法弾が火を吹く。
【砲剣】の先から飛び出したそれは真っ直ぐ赤耳の獣人に向かって行った。当然獣人は弾く。水平に払われた実弾は壁にめり込んだ弾に弾かれた。
「なんだ?」
すぐ側で聞いた跳弾音にユーギーが耳を立てて反応したのが見えた。
さらに跳弾は多角的な動きを繰り返した後……。
赤耳の獣人の眉間に迫った。
キィン!!
ほぼ死角からの攻撃に、赤耳の獣人は咄嗟に反応する。
「反射速度はさすがだな。だが、こいつはどうだ」
ドゥン!!
ドゥン!!
ドゥン!!
続けざまに三連射する。
すべて獣人を狙ったものだ。
くどい! とばかりに赤耳の獣人はすべての弾を弾く。
再び跳弾は壁にめり込んだ弾に弾かれ、跳ね返る。それどころか加速した。再び赤耳の獣人のもとに戻ってくる。1弾目を弾き、反対側から襲ってきた2弾目を弾く。
しかし、ほんの刹那ズレたタイミングで飛んできた3弾目に対し、ついに被弾する。
俺は獣人が前のめりになるのを見て、ここぞとばかりに弾を撃ち込む。
頑丈な身体らしい。すぐに体勢を戻すと、弾を弾いた。
キィン! キィン! キィン! キィン!
キィン! キィン! キィン! キィン!
キィン! キィン! キィン! キィン!
けたたましい跳弾の音が辺りに響く。
その音にガーディアンと戦っていたユーギーやダルミスが振り返った。
「なんだ、ありゃ!」
「まるで結界だな……」
赤耳の獣人を中心に無数の弾が行き交う。
その終着地点はすべて赤耳の獣人だ。変則的で四方八方から降り注ぐ弾に対応するが、ほぼ同時に逆方向からくる弾にどうしても遅れてしまう。
「お前の弱点はそのボディだ」
如何に力とスピードに優れた獣人の身体とて、身体構造としては俺たち人間と変わらない。人間の身体というのは、汎用性が高いように見えて、可動域が限られている。もっといえば、正面の危機にしか対応できないのだ。
「普通のガーディアンは360度に対しての対応が可能だが、お前は精々200から220度ほどの視界にしか対応できない」
つまり見えてる逆方向の攻撃に明らかに弱い。それは人間も一緒だがな。
「そして、お前にはもう1つ弱点がある」
跳弾の攻撃に悪戦苦闘する赤耳の獣人に俺は、【砲剣】を向ける。
ドゥウ!!
今回において何度も聞いた砲声が空間に響く。
光跡を引き、弾は真っ直ぐ赤耳の獣人に飛んでいく。獣人は何気なく弾こうとした瞬間、その弾の性質に気づいて、対応が遅れた。手を引っ込め、回避しようとする。
「遅いな」
バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ!!
雷属性の『魔法』が弾ける。
直後、獣人が雷撃を浴びた。
真っ白な光に満たされ、たちまち獣人の顔は真っ青になっていく。やがて焼け焦げた臭いが漂うと、雷撃が止んだ。
諸に雷属性を浴びた獣人はついに倒れる。
「所詮お前もガーディアンというわけだ。まさか雷属性が弱点だったとはな」
俺はスコープから目を離した。







