第191話 元S級ハンター、帰還する
☆★☆★ 単行本第4巻 本日発売 ☆★☆★
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「ゼレット! シエル!!」
密林の入り口で待ち構えていたのは、パメラだった。
俺たちの姿を見つけると、一目散に走ってくる。
腕の中で泣き疲れて眠っているシエルと一緒に、俺はパメラに抱きしめられた。
「良かった。2人とも無事で」
「すまん。心配をかけたな」
「馬鹿! 心配はしたけど、信じていたわ。だって、ゼレットは私の旦那様で、私のヒーローでもあるもの」
「ヒーローって……。ちょっ――――」
いきなりパメラは俺の口を塞ぐ。
俺のコートを引っ張る手は少しだけ震えていた。
やはり随分と心配をかけたらしい。
火山から離れているが、ここも相当危険だったはずだ。
それでもパメラは俺を信じて待ってくれた。
シエルといい、パメラといい。
「何を考えているの、ゼレット」
「うちの家族はたくましいな、とな」
「当たり前じゃない。世界最強のハンターの妻と子どもなんだから」
「そうか」
俺もお返しにパメラにキスを返す。
その下で、シエルがスヤスヤと眠っていた。
はたと気づく。後ろにはオリヴィア、ラフィナ、さらに料理ギルドのギルドマスターが立っていた。どうやらパメラだけではなかったらしい。
「お、お前ら、いるならいるといえ」
「そんなこと言われましてもぉ(ニヤニヤ)」
「家族の団欒、夫婦のひとときを邪魔するほど野暮ではありませんわ(ニヤニヤ)」
「ただ続きをするにしても、ちょっと陽が高いわよね〜。ざ〜んねん」
「するか!」「しないわよ!」
俺とパメラは猛然と反論する。
シエルが一瞬目を覚ましかけたが、すぐに寝てしまった。
相当な大冒険だったからな。今はママに会えた喜び以上に、眠気の方が勝っているのだろう。
「で……? エシャラスライムはどうしたの〜?」
「親元に返してきた。1匹残らずな」
「そう。お疲れさ~ま」
ギルドマスターは一息を吐く。
料理ギルドで、たとえエシャラスライムが食材の対象でなくとも、魔物に携わる責任者としては動向を心配していたのだろう。
エシャラスライムの恐ろしさも、よく理解しているみたいだしな。
俺はかいつまんで森であったことを説明する。
ただ魔族のことについては、伏せておいた。
火山の噴火に、ボンズによる毒の影響。
今回に関しては心配の種が尽きない。折角のバカンスだというのに、これ以上不安がらせるのもどうかと思ったのだ。
「本当に間一髪だったのね」
「リルちゃんに、プリムさんもよく頑張りましたね」
オリヴィアは疲弊したリルとプリムに抱きつく。
そういえば、さっきからプリムがおとなしい。
じっとオリヴィアを見つめると、朦朧としながら口走った。
「オリヴィア、お腹空いた」
「それはそうでしょう。ホテルに帰ったらすぐに」
「オリヴィア、美味しそう」
「へっ……」
プリムはオリヴィアに迫る。
がしがしとゾンビみたいに迫り、襲いかかった。
――と、その前に俺が気絶させる。
お腹の空いたプリムに抗う力はなく、すぐに意識を失ってしまう。
「あまり近づかない方がいいぞ。今は何でもご飯に見えるからな」
「ひっ!」
オリヴィアはギルドマスターの後ろに隠れる。
流石のプリムも今回ばかりはガス欠らしい。
まあ、ゾンビみたいになるのは意味がわからんが。
「ヤムとその取り巻き、それにボンズというハンターはどこへ?」
「こっちにこなかったか、ラフィナ」
「わたくしたちがここについたのは、半日ほど前です。その間は誰も……。エシャランド島はヤムたちの根城ですから、しぶとく生きているとは思いますが」
「どこかに隠れ脱出路があっても、おかしくないか」
魔族という横槍が入ったが、今回の元凶はヤムたちだ。
あいつらを捕まえられなかったのは、少し悔しいな。
今度会ったら、魔法弾ではなく鉛玉をプレゼントしてやる。
魔法弾よりも殺傷能力が低い分、じわじわなぶって、シエルを危険に晒した報いを受けさせてやるのだ。
「ふふふ……」
「ゼレット様が笑ってる」
「気をつけなさい、ラフィナ。あれ、相当怒ってる時のゼレットの顔だから」
ヤムたちの企みのおかげで、すっかりバカンス気分がなくなったが、家族が全員無事で何よりだ。
とりあえず今はホテルに帰って、シャワーを浴びたい。
いや、お風呂があるんだったな。
シエルやリルと一緒にゆっくり湯に浸かるとしようか。
その後、豪勢な料理でも食べながら、酒でも飲むか。
「ひとまずホテルに帰るか。とりあえず横になりたい」
「ゼレット様、誠に申し訳ないのですが、宿泊施設の従業員はみんな島から脱出しまして。ほとんどいないかと」
なんでもラフィナがチャーターした船によって、島にいるほとんどの人間の避難が済んでしまっているらしい。
火山のことを聞いて、魔法で文を送って、近くを通る船舶が島に殺到したそうだ。さすがはアストワリ公爵家の名前は強いな。いや、ラフィナの顔が広いというべきか。
「申し訳ありません。今はサービスの提供を行うのは、難しいかと思われます」
「つまり、今この島に残っているのは俺たちだけということか」
「はい。警備員や職員が数名残っていますが……。それが何か?」
「ということは、俺たちだけの貸切ということだ」
このエシャランド島を……。
「そ、それはそうですが……。ゼレット様、一体何をお考えに」
「どうせ次の船が来るまで時間がかかるのだろう。なら遊び倒す。俺はバカンスに来たんだから」
おそらくシエルもそれを望むだろう。
エシャランド島には、まだまだいっぱいスライムくんもいるんだしな。
「ゼレットくぅんってば……。ここがいつマグマの上になるかわからないのよ〜」
「どうせ船が来ないのですから、心配しても仕方ないかと」
「ラフィナ様のいうとおりです。オリヴィアはゼレット様の提案に1票です!」
ギルドマスターは肩をすくめるが、ラフィナもオリヴィアも遊ぶ方を選択する。
パメラもシエルを抱きながら、同意した。
「そうと決まれば、まずは腹ごしらえからだな」
「料理なら任せて〜。今回は腕を振るっちゃうわ〜」
「まだ宿泊施設には材料が残ってるはずですし。大丈夫そうですね」
ギルドマスターが腕を捲れば、オリヴィアもやる気を漲らせる。
そこに俺は待ったをかけた。
「いや、俺たちに相応しい材料ならここにある」
俺はコートの中から魔法袋を取り出す。
食材専用の魔法袋で、冷凍保存することも可能な優れものだ。
ちなみに料理ギルドが開発したものらしい。
以前、リヴァイアサンの卵の奪取の時にも使った奴である。
「ラフィナ、お前との約束……。1つ達成したぞ」
「え? まさかAランクの魔物を……」
「ああ。さあ、ご開帳だ」
久しぶりに俺が取ったAランクの魔物をとくと見ろ。