第179話 元S級ハンター、姫に誓う
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コミカライズ19話が更新されました。
いよいよリヴァイアサンとの対決かと思いきや、予想だにしない存在が現れて……。
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戦技――――【陰鋭雷斬】!!
魔物ですら動きを止めるほどの雷撃が、ボンズの身体を貫く。
さしものS級ハンターも、この一撃になす術がない。
断末魔の悲鳴を上げて、悶え苦しむだけだった。
やがて雷撃は止まり、ボンズはその場に倒れた。
昔馴染みというほど仲が良かったわけではないが、元同僚のよしみで威力は絞ってある。といっても、中型の魔物が気を失うほどの雷撃は浴びただろうがな。
「さっすが、師匠! 同じハンターでも容赦ないね」
「プリム。それ褒めてるのか?」
「ふにゃ? ……でも、焦げ焦げだ」
「待て! プリム、まだ近づくな」
殺気が膨れ上がる。
倒れていたボンズが突如起き上がると近づいてきたプリムに襲いかかった。
手に仕込んでいた毒の礫をプリムに向かって放つ。
「間に合うか!!」
俺は足先に雷の『魔法』を履く。
一気に加速を始めると、プリムとボンズの前に躍り出た。
毒の礫をまともに浴びる。
「ぐっ!」
「師匠!!」
ボンズの攻撃はそれだけにとどまらない。
視界の端でボンズが再び【蠱毒】の『戦技』を放つのが見えた。
「させるか!!」
俺は【砲剣】を振るう。
やや力の入った一撃は、ボンズの突き出した手の平を切る。
浅いが、ボンズを怯ませるには十分だ。
ボンズは「ぎゃっ!」と悲鳴を上げて、のけぞる
俺もそれ以上追撃しない。
まだ何か仕込んでいる可能性がある。
それにしても……。
「腐ってもというか……、お前の場合、元々腐っていたようにも感じるが、ハンターだな、お前も。あの一撃を喰らって立ち上がるとは」
そんな根性がある人間とは思わなかった。
人は見かけに寄らないな。
一方、ボンズは俺の話を聞いていたのかいないのか。
ただ項垂れたまま、荒く息を吐き出している。
ゆっくりとあげた顔を見て、俺は思わず息を呑んだ。
ボンズの顔が青くなっていたのだ。
「お前……。意識を失わないように自分から毒を食らったのか」
『戦技』から察するに、毒に対する耐性にはそれなりに自信があるのだろう。だとしても、自分から毒を食らうのは、なかなか勇気がいる。思い切りの良さというか、根性だけはあるようだ。
「さすがにしんどそうだな。これ以上、戦えまい」
「ああ。ひとまずボクはここまでだ。でも、戦えないのはお互い様だろ、ゼレット」
ボンズは口角を上げる。
「いたぞ!!」
「こっちだ!!」
「お前ら、集まれ!!」
突然、背後から怒声が聞こえる。
振り返ると、武器を持った破落戸がわんさと部屋に入ってきた。
「チッ! 時間をかけすぎたか!! ボン――――」
再びボンズの方に振り返ると、本人の姿はどこにもいない。
その代わり、開いていたのは分厚い岩戸だ。
どうやらこの部屋の隠し扉らしい。外へと続いているようだ。
「逃げ足が速いな」
「師匠、どうする? やっちゃう!!」
プリムはシュシュッとその場でシャドーをする。
俺は軽く顎を振りながら、シエルを抱え上げた。
そのシエルの口に布を当てる。
「シエルがいるのを忘れるな。逃げるぞ」
俺は自慢の黒コートを振る。
出てきたのは、拳骨大ぐらいの玉だ。
突如、白い煙を吐き出すと、部屋の中は真っ白になった。
「げほ! げほ! げほ! げほ!!」
「なんじゃこりゃ!!」
「煙幕か! 逃げられるぞ!!」
破落戸たちは白い煙に視界を奪われ、さらに咳き込む。
場が混乱する中、煙の中を走る影が先ほどの岩戸へと走って行った。
最中、声が響き渡る。
「いたぞ! 今、岩戸の奥へと逃げた!!
「くそ! 逃がすか!」
「生きて返すな!!」
「姐さんに殺されるぞ!!」
男たちはボンズの逃げた岩戸に流れ込む。
そのまま前を走る影を追いかけ続けた。
先ほどまで破落戸たちが集まって騒然としていた部屋が静まる。
煙も段々と収まり、部屋の中が落ち着きを取り戻し始めた。
やがて身体を起こしたのは、俺とリル、そして腕に抱えたシエルだ。
「なんとか巻いたな」
よくある手だ。
敵を混乱させ、逃げると見せかけて、その場に残ってやり過ごす。
オーソドックスな手だが、混乱の最中にある人間にはもっとも利く手だ。
ちなみに逃げていったのは、プリムである。
身体能力お化けのあいつなら、破落戸たちを巻くことなど造作もないだろう。
部屋に残されたのは、俺たちとエシャラスライム。
あの戦いと混乱の最中でも、秩序だって残っていたらしい。
例のシエルがスライムくんだと思っているエシャラスライムも、俺の足元まで来て、シエルを見上げた。その背後には、捕まっていたエシャラスライムが居並んでいる。
「パーパ……」
「ん?」
「スライムくん、みんな帰してあげて。スライムくんのパーパとマーマ、しんぱいしてる」
シエルは潤んだ目で俺を見つめる。
それはシエルだけじゃない。
エシャラスライムも目で訴えかけてくる。
おいおい。俺は元ハンターなんだぞ。
どっちかといえば、魔獣の敵側なんだが。
『バウッ!!』
残っていたリルまで頭を下げている。
リル、お前もか。
しかし、大事な愛娘のお願いである。
父として叶えないわけにはいかない。
俺は1度シエルを抱き上げる自分の指先を見つめる。
シエルをリルの背中に乗せると、俺は膝を突いた。
「任せろ、シエル。パーパはどんな願いもかなえる魔法使いだからな」