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第173話 元S級ハンター、探る

「少しお時間をいただけませんか?」


 緊迫する空気の中で、ヤムが口を開いた。

 本当に肝が据わった女だ。

 なかなか修羅場を超えてきたのだろう。

 すでに半分化けの皮が剥がれてきているというのに、未だに笑顔を崩さない。


「部下にこんなことをさせておいて、今更かもしれませんが、詳しい事情をお話ししたいのです」


 俺はすぐに返答しなかった。

 魔物相手ならともかく、こういう人間相手の駆け引きは苦手だ。

 迷っていると、ラフィナが助け船を出してくれた。


「どうぞ。お話になってください」


「では、場所を変えませんか。ここは少々風通しが良すぎるかと……」


 壁には穴が開き、扉はバラバラ。

 高そうな絨毯にはガラスの破片が散乱し、窓からは風が吹き込んでいた。


 ヤムの提案は悪くはない。

 俺としても、家族を今すぐにでも安心させたい。


「断る」


「おや。それは――――」


「悪いが、俺はどうもお前たちが信用できない」


「疑り深いのですね?」


「過去に色々あってな。すぐに大人を信用しないようにしている。特に俺がこれだけ殺気立っているのに、顔色ひとつ変えない人間なら尚更だ。変更した部屋に罠がないとは限らないからな」


「わかりました。では、ここでお話しさせていただきます。我々は逃げ出したエシャラスライムを探しております。エシャラスライムについて説明は……」


「必要ない。まず南の保護区にいるエシャラスライムがなぜ、島の北にいる」


「この島のことをよくご存知なのですね。ならば話が早いです。エシャラスライムの保護については、当方が引き継ぎ行なっているのですが、ある時スライムの数が足りないことに監視員が気付きました」


 エシャランド島固有の魔物であるエシャラスライムは、常にその数を監視されている。

 どうやら、島を国から買い上げる際の約束だったらしい。

 ヤムの商会が引き継いだ後も、その仕事は厳格に続いていたようだ。


「エシャラスライムの数が足りないと気づいたのは、1週間ほど前。それから我々は人を使って、ずっと探しておりました。手がかりが見つかったのは、三日前。デザインの違うスライムを見つけたお客様から連絡があり、件のスライムが遊戯施設内にいることがわかったのです」


「そして、今日……。そのスライムを持って、ホテルに戻ってくる私たちを見かけたというわけですか?」


 ラフィナの言葉に、ヤムは頷く。

 さほど難しい話でもない。迷子のスライムを探していた、それがシエルが見つけたエシャラスライムだったというわけだ。


 理解できないわけではない。

 多少手荒だったことは確かだが、ギリギリ許せる範囲だ。

 規則を犯したはこっちが先だしな。


 だが、ヤムの説明がどうも腑に落ちない自分がいる。

 嘘はついていない。いや、正確に言えば真実と嘘を混ぜているような印象だ。

 でも証拠はない。

 あくまでこれはハンターとしての勘だが……。


「ゼレットくぅん?」


「わかってる、ギルマス」


 あまり考えている時間はなさそうだ。


「パメラ、キュールにスライムを渡すように伝えてくれないか?」


「パーパ?」


 初めに反応したのは、シエルだった。

 難しい話が続いていたが、子どもなりに理解しているのだろう。

 シエルは周りの大人たちに助けを求めるように、顔を向ける。

 だが、手を差し伸べるものはいない。

 代わりにパメラが、自分の娘の頭を撫でた。


「マーマ?」


「シエルが拾ったスライム君はね。元気になったから、スライム君のパーパとマーマの元に帰らなければならないの」


「スライム君のパーパとマーマ?」


「そう。シエルもパーパとマーマから離れるのは嫌でしょ?」


 シエルは黙って頷いた。


「だったら、スライム君を返してあげようね」


「…………」


 シエルは時間をおいて、力なく頷いた。

 そんな愛娘の頭を、パメラは改めて撫でた。


 そしてキュールに命じる。

 木のオブジェは薄い木の皮となって巻き取られる。

 中からスライム君が現れた。


 いきなり外に出されて、戸惑っている。

 すると、シエルと目が合うと互いに見つめ合う。

 アイコンタクトというか、実際に言葉にするよりも、目で通じ合っているような気がした。


 シエルはエシャラスライムを撫でる。


「バイバイ」


 シエルの目は真っ赤になっていたが、泣いてはいなかった。

 涙が落ちそうになると、自分でも何度も拭いている。

 エシャラスライムを安心させるように、笑ってみせた。


 ただ当のエシャラスライムは何が起こったかわからないようだ。

 シエルと周りの様子を交互に見つめている。

 最中、大きな手が伸びる。

 ムトーという猩猩族の手だ。

 エシャラスライムを拾い上げると、小さな鉄かごの中に入れてしまった。


「ご協力感謝申し上げます、ゼレット様。ああ。それと部屋の方ですが、別の部屋を案内させます。少し手狭になるかもしれませんが、目の前にはプールがある部屋です。どうぞご家族とお楽しみください」


 ヤムは一礼すると、他の2人と一緒に魔導昇降機を降りて行った。



 ◆◇◆◇◆



 俺たちは一旦宿泊施設を出た。

 代わりにあてがわれた部屋には不満はなかったが、どうも気味が悪い感じがする。

 『戦技(スキル)』による【盗聴】などはされているというわけではないが、ずっと見張られているような気配を感じる。


 俺は空気を変える意味でも外に出た。


 宿泊施設から出てすぐのところにあるキャンプ場に行く。

 機材と食材が一揃いあるバーベキューセットを注文し、肉を焼いていた。


 エシャラスライムがいなくなって、シエルは沈んでいる。

 肉は大好物なのだが、串に刺さった肉を齧った後、物憂げな顔を下に向けていた。


 俺はそんなシエルを励ますと、愛娘から質問が返ってくる。


「パーパ、スライム君。また会える?」


 シエルがいうスライム君はもちろんあのエシャラスライムのことだろう。


「ああ……。会えるさ」


「あのね! バイバイできなかったの」


「シエルはバイバイしてただろ?」


「ううん。手でバイバイって……。だからちゃんとバイバイしたいの」


 なんか聞いた俺が泣きそうになってしまう。

 やはりシエルから離したのは間違いだったかもしれない。

 あの時、意地でも突っぱねなかったことを今さら悔いてしまった。


「そうだな。今度会った時は、ちゃんとバイバイしような」


「うん」


 シエルは二口目を食べる。

 ようやく肉の味を噛み締めることができたらしい。

 悲鳴を上げながら、目を輝かせていた。


「あ! 師匠だけずるい!!」


 声を上げたのはプリムだ。

 側にはリルもいる。

 俺に抗議するように『ワァウ!』と吠えた。


 早速、肉がいっぱいついた串にがっつきはじめる。


「プリムさん、今までどこにいたんですか?」


 オリヴィアはパメラと一緒に、炭の上の串をひっくり返す。


「そういえば、ラフィナさんもいないわね」


「ボクは師匠の頼まれごとをしていたんだよぉ。ラフィナのことは知らな〜い」


 肉にがっつきながら、プリムは答えた。


「プリム、どうだった?」


「いたよ」



 スライム、いっぱいいたよ。


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