第167話 元S級ハンター、豪華ディナーを味わう
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「うっま!!」
思わず自分が食べたエシャランド牛の炙り焼きを見つめた。
口の中に入れると、軟らかな肉質がふにふにと歯を押し返してくる。ギュッと奥歯で噛んだ瞬間、濃厚な肉汁と旨みが舌や歯茎に浸透するように広がっていった。そこに甘塩っぱい味が絡み、抜群のジャンキー感に再び声が出そうになる。
じっくりと煮込んだ肉を最後に炎の『魔法』で炙ったのだろうが、この軟らかさは肉質にもあるのだろう。
加えて、脂はしつこくなく上品。味付けの妙もあるが、胃の中に入れて、拒否反応をまるで感じない。何本でも食べれそうだ。
何より地麦酒に合う!
肉汁で包まれた口の中に、果実をそのまま食んだような麦酒がたまらない。
口内が爽やか空間に包まれると、手がまた炙りテール肉へと伸びていた。
「ゼレット様、こちらもどうぞ」
ラフィナが俺に差し出したのは、大量の生姜だった。
「先ほど従業員から説明を受けたのですが、ここにたっぷりの魚醤をかけて、お肉の上にのせて食べるとおいしいそうですよ」
「そういえば、そんなことを言ってたな」
言われた通りに食べてみる。
「ぬはっ! うまい!!」
うまい!!!!
肉と生姜は運命共同体と呼べるほど合うものだが、やはりそのコンビに間違いはなかったらしい。
つんと鼻腔を突き抜けていく爽快感。
先ほどの濃厚な肉汁を生姜が爽やかな味に仕立ててくれる。
すりおろしではなく、生姜を細かく刻んでいるのもいいな。
軟らかな肉の食感の中に、魚醤がかかった生姜のつぶつぶが混じって、いいアクセントになっていた。
見た目は単なる肉の炙り焼きにしか見えないが、肉質や調理方法、食べ方すべて洗練されている。
これもまたスイートルームで宿泊する者の特権というものであろうか。
家族が幸せであれば、それでいいと思ってはいたが、やはり金というか贅沢というのは偉大だ。
俗物的なお金の価値で、精神的に満たされるのは、何か今まで感じたことのない不思議な感じだった。
さて、料理はこれで終わりではない。
肉料理はまだあった。
今度は同じ牛テールでも、スープである。
湯気とともに上がってくる芳香は優しく、どこか癒される。数種類のハーブというか、薬膳にも使われそうな薬草が使われているのだろう。芳香が鼻の奥まで気持ちよく通っていく。そこには実に食欲がそそりそうな獣臭も隠れていた。
手始めにスープから味わってみる。
「うっっっっま!!!」
濃厚な牛骨の旨みに加えて、数種類の野菜に茸、ハーブなどが渾然一体となって、舌を刺激する。
濃いというよりは、色んな味が合わさったことによって、味の層が生まれ、これでもかと連打してくるみたいだ。
野菜や茸の出汁に、ハーブによるスッキリとした後味。濃厚なエシャランド牛の出汁と、様々な味を余すことなく感じられる。
この調和は料理人の腕によるところだろう。
温かいスープは麦酒で冷えた胃にちょうどよいどころか、カッと身体を熱くさせてくれる。気が付けば、額に汗が浮かんでいた。
張り付いた髪を払いながら、いよいよにスープから肉を取り出す。
「でかい!」
先ほどの炙り焼きの時もそうだったが、スープに使われている肉もかなり大胆にカットされている。
俺の拳ほどではないが、パメラぐらいならあるかもしれない。
炙り焼きの時もそうだったが、スープから上げるとぷるぷると震えている。そこからスープが滴り、まるで泣いているようだった。
何か俺が肉をいじめているような妙な感覚に襲われる。
まずは一口……。
「うん! うまい!!」
期待を裏切らない軟らかさ。
噛んだ瞬間、こちらは濃厚な肉の旨みだけを残して、消えていくような感覚を覚える。
肉から滲み出てくる肉汁と、スープの味が合わさって、これもまた筆舌に尽くしがたい。どこか陶酔させてしまうような魅力を秘めていて、つい犬のように貪ってしまった。
さて、テールスープにも例の生姜と魚醤が付いている。またこれを付けて食べるのだそうだ。
みんなで生姜と魚醤を回しながら、体勢を整える。
汁をたっぷり吸ったエシャランド牛のテール肉にたっぷりかけて、口の中に入れた。
『うまああああああああああああいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!』
俺たちは絶叫する。
「合うわ~。合うわねぇ!!」
「おいしくて……。ほっぺた落ちちゃいそうですぅ」
「これはうちの店にも出したいかも。あとでレシピを教えてもらおうかしら」
「さほど癖がないとはいえ、さっぱり食べさせてくれますねぇ。ワインが進みますわ」
「はむはむはむはむはむはむはむはむは……」
『ワァウ!!』
みんなも満足らしい。
濃厚なテールスープに生姜と魚醤が合わさるだけで、こんなにあっさりとして食べやすくなるとは……。
やばい。何杯でも食べられそうだ。
それに食べてみて思ったのだが、ちょっと試してみたい食べ方ができた。
「銀米を、茶碗1杯だけ」
俺は追加注文する。
従業員は頷き、しばらくして部屋にお櫃ごと銀米を持ってきた。
どうやら俺と同じことを考える人間がいるようだ。
「スープでおじやをするの、ゼレット?」
「あら。それはおいしそう。あたしもやろうかしらん」
「このスープ。銀米にも合うでしょうね」
みんなもご飯をよそい出した。
だが、俺の狙いはそれだけではない。
ホカホカ銀米の上にのせたのは、最初に食べたマグロのユッケである。
そこに熱々のテールスープを入れたのだ。
「おお!」
「おいしそうですぅ」
「なるほど。そっちか」
「合うのかしら?」
俺としてもかなりチャレンジングな食べ方だが、どうしても試してみたくなった。
俺はサラサラと銀米と、マグロのユッケを掻き込む。
「うまい!」
当たりだ。
牛のスープとマグロが合うのか心配だったがなんてことはなかった。
どっちもおいしいのだから、最初からおいいしいに決まっている。
銀米のほのかな甘さに加えて、ややハーブを聞かせた独特の風味がよく、マグロのユッケがいい接着剤になっている。
マグロのコリコリとした食感は、お湯をかけたことによって強まり、さらに身の中の旨みをよく引き立たせていた。
カンカンと描き込みながら、俺は一気に完食する。
「はあ……。うまかった」
「ぱーぱ。シエルも食べる!」
俺の食べっぷりを見て、シエルも触発されたらしい。
このテール肉は柔らかいし、シエルでも食べられるだろう。まあ、少し塩っぱいから大量に食べるのはNGだが。
「はい。あーん」
俺は船でシエルがやってくれたことのお返しをする。
シエルは目一杯口を開けて、テール肉を呼び込んだ。
小さな肉片をモニュッと噛むと、2歳児の目は星屑のように輝き出す。
「うまいっ!」
声を上げる。
「そうか。良かったな」
「似てた?」
「ん?」
「パパの真似! 『うまい!!』」
ドヤ顔を見せる愛娘がまた愛おしい。
思わず撫でちゃう……。
最高の食卓に笑いが漏れる。
ヴィンター家で食べるのも良かったかもしれないが、オリヴィアやラフィナ、ギルマスも加わると、ちょっと慰労会という雰囲気があって悪くない。
いつの間にか、戦友みたいになっていた。
さあ、明日はエシャランド島の散策だな。
シエルと一緒に回るのが楽しみだ。
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