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第164話 元S級ハンター、英気を養う

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挿絵(By みてみん)

「なん……だと……」


 早速、貸切風呂にやってきた俺は、横戸を開いた瞬間、つい固まってしまう。眼前に広がる光景を見て、思わず息を呑んだ。


 そこにあったのは、優に大人が7、8人入れるような岩風呂だ。お湯が出ないように多少加工されてはいるが、自然にできた岩の凹みをうまく再現することに成功している。


 さらに石畳みの床に、洗い場にはピカピカの鏡まで設置されていた。何気に置かれた鏡だが、これはこれで結構高い。しかも庶民が手を出しやすいものではなく、ちゃんと貴族の令嬢が愛用するような、美しい鏡面だった。


 圧巻だったのは、岩の向こうに広がる海原だろう。


 客船の上から嫌になるほど見てきた光景とはいえ、露天風呂から見る海の姿はまた違った趣がある。

 漣の音は優しく、白波がいつかこの露天風呂に迫ってくるのではないかと思わせるような迫力があった。


 露天風呂とは聞いていたとはいえ、貸切である。

 大人ひとり入れるぐらいの湯船に、ちょこんと浸かるぐらいだろう――そんな風に考えていた自分の想像力のなさに呆れてしまう。


 これが本当に無料なのか、とまた問いただしたくなったが、生憎と現在露天風呂にいるのは俺1人だった。


「ほ~ら。何を突っ立ってるのぉ? ゼレットくぅん」


 しばし貸切露天風呂の前で唖然としていると、何か硬い板ようなものに押される。

 振り返ると、大男が立っていた。一瞬誰かわからなかったが、口調で気づく。おそらくギルドマスターである。

 いつも完璧にセットした髪を下ろし、化粧を落としていたので、わからなかった。


「おんや? どうしたのぉ、ゼレットくぅん。もしかして~、あたしの一糸まとわぬ姿に見惚れちゃった?」


「そんなわけないだろ?」


 すり寄ってくるギルドマスターを、俺は軽くいなす。「つれないわねぇ」とギルマスはあからさまに顔を顰めた。


「さあ、さ! それよりも早くお風呂に入りましょ! あたし、こんな大きな貸切風呂に入るの初めて! 楽しみだわぁ」


「いや、ちょっと待て! よく考えたら、ここの風呂はヴィンター家が貸し切ったことになってるんじゃないのか?」


「大丈夫よ。奥様には許可をもらったし。ゼレットくぅんも1人じゃ寂しいでしょ~」


 パメラ~~! 余計なことを!


 まあ、いい。

 ギルマスに世話になってることだし。

 ここは大目に見るか。


 それにしても……。


「お前、男だったんだな」


「やだぁ! ゼレットくぅんったら、唐変木ね。そんなセンシティブな話題をサラッと言っちゃうんだから。でも、あたし――心は女だから、いつでもいいわよ!」


 何がいつでもいいだ……。

 俺には家族がいるんだぞ。


 いや、待て。

 何気に俺の貞操の危機では?


 などと考えていると、いきなり頭の上からお湯が降ってきた。昔おぞましいといわれた黒髪が、水分を吸ってしっとりとなる。


 原因はギルドマスターだ。


「ほら。かけ湯をして、早速温まりましょ」


「いきなりかけるな!」


 近くにあった桶を握ると、俺はギルドマスターに湯をかけた。

 身体を隠した布が水分を吸う。


 お互いしっかりかけ湯した後、露天風呂に身を沈める。入った時こそ熱く感じたが、段々と身体が馴染んでくると、適温に感じた。


「いい湯だ」


「ここ。天然温泉なんですって。南の方から引いてるらしいわよ」


「南の方には火山もあるからな。確かに温泉があってもおかしくないか」


「あら。ゼレットくぅん、詳しいのね」


「昔、ちょっとあってな」


「気になるわねぇ。ハンターだった頃のお話でしょ、それ」


「ふん。それよりも、湯船に布をつけるのはマナー違反だぞ」


 ギルマスは首の下から足先まで布を巻いて身体を隠している。


「別にいいじゃない。貸切なんだし。それとも、あたしの身体、見・た・い?」


「わかった。そのままでいい」


「連れないわねぇ」


 そう言った後、ギルドマスターは手を叩いた。すると、従業員が足音を消して湯殿に入ってくる。

 湯船のすぐ側まで来ると、膝を突いて、「ご注文は?」と尋ねた。


「酒肴と麦酒をちょうだ~い。ゼレットくぅんはどうする?」


「え? あ?? ……そ、それじゃあ、俺も麦酒を」


「じゃあ、2つね」


 さも当たり前のようにギルドマスターを注文すると、従業員は下がっていった。


 しばらくしてトレーの上に麦酒瓶とガラスの杯と酒肴が送られてくる。瓶に触れると、思わず手を引いてしまうほど冷たい。その瓶を掴み、俺のガラス杯に注いだのはギルドマスターである。


 トクトク……。シュワワワワ……。


 いい音を立てて、麦酒が泡立つ。

 頻繁に酒を嗜む方ではない俺だが、今日の麦酒は万能の霊薬以上に輝いて見えた。


 俺はギルドマスターに注ぎ返した後、カラリとガラス杯を鳴らす。


「「乾杯」」


 口を付けた瞬間、シュワッとキレのいい泡が弾ける。麦酒独特の苦みに加えて、淡麗な喉越しが食道を通って、胃の中に滑り落ちていった。


「ぶはっ! うめぇ!!」


 思わず嬉しい悲鳴を上げてしまった。

 気づけば、ガラス杯に並々注がれた麦酒がなくなっている。

 すかさずギルドマスターが空になった杯に麦酒を注いできた。


 今度は味を感じながら、嗜む。


 口を付けると、すっきりとした味わいが口の中に広がっていく。

 麦畑を詰め込んだ素朴な味わいだが、たまに飲むといいものだ。


 だが、何よりも麦酒の温度である。


 キィンキィンに冷えた麦酒は温泉で温まった身体に心地いい。胃と喉の冷たい感覚と、肌から受ける温かな感覚に、つい気持ち良くなってしまった。


 すっきりとした味わいと、シュワッとした喉越しもまた最高だった。


 エストローナに風呂は完備されてないし、公衆浴場では湯殿での飲酒は原則禁止されている。

 貸切の温泉でもなければ、こんないい想いをすることもないだろ。


「酒肴もどう?」


 ギルドマスターが進めてくる。


 瀟洒な器の中には、一口大の刺身に水菜と赤茄子がお行儀よく盛られていた。桜色の刺身に、緑色の水菜、そして赤茄子の赤。彩りも実に綺麗だ。


 どうやら刺身は鯛のカルパッチョらしい。


 早速、刺身に水菜を包み、口の中に入れる。


「うまい!!」


 鯛のコリコリとした食感は言うまでもなく、噛めば噛むほど口の中に旨みが広がっていく。

 そこに白ワインビネガーを使ったドレッシングが脂の乗った鯛を爽やかに食べさせてくれた。塩とコショウのアクセントも効いていて、味に隙がない。


 水菜のシャキシャキとした食感が、のぼせ始めた頭にちょうどいい。

 赤茄子と同じく、野菜から滲み出る水分が身体に心地よく、火照った身体を優しく癒してくれる。


 何より淡麗な味わいの麦酒にちょうど合っていた。


 なんという贅沢だ。

 あまりこういうことは思わないのだが、このまま死んでいいとさえ思えてしまう。

 厳しい現実の中で、こんな楽園があるとは思わなかった。


「ここにシエルがいればいいのだが」



「あっ! パーパだ!」



 不意に聞こえた声に、俺の酔い気が一気に覚める。


 視線を走らせると、そこに一糸まとわぬ天使が立っていた。


本日、拙作原作『劣等職の最強賢者』のコミカライズ最新話が更新されました。

ニコニコ漫画で更新されておりますので、よろしくお願いします。

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