第160話 元S級ハンター、釣り上げる?
☆★☆★ おいしい料理作品のご案内 ☆★☆★
HxSTOON (へクストゥーン)より「ごはんですよ、フェンリルさん」というお話の原作を書かせていただきました。
おいしいご飯を作って、フェンリルさんをモフろうというお話になりますw
WEBTOON作品ですが、カラーも入って、めちゃくちゃ料理がうまそうに見えますので、
是非ご賞味ください。
配信日は5月23日より。
HykeComicサイト内で連載開始です。
宣伝失礼しました(詳しいあらすじは後書きにて)
氷漬けにしたダブルランサーを3日熟成させる。
ギルドマスター曰く、魚もきちんとした下処理をして、熟成させて食べるのがいいそうだ。特に白身魚は絶品らしい。逆に青魚などは腐ってしまうこともあるので、すぐに食べた方がいいという。
さてダブルランサーはどうかというと、どちらかというと白身魚に近い性質を持っているようだ。
大事なのは血抜き。時間を置いて、魔力を抜き、氷締めによって鮮度を保つ。
そうすることによって、興奮したダブルランサーでもおいしく食べられるらしい。
海の中にいる魔物を興奮させずに仕留めるのは難しいが、俺には造作もないことだ。
「これぐらいか……」
ドンッ! ドンッ!!
【砲剣】が2度唸る。
一瞬にして装填された弾丸は海の中に消えた。しばらく何も起こらなかったが、やがて海面に浮き上がってきたのは、2匹のダブルランサーだった。
「……え?」
オリヴィアは目を丸くする。
ギルドマスターはお手上げというばかりに、肩を竦めた。
2匹のダブルランサーは水夫たちによって引き上げられる。
甲板に3匹目のダブルランサーが転がる。
1度目は暴れ回ったダブルランサーだが、ピクリともしない。
ただ頭の辺りに、丸い穴がポッカリと空いていた。
見ていた客たちは困惑している。
「さすがゼレットくぅんだけど……」
「あははは……。お客さんが引いてますね」
「仕方ないですわ。普通【砲剣】で魔物とはいえ、海中にいる魚を仕留めたりしないですからねぇ」
ギルドマスター、オリヴィアが苦笑いを浮かべる。ラフィナも首を振っていた。
三つ首ワイバーンを仕留めた時を思い出すな。俺はこれといって、凄いことをしてるわけではないのだが……。
水中の魔物と、水中で戦うのは自殺行為。
釣ることも難しい、網なんて食いちぎってしまう。海面に出てきた所を銛などで攻撃するか、『魔法』による遠距離攻撃するしかない。
だが、総じて水中の魔物は移動が早い。
上記の攻撃を当てるのは難しい。
そういう意味では、弾速が速く、威力もある【砲剣】は理に叶っているのだ。
実際、以前リヴァイアサンを仕留めた時は、陸からの【砲剣】による狙撃が決め手となったしな。
パメラは俺が仕留めたダブルランサーをキュールとともに捌く。
巨大魚の中骨に沿って、身を開いた。
桜色の綺麗な身が露わになる。
おお、と野次馬たちは驚いている。
普通は魔物の血は青なのだそうだが、これは普通の鮮魚の色と変わらない。
興奮する前に俺が仕留めたから、血に魔力が混じっていないのだ。
「ちょっと……。ゼレットぉ。わたしが血抜きした意味がないじゃない」
「俺は早くダブルランサーを食べたいというから仕留めただけだ」
パメラが解体し、氷締めしたダブルランサーは熟成に3日かかるというと、落胆の声が上がった。
特に釣り上げたプリムは縄張り争いする猫みたいに「ふー!」と抗議し、リルとともに食べさせろと訴える。
いくら言っても聞かないので、仕方なく俺がダブルランサーを追加で仕留めたのである。
そもそも俺たちは目立ち過ぎた。
これで俺たちだけがダブルランサーを食そうものなら、さすがに嫉妬の視線を浴びることになるだろう。
ラフィナが買い上げることもあって、俺がもう2匹、他の客用に追加したのである。
「師匠、ありがとう!」
『ワァウ!』
プリムは俺の胸ではなく、思いっきり跳躍して俺の頭に飛び込んで来る。いーこいーこ、とばかりに頭を撫でた。重い。やめろ。
馬鹿弟子はともかく、リルも喜んでいるようだ。
まあ、今回はバカンスだからな。
たまにこいつらを労うのも悪くないだろう。旅行もタダだしな。
「氷締めしたのは、このまま熟成させるとして、これはどうしようかしら」
「うーん。やっぱり鮮魚といえば、あれじゃな~い?」
迷っているパメラの背中を押すように、ギルドマスターは妻の肩を叩いた。
「そうね。やっぱりあれにしちゃおう」
思ったがなんとやらだ。
早速、俺の妻は精霊とともに動き出す。
パメラが下ろしたダブルランサーを切り分け、客船の料理人に渡す。さすがは船の中の料理人だ。手早く一口サイズに切っていく。
「これは……」
「すげぇなあ。これが魔物の身か」
「スルスルと包丁が入っていくぞ」
ダブルランサーの身の締まり方に、初めて魔物の身に触れた料理人たちは驚く。
切っているのを見ているだけで、身の弾力が伝わってくる。リルやプリムが唾を飲み込む気持ちが少しわかる気がした。
最後にギルドマスターが軽く聖水をかけ、ダブルランサーの身を清め、布で水分を拭き取る。これは食中毒対策だ。
「できました」
ダブルランサーのお刺身です!
波模様がついた磨り硝子の器に、玉葱がレタスといった大量の野菜。中に宝物のように脂ののった身を光らせていたのは、ダブルランサーのお刺身だった。
「まるで宝石……。いえ、美の女神の誕生を見ているようですわ」
ラフィナはうっとりと呟く。
俺も大きく頷いた。盛りつけの仕方、多くの生命を育んだ海という場所だからだろう。出来上がったお刺身は、何かが生まれた瞬間を想起させる。
俺は思わず唾を呑む。俺だけではない。他の乗客たちもまた頻りにのど仏を動かしていた。
中には魔物の身が珍しいと思う者もいるだろう。だけど、大半の人間がその美しさに魅入られるように固まっていた。
先陣を切って食べていたのは、プリムとリルである。
この2人にとって、その場の空気など関係ない。おいしいものを前にして、選択肢は2つである。
即ち『食べるか』『黙って食べるか』だ。
「おいしい! おいしいよ、師匠!」
『ワァウ!』
唇についたダブルランサーの身の一片をペロリと舐め取り、プリムはキラキラお目々をこちらに向ける。
プリムを見ていると、空気を読むのが馬鹿らしくなってくる。
何度もいうが、今日は狩りでもなければ、家族サービスというわけでもない。
俺も大いにはっちゃけるとするか。
箸を持ち、身を摘まむ。
たったそれだけの日常所作だったが、思わず固まった。
「おも……」
見た目以上に身が重い。
それだけ詰まっているということに他ならないが、相変わらず魔物食は食べる前から驚かせてくれる。
用意されていたのは、魚醤、塩、橄欖油である。
まずは塩を選択し、俺はそろりと身を口元に持っていく。
パクリと一気に食べた。何の恐れもないのは、魔物食になれたからではない。とにかく食欲が抑えられなかったのだ。
一噛み、二噛み、さらに三噛み……。
俺はダブルランサーの身を味わう。
…………。
「うめぇ……」
「ごはんですよ、フェンリルさん」あらすじ
動物好きOL・伊万里サチはある日異世界へ転生してしまう。
これが噂の異世界転生!
聖女になってイケメン王子と結婚か……と妄想を膨らますサチだったが、告げられたのは、自分が魔王のいけにえだということ!
今から自分を食べるこわ~い魔王様とご対面…と思ったら、魔王・フェンリルはなんとモフモフのおっきなワンちゃん!
サチはたまらずそのふかふかな体毛をモフモフしてしまい、さぞや魔王もお怒り…と思いきや、なぜかぐったり。
100年以上何も食べておらず衰弱しているのだという。
見かねたサチは、祖母譲りの知識と腕前で異世界の素材を使い絶品雑炊をふるまう。
それをペロッと平らげたフェンリルに、自分の「ごはん係」になるよう命じられたサチ。
そしてサチは、ごはんを作るごとに一回「モフる」、一日一膳ならぬ「一膳一モフ」を条件に、フェンリルのごはん係に就任するのだった。
──さて、今日のフェンリルさんの献立、何にしよう!
……なんだ、いつもの延野かと笑っていただければ幸いです。
配信日は5月23日になります。