第151話 元S級ハンター、獲物に定める
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あけましておめでとうございます。
コミックノヴァとピッコマにて第13話前半が更新されました。
ラフィナ嬢との戦いが決着です。
後半ではついにあの依頼が……。
是非読んでくださいね。
ガンゲルの叫びは一振りの剣のように鋭く空間に響いた。
そして静まり返る。
先ほどまで血気盛んに声を出して、俺に得物を向けていた馬鹿者たちは沈黙し、ガンゲルの言葉に驚いていた。
そのガンゲルは自分が壊した伝声石を見つめながら、大きく息を吐き出す。
絵に描いたような頑固親父で、まるで過去からやってきたように前時代的。
ギルドの経営は下手くそで、文句を言えば怒鳴り散らす昔の経営者。
その癖、割と人情に脆く、意外と憎めない。
権力に従い、目上にはなるべく逆らわないことを処世術とする男。
はっきり言うが、俺はガンゲルが嫌いだし、2度とこいつの元では働きたくないと思っている。
根本的に考え方が合わないからだ。
しかし、こいつが必死に守ろうとしている自分の意志を曲げない部分に関しては、それなりに気に入っている。
折れてるようで折れてない。
人から押さえ付けられようが、殴られようが、決して地面に額をつけることはない。
昔の不良みたいな筋の通し方をするガンゲル・ブルッフェのことは、俺は嫌いではなかった。
「お前らにだってあるだろう。そういう筋ってものが……。なあ、お前らは何だ?」
俺は今、俺に武器を向けるハンターたちに問いかける。
「それは……」
「ハンター……」
数人が弱々しく答えた。
「そうだ。だが、ちょっとだけ違う。お前らはハンターギルドに雇われているハンターだ。ガンゲル・ブルッフェという男に見込まれた適格者だ。……それを誇りに思う者がいるなら、得物を下ろせ。それでも俺と戦うなら、全力を以て相手をしてやろう」
冷たい黒の瞳が場を支配する。
ハンターたちの顔がゾッと青ざめていった。
「お前らもやめろ。我々はハンターだ。それも魔物を撃ち殺すな。……ゼレットは生意気だ。時々殺したくなる。だが、私はマンハントを頼んだ覚えはないぞ」
ガンゲルは諫めると、ハンターたちは次々に得物を下ろしていった。
俺に脅されたからではないだろう。
100億グラを前にして、逆に公爵に喧嘩を売った。男気といえばチープかもしれないが、そんなガンゲルの言葉に皆が同調したのだ。
それにしても……。
「それにしてもよく言ったな、ガンゲル」
今だから言うが、俺はてっきりガンゲルが向こう側の人間になると思っていた。
この中の誰よりも金が欲しいだろうからな。
「勘違いするな、ゼレット。これは取引だ」
「取引?」
「今の言葉、ラフィナ嬢にきっちり報告しろ。100億グラを蹴って、あなたのお気に入りの食材提供者の命を救ったとな」
こいつ……。本当にいい性格してやがる。
今の言葉を言わなかったら、好感度爆上がりだったのにな。
だが、ガンゲルらしい返しだ。
俺はつい笑ってしまった。
「ああ。必ず報告しよう」
「ぶははははは! 忘れるなよ」
ガンゲルは胸を張って、豪快に笑った。
交渉は決裂。
一同解散――というわけにはいかなかった。
黒服は忍ばせていた新しい伝声石を取り出す。聞こえてきたのは、しゃがれた老人の声であった。
『ハンターというのは、馬鹿ばかりのようだな。金の価値を知らんのか?』
「生憎とな。こっちはリスクの割にタダ同然の値段で引き受けているのだ。今さら金の価値なんて問われてもしらん。……あとな。お前のような貴族に、色々あーだこーだと言われるのはもうたくさんなのだ、こっちはな!」
ガンゲルは吹っ切れたらしい。
罵倒が止まらない。すっかりいつもの頑固親父に戻っていた。
『威勢がいいな。……この声を聞いても、考えが変わらんか?』
『ゼレット!!』
伝声石から聞こえていた声が、突如女性に変わる。
それは聞き覚えのある声だった。
ガンゲルも察したらしい。
俺の方に振り返る。
俺の方はというと、弟子の方を見た。
耳を澄ました弟子は、うんと頷く。
どうやら本物らしい。
「パメラか?」
『ゼレット、無事なの?』
「ああ。お前は無事――というわけではなさそうだな」
『うん。ごめん』
パメラの声が暗くなる。
今にも泣き出してしまいそうな声だった。
演技ではないことだけはわかる。
「シエルは無事か?」
『はっきりとは言えないけど、無事よ。キュールが守ってくれていたから』
なるほど。大体掴めてきた。
向こうが踏み込んできた時に、パメラは咄嗟にキュールにシエルを預けて、自分だけが拉致されてきたんだな。
「パメラ、そこはどこだ?」
『わからないけど……。たぶん、どっかの屋敷の地下……』
そこでパメラの声は途切れ、またルカイニの声が聞こえてくる。
『これでわかっただろう、ゼレット・ヴィンター』
「何がわかったのか、さっぱりわからないが、1つだけわかったことがある」
『簡単な脅しだよ。お前の愛する妻――――』
「お前が、俺を怒らせたということだ」
『はっ? 聞こえているかね、ゼレット君?』
そのやりとりをガンゲルはハラハラしながら見ていた。
「おい! ゼレット、刺激するな! お前の妻は今――――」
『ふん。そこのゴキブリはまだ立場が分かってるようだな』
「ゴキ――――! なんだと!!」
ガンゲルが憤慨するが、俺の話は続く。
「ガンゲルよ。今さら交渉しても遅い」
「どういうことだ?」
「ルカイニが公爵だろうと、どこに妻を隠していようと、それが命の危機にあろうと変わらない。俺の家族に手を出した時点で、ルカイニは俺の標的であり、獲物となった。ただそれだけだ……」
『貴様は本当に立場がわかっていないようだな』
ルカイニは声にドスを込めた。
だが、俺は淡々と言葉を続ける。
静かに獲物を仕留める用意をするようにだ。
「120年以上も生きると耄碌するようだな、ルカイニ。お前こそ立場がわかっていない」
『はっ?』
「お前はS級ハンターといわれた人間に獲物として認定された。俺はしつこいぞ。どこに隠れようと、分厚い城門の中に逃げようと、俺はお前を必ず仕留める」
『貴様! お前の妻の命を惜しくないのか?』
「まだわかっていないのか?」
『何??』
「そっくりそのままお前にその言葉を返そう。お前は自分の命が惜しくないのか?」
『き、貴様……。何を寝ぼけたことを……』
「ふう……」
俺は息を吐く。
すると、持っていた【砲剣】に弾を込めた。
「ならわかるように説明してやろう」