表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/222

第14話 元S級ハンター、解体作業を見学する

 活き締めができていることを確認すると、職人たちは手分けして解体の工程に入った。


 解体と言っても、まず鱗を取り除かなければ話にならない。


 竜種の鱗は総じて硬く、そのめんどくささは、先のスカイサーモンの比ではない。


 三つ首ワイバーンは特に鱗が複雑だ。


 頭から首下にかけて鱗は大きく、分厚い。急所というのもあって、硬く進化したのだろう。


 一方、背中の鱗は細かく、薄いが剥がれにくい構造になっていた。


 最後に腹だが、こちらには鱗はない。代わりに非常に弾力性と伸縮性に富んだ皮膚になっていて、刃物が非常に通りにくくなっており、打撃の吸収力も高い。


 竜種は厄介な特徴のものばかりだ。


 今思えば魔物食が流行らなかったのは、単純に食べにくかったからだろう。


 職人たちが今主にやっている作業は、首側の鱗だ。鱗と鱗の間に専用の包丁を入れ、少しずつ身から鱗を剥がしていく。


「手慣れているな。竜種の解体には慣れているのか?」


 横に立ったギルドマスターに質問する。


 パメラとプリム、そしてリルの2人と1匹は、より近くで職人の手さばきを見ていた。


 パメラは勉強のようだ。頷きながら、熱心にメモを取っている。


 一方プリムとリルは、涎を垂らしながら解体作業を見守っていた。


「そうねぇ。うちのギルドって、他の街とは違って、結構優秀な食材提供者がいてね~。竜種は今月だけでもう3体は捌いているわねぇ。ここにいるのは、うちの専属の解体屋だけど、フル稼働してるわよぉ」


「そんなに魔物の需要があるのか?」


「特に竜種は人気よぉ……。ドラゴン肉って手間はかかるけど、その分のリターンはとても大きいの。ドラゴン肉って食べると強くなるって迷信もあるから、騎士団から依頼もあるわねぇ」


 ふむ……。未だ信じられない。


 俺は長い間、魔物を相手にしてきたが、こいつらを食材として見たことは、これまで1度もなかった。


 たとえ、数ヶ月獲物を待つために山に籠もり、食糧が尽き欠けても、その発想には至らなかった。


 それは魔物がまずいというイメージが昔からあったからである。


「三つ首ワイバーンはね。なんと言っても首の肉が絶品なのよ~」


「ほう……。どんな味なんだ?」


「それは食べてみてからのお楽しみねぇ。ゼレットくぅんの驚く顔が、今から楽しみだわぁ~」


 ギルドマスターはイヤらしい笑みを浮かべる。


 その1時間後――。

 ようやく3つの首の鱗が取れた。

 時間はかかったが、これでもかなり早い方だ。


 そこに薄く包丁で切れ目を入れて、手で外皮を剥く。


 現れたのは、鮮やかな桃色の身である。


「「「おお!!」」」


 解体を見物していた民衆から声が上がる。


 メモを取っていたパメラも手を止め、プリムとリルは姉弟のように同じ顔をして尻尾を振っていた。


「こりゃすげぇな……」


 解体屋の1人が参ったと白髪を掻いた。


「ここまで淡い桃色の身は初めてだ」


 ん? どういうことだ? 初めてって……。


 この職人たちは何度も魔物の肉を捌いてきたんじゃないのか?


「何がすごいんだ? 普通の魔物の肉の色だろう?」


 しん…………。


 沈黙が下りた。


 おい。今日度々同じ事が起こっているが、常識のない人間を見るような目でこっち向かないでほしいんだが。


「ぜ、ゼレットくぅん、魔物の肉の色って、どっちかていうと青に近いわよ」


「活き締めが早ければ、赤に近い色だが、こんな桃色は初めて見たよ。これが多分、魔物本来の血の色なんだろ」


 職人も「参った」と頭をペンペンと叩いた。


 つまりどういうことだ? 1人だけ置いてけぼりの俺に対して、職人がレクチャーを始めた。


「さっき説明したろ? 魔物は興奮すると、おいしくない物質を出すって。魔物も平常時には、血の色は赤いと言われるけど、興奮すると血液とその物質が混ざり合って、青くなってしまうんだよ」


 は? 魔物の血が青い? バカな?


「ちょっとゼレット。魔物の血が青いなんて、常識よ」


 パメラが忠告する。


 嘘だろ!


 俺、今まで何体も魔物を狩ってきたが、青い血を流してる魔物なんて……いや、いたか。


 他の未熟なハンターが魔物と戦っている時、魔物の血が青かったような気がする。


「あれって……。ハンターが毒を使用したとかじゃないのか?」


「そんなわけないでしょ! 普通が青なの」


「ふふふ……。魔物学者以上の知識を持っているかと思えば、根本的なところで抜けていたりして。面白いハンターね、ゼレットくぅんは」


 昔から師匠に付いて、ハンティングしていたからな。


 師匠も凄腕のハンターだったし。たいてい急所に1発で仕留めていた。というか、外して2発目を撃つぐらいなら、一旦仕切り直せと教え込まれていた。


 子どもの頃から急所打ちを教えてもらって、身体に染み付いているから、魔物の血が青いだなんて、今の今まで知らなかったし、たまに見ても、他のハンターが使った毒が原因だと本気で思っていた。


「ゼレット、今日のスカイサーモンの身って、ちょっと紫がかったでしょ?」


「あ……。そう言えば――――」


 なるほど。確かにあの時すでにスカイサーモンは、興奮状態にあったからな。


 それで身が薄紫だったのか。てっきり、スカイサーモンの身は薄紫だと思っていたのだが……。


「師匠、そんなことも知らなかったのー」


 プリムはケラケラと笑う。


「プリム、お前知ってたのか?」


「うん。師匠と出会う前に、よく魔物と戦ったりしてたからね」


 ガーン……。


 ショックだ。まさかプリムにまでバカにされるとは。


 ゼレット・ヴィンター、一生の不覚だ。


「まあまあ……。それよりもやっと食べられそうよ」


 職人は首の上側の部分に当たる場所に、包丁を入れる。


 硬いかといえば、そうでもなさそうだ。静かな湖水に刃を入れるように、すっと包丁は身の中に沈んでいった。


 何度か包丁を入れると、パカリと開く。


 そこにも現れたのは、桃色の身と胸骨を思わせるような無数の骨だった。


 職人はまず長い食道を取り除いていく。そして身と骨の間に専用の包丁を入れると、数人がかりで一気に包丁を滑らせた。


 見事に骨だけが取れると、その様を見て、拍手が鳴る。


 残った骨と腹骨を取り除き、3つに分けると、1つ目の首肉の解体が終わった。


「三つ首ワイバーンの首肉は、大きく3つに分かれるの。頭の方から首頭(しゅとう)首中(くびなか)首下(くびもと)って具合にね~。ちなみに首下が一番おいしいんだけど、それは依頼主に権利があって、あたしたちは食べられないのぅ。残念ね~。でも、首中でも十分おいしいから、楽しみにしててね~」


「楽しみにしていてって……。どうするつもりだ?」


「決まってるでしょ……。焼くのよ」


「焼く?」


「こんなに新鮮なお肉なんですものぉ~」



 ステーキにしないともったいないでしょ?


次回実食!

物語に気に入っていただけましたでしょうか?

もし良ければ、ブックマークと、広告下にある☆☆☆☆☆の評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最新作です!
↓※タイトルをクリックすると、ページに飛ぶことが出来ます↓
役立たずと言われた王子、最強のもふもふ国家を再建する~ハズレスキル【料理】のレシピは実は万能でした~

コミカライズ9巻1月8日発売です!
↓※タイトルをクリックすると、販売ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる⑨』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『アラフォー冒険者、伝説になる』コミックス8巻 11月12日発売!
50万部突破! 最強娘に強化された最強パパの成り上がりの詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



『魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する』
コミックス最終巻10月25日発売
↓↓表紙をクリックすると、Amazonに行けます↓↓
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



シリーズ大重版中! 第5巻が10月18日発売!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『公爵家の料理番様~300年生きる小さな料理人~』単行本5巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


9月12発売発売! オリジナル漫画原作『おっさん勇者は鍛冶屋でスローライフはじめました』単行本2巻発売!
引退したおっさん勇者の幸せスローライフ続編!! 詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large



6月25日!ブレイブ文庫様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『魔王様は回復魔術を極めたい~その聖女、世界最強につき~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


6月14日!サーガフォレスト様より発売です!!
↓※タイトルをクリックすると、公式に飛びます↓
『ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者~現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する~』第1巻
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large


『劣等職の最強賢者』コミックス5巻 5月17日発売!
飽くなき強さを追い求める男の、異世界バトルファンタジーついにフィナーレ!詳細はこちらをクリック

DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large






好評発売中! 全編書き下ろしですよ~。
↓※タイトルをクリックすると、カドカワBOOKS公式ページに飛ぶことが出来ます↓
『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる2』
DhP_nWwU8AA7_OY.jpg:large

小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[良い点] すごいおいしそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ