第147話 元S級ハンター、1人残る
☆★☆★ コミカライズ更新 ☆★☆★
コミックノヴァ様にて、コミカライズが更新されました
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アプリなどを使って読んでる方には、とても読みやすくなっております。
もちろん「魔物を狩るな~」も含まれておりますので、こちらも是非読んでくださいね(こっそり34万「いいね」いただいております)
「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!!」
一番槍はもらったとばかりに、ヴィッキーが大剣を握り、ダイタリアサンに突っ込んでいく。
灰を被った糸を切り裂き、そしてそれを足場にしながら糸の中で蠢くダイタリアサンに迫る。
俺は【砲剣】による砲撃を加えながら、ヴィッキーの方へと誘導した。
「行ったぞ、ヴィッキー!!」
「任せろ!!」
裂帛の気合いとともに声が飛んでくる。
ヴィッキーの正面に巨大な亜竜種が迫ったが、本人はまったく動じない。
相棒である大剣を振りかざし、大上段から振り下ろした。
高質な音が広い空間に反響した時、ハンターの救出作業に当たっていたガンゲルが、俺の目の端で息を飲んでいた。
「馬鹿な!!」
俺や他のハンターたちに見えたのは、ヴィッキーが吹き飛ばされる姿だった。
対するダイタリアサンは無傷だ。
ヴィッキーは闇の繭の中で倒れるのかと思いきや、意識を取り戻す。
くるっと反転し、着地する。
「こなくそ!!」
再び突っ込んでいく。
ダイタリアサンに刃を突き立てるが、やはり通らない。
ヴィッキーの大剣は刃引きがされていない。斬るというよりは、叩くに特化した大剣である。
斬ることができないにしても、その顔を歪ませることぐらいはできるはず。しかも、ヴィッキーの怪力は魔獣の膂力にも引けを取らない。
だが、ダイタリアサンはまるで動じていない。口を開き、牙を見せた姿は笑っているようにすら見える。
ともかくヴィッキーは打ち込みを続けたが、やはり無駄だ。
そこに援軍がやってくる。
「う~~~~りゃ~~~~!!」
ヴィッキーの気勢と比べれば、何とものんびりした声だった。
だが、その打撃は凄まじい。
ダイタリアサンの顎を撃ち抜くと、巨躯が繭の中でねじ曲がった。
「すげぇ……」
ヴィッキーは思わず感心する。
ダイタリアサンを打ったのは、プリムだ。
頭の方はあれだが、その馬鹿力は本物だ。
ヴィッキーですら歯が立たなかったダイタリアサンをあっさり怯ませてしまう。
「プリム」
「ふふん! 師匠、褒めて褒めて」
呑気にVサインを送って、勝ち誇る。
あの馬鹿! そうやって調子に乗るから独り立ちできないんだ!
「反げ――――」
次の瞬間、プリムはダイタリアサンの反撃に遭う。巨体がぐるりと闇の眉の中で蠢くと、思いっきりプリムを横から引っぱたく。
諸に食らった弟子はそのまま奥へと吹き飛ばされた。
『ワァウ!』
そのフォローに回ったのが、リルだ。
吹き飛ばされたプリムが壁に激突する前に、うまく首を挟んでキャッチする。
さすがは俺の相棒リルだ。
弟子のアホさ加減も十分理解している。
この3年で何をすればいいかわかっているようだな。
だが、ダイタリアサンの攻撃は終わっていない。身体を捻ると、同じようにヴィッキーも吹き飛ばす。
リルはそれをフォローするが、ダイタリアサンが迫ってきていた。
「リル!! 援護する!!」
俺は【砲剣】を構えるが、まだハンターの救助が思うように進んでいない。
おかげで狙撃のポイントがずらされ、痛打に至らない。
その進撃を止めるのには、もっと火力が必要なのだが、それもハンターたちに止められていた。
その間に、ダイタリアサンはリルに迫る。
むろん、リルも黙って見ていたわけではない。
『ワァオオオオオオオオンンンン!!』
高らかに遠吠えする。
すると、眉の間に突然、白い靄のような現れる。
一気に温度が下がると、大気中の水分が一瞬にして凝結した。
分厚い氷の壁ができあがる。
リルの思惑は当たった。
ダイタリアサンの突進が止められる。
それを見定めると、リルはついに攻勢に転じた。
跳ねるような感覚の繭の上をリルは軽やかに走り抜ける。氷の壁を飛び越え、ダイタリアサンの喉元あたりに噛み付いた。
「リル、押さえ付けろ」
『ワァウ!!』
リルは俺の指示通りに動く。
だが、ダイタリアサンの膂力も相当なものだった。
大きく頭を跳ね上げ、リルを天井に叩きつけようとする。
「リル!! 離れろ!!」
俺が指示すると、リルは食い込んでいた牙を離して、天井に叩きつけられる前に離脱する。
代わりにダイタリアサンが天井にぶつかることになるのだが、ピンピンしていた。
すぐさま体勢を立て直すと、繭の中に残っているプリム、リル、ヴィッキーの方に向き直る。
「硬ぇ……」
「おいしいのかな? かな?」
『ワァウ!』
あの3人でかなり攻めあぐねているな。
能力に目が行きがちだが、あの防御能力はなかなかだ。
だが、1つ感じたことは、攻め方にあまり合理性を感じないところだろうか。
闇の繭を使って移動するところまでは良かったが、それが無効化されてからは単調な攻めが多い。
おそらくだが、生まれたばかりだからだろう。
捕食する経験値がまだ足りていないのだ。
まして、今戦っている相手のレベルとなれば、尚更だろう。
力は圧倒的だが、経験値という点で詰めることができるかもしれない。
しばらくリル、プリム、ヴィッキーの攻撃が続き、俺も時々砲撃を撃って、援護した。
「ゼレット!」
頭に繭の塊をのせたガンゲルがやってくる。
「全員救出したぞ」
「よし。お前たちは退避しろ」
「なんだ?」
「ん?」
振り返ると、ダイタリアサンが激しく嘶いていた。
繭でくるめたハンターたちが、いつの間にか救出されていることにお冠のようだ。
大方、リルたちを遊び相手とでも思っていたのだろう。
遊びに熱中するあまり、自分が捕食しようとしていたハンターを横取りされて、怒っているというわけだ。
まるでうちの弟子だな。
『ジャアアアアアアアアアアアアア!!』
怒髪天を衝くというわけではないが、ダイタリアサンは頭を上げて、大きく嘶く。
すると、巨躯が大きく光り始めた。
「あれは……!」
ガンゲルは息を飲む。
「全員! 退避だ!!」
俺は叫ぶ。
瞬間、リルはヴィッキーを咥えて、リルとともに逃げ出す。
ハンターたちも退路へとなだれ込んだ。
直後、雷撃が放たれる。
青白い光が繭を食い破り、空間全体に広がる。
俺はフードを被り、雷撃の強さを抑制した。
一方、リルは氷の壁を生み出す。そこにリルとヴィッキーをのせて、雷撃を凌いだ。
やがて雷撃が収まる。
まるで喉鳴りのような轟音が、しばらく反響した。
「無事か!」
「大丈夫だよ。リルが守ってくれた~」
プリムが手を振る。
ヴィッキーの方は少し憔悴しているようだ。
だが、1番被害を受けたのは、A級のハンターだろ。
死傷者こそいないが、強烈な雷撃によって一部のハンターが動けなくなっていた。
リヴァイアサンの雷撃を忘れていたわけではないが、ここで出してくるとはな。
だが、悪手ではある
自分が作った繭が完全に焼き払われて、向こうの姿が露わになる。しかし繭がなかろうと、地上では動けるようだ。
つまり、逃げても追いかけてくる能力があるということになる。
「どうする、ゼレット? A級ハンターが逃げるまで、粘るか?」
ヴィッキーは提案する。
「やせ我慢はよせ、ヴィッキー。肋が折れてるんだろ?」
「ぬっ! なんでそれを」
「お前のことなら、たいていわかる」
単純で顔に出やすいからな……。
「な、なななな! な、なんだよ、それ。あたしのことならわかるって」
「ほら。顔が赤いではないか。お前も逃げろ」
「こ、これはちがくて!! イテテテテ」
ヴィッキーはついに蹲る。
「プリム、ヴィッキーを担いでやれ。リルは殿を頼む」
「担いでって……。お前は、どうするつもりだ、ゼレット」
「俺は残る」
「なっ! お前、1人でダイタリアサンを食い止めるとというのか」
「ああ。その通りだ」
ガチャリ、と音がする。
俺の足元に、二振りの剣が転がった。