第144話 元S級ハンター、卵を見つける
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俺は【砲剣】によって、地下のアジトを漏出させる。
大きな穴を見ながら、俺は眉を顰めた。
(おかしいな)
本気ではなかったが、予想ではもっと深く抉られるはずだった。
施設の耐衝撃が強かったのか。
いや、それにしてもおかしい。
「なんだ、あれは!?」
その直後、あれ程の熱量と爆風の衝撃を受けながら、爆心地の近くで蠢くものがあった。元は螺旋状になっていたアジトの廊下から、ワラワラと黒いものが現れる。
ともかくそれは、大きな蟻だ。
分厚い鎧のような外骨格に加えて、顔の周りには鬣のようなものが見える。
「特徴からして、キャッスルアントにアムドライオンを掛け合わせたキメラだな」
キャッスルアントはラフィナと初めて出会った時に俺が紹介した魔物だ。
小さいながら大群を以て、城を壊滅させるほどの力を持ち、最小クラスの魔物ながらBランクに位置する。
一方アムドライオンは、皮膚の一部が硬化し、鎧のように見えることから名前が付いた。こちらもAランクだ。
よもやサイズがまるで違う魔物なのに、よく合成したものだ。
ただ恐ろしいのが、メインになっているキャッスルアントの方である。
大きくなれば、体重も増え、膂力も上がる。小さくとも城を壊す力を持つキャッスルアントのサイズが大きくなれば、自ずとその危険性は察せようというものだろう。
それにキャッスルアントの恐ろしさは、城を壊す力などではない。
「驚異的な繁殖能力だ」
キャッスルアントもただ1匹で城を落とせるわけではない。膨大といえる仲間がいるからこそ実現できているのだ。
その繁殖能力が、合成獣に受け継がれているなら、城崩しの力より怖いことになる。
そして、悪い予感は当たった。
ワラワラと巨大キャッスルアントが現れたのだ。
「しかも、アムドライオンだけじゃないな」
「ユニコーンに、あれはペガススかな?」
「ガラニアの甲羅を背負ってるものもいるぞ」
すべてキャッスルアントを主体としたキメラが地の底で現れ、地上に出ようとしていた。
「やばいよ! 外に出てくるよ」
「落ち着け。こういう時のための手勢だ。行けるな、ガンゲル」
「ふん! お前の援護なんて死んでもいやだが、仕方あるまい。1億がかかっておるからな」
最初は憤然としていたガンゲルの瞳が、金塊を見たように輝く。
やれやれ……。
元上司ながら、相変わらず現金なヤツである。
「おい、貴様ら! いつまでおねんねしてるつもりだ。仕事だ! ハンター魂を見せてやれ!!」
手を叩いて、ハンターたちを鼓舞する。
逆にハンターたちの士気が下がったように見えるのは、いつものことだ。
それでもガンゲルが1億グラの山分けの話をすると、目を輝かせた。
ギルドマスターもギルドマスターだが、その下に付き従うハンターもハンターだな。
ハンター魂なんて言っていたが、そんなものはない。
あるのは1億グラという金への欲求だけだ。
まあ、人間というのはそういうものかもしれないけどな。
ガンゲルたちが配置に突く。
俺はヴィッキーやリル、プリムを含めた別働隊とともに、アジトが露出した穴へと飛び込んでいった。
◆◇◆◇◆
「おりゃああああああああああああ!!」
ヴィッキーは雄叫びと、握っている大剣とともに空間を一閃した。
その衝撃は凄まじく、群がったキャッスルアントのキメラ種を弾き飛ばしていく。
相変わらず凄まじい力であるが、血路を開いてくれていると思えば、かなり貢献してもらっている。
それでもキャッスルアントのキメラはワラワラ出てきた。
「さしずめこのアジト自体が、巨大な蟻塚だったということか」
「なら潰したのはヤバくないか? 結果的に外にも出てるぞ」
「そっちはガンゲルがいるから大丈夫だろう。腐ってもあれでハンターギルドのギルドマスターだ。なんとかする。賞金もかかってるしな」
逆にいえば、外に出ているからこそ、俺たちに向かってくる魔物が少ないともいえる。
「いずれにしろ。俺の砲撃がなければ、このアジトの潜入は不可能だった」
「まあ、そうだけどな」
俺たちはキャッスルアントのキメラ種を倒しながら、アジトの最奥を目指した。
『バァウ!』
突然リルが吠える。
その反応から俺は何かのっぴきならない事態が起こったのだと判断した。
「止まれ、ヴィッキー」
俺は足を止め、先導するヴィッキーを呼び止めた。
調子良さげにキャッスルアントのキメラ種をぶっ潰していたヴィッキーが、不満げに振り返る。
しかし、事は起こっていた。
俺たちが進む廊下の奥から、けたたましい音が聞こえてくる。それはキャッスルアントのキメラ種の歩行音であることにすぐ気付いたが、問題は数だった。
体高だけでも成人女性に匹敵するほどの大きさを持つ巨大蟻魔獣が大挙して押し寄せてきたのだ。
連れてきたA級ハンターたちも、大軍を見ておののく。
ヴィッキーも思わず立ち尽くしていたが、俺は別の事を考えていた。
「ヴィッキー……」
「ああ。あたしも同じことを考えていたところさ」
似ている。
あの公園で出会った魔物の大軍に。
確かあの時は、地下から出現したドラゴンキメラから逃げていた。
おそらくあれと同じことが起こっているのだろう。
我を忘れた魔物を相手するのは骨が折れる。
命の計算もできずに特攻してくる相手だ。
まともに戦えば、さすがに被害が出る。
「プリム!」
「あい~」
「廊下をぶっ叩け! 全力でな!!」
「何をさせるんだよ、ゼレット!!」
答えている暇はない。
ヴィッキーと違って、うちの馬鹿弟子は疑問に思うという思考回路がない。
ただ命令されたことをなすだけだ。
「いくよー!!」
呑気な声を上げながら、プリムは大きく腕を引き絞る。
実に楽しそうに馬鹿弟子は、渾身の力を込めて拳を廊下に打ち付けた。
ドンッ!!
樽いっぱいの火薬が爆発したような轟音が響く。
廊下と蜘蛛の巣のようなヒビが入ると、あっさりと砕け散った。
勢いのついたキャッスルアントはポッカリと空いた穴に、吸い込まれるように落ちていく。
うまくいった。
が、100点中50点といったところだ。
何故ならプリムは俺やヴィッキーが立っていた廊下まで崩してしまったからである。
俺はすかさず【砲剣】に魔法弾を込める。
風属性の力が入った魔法弾を背後のAランクハンターたちの方に向けると、元来た道へと吹き飛ばす。
俺も回避を試みたが、その前に足場が崩れた。
「ぎゃああああああ! 落ちる!!」
同じく落下しながら、横でヴィッキーが悲鳴を上げていた。
「うるさいヤツだ……」
「元はといえば、お前の責任だろ、ゼレット!」
「俺ではなく、元弟子な」
俺は冷静だった。
再び【砲剣】に弾を込める。
暗闇に向かって、弾丸を放った。
直後、白い糸のようなものが広がり、周りの壁に貼り付く。さらに蜘蛛の糸のような模様を描いた糸は、俺たちを優しく受け止めた。
「大丈夫か、お前たち」
『ワァウ!』
「大丈夫だよー」
「大丈夫じゃない!!」
ヴィッキーだけが糸に捕まりながら、喚き散らす。
「くそ! ゼレットと組むといつもこれだ! これならあたし1人やった方がマシだったよ!」
「ほう。そういうなら、あとのキャッスルアントのキメラ種は任せていいな」
「へっ?」
ドンと上から落ちてきたのは、例のキャッスルアントのキメラ種だった。
どんどん穴底に落ちていくと、俺が貼った糸に絡まる。ひっくり返って、身動きが取れない者もいたが、概ね立ち上がって、俺たちを睨んだ。
「くっそ! まだやる気かよ、こいつら!」
「では、後は頼んだぞ」
俺は糸に鋼線を絡ませる。
「ちょっ! ゼレット! にげるなぁああああ!!」
ヴィッキーの悲鳴を遠くで聞きながら、俺は穴底へと降下していった。
◆◇◆◇◆
俺は底辺部に辿り着く。
周りは崖だ。
人が手を入れた感じがしない。
自然とできあがったただ広いだけの空間。
深い暗闇の中、感じられたのは濃い獣臭だけだった。
「思い出すな……」
思わず呟いてしまう。
思い出したのは、あるSランク魔獣の卵を狙った時のことだ。
遅れて、リルとプリムが下りてくる。
さらにガンゲル、ヴィッキー、Aランクハンターも下りてきた。
思いの外、簡単に処理できたらしい。
俺は手に炎をかかげながら、奥を照らした。
果たしてそこにあったのは――――。
「卵?」