第143話 元S級ハンター、本気を出す
☆★☆★ 本日発売 ☆★☆★
『魔物を狩るなと言われた最強ハンター』コミックス2巻。
無事発売日を迎えることができました。
おいしいステーキと、奥村先生書き下ろしオマケ漫画など、
魅力に溢れた第2巻を是非ご堪能ください。
ISBN:9784891998417
(後書き下に公式リンクを作りました)
「ゼレット、作戦はどうするんだ?」
ヴィッキーも含めて、集まったハンターたちは俺を囲む。そこには弟子やリルも含まれていた。
リーダーなんて柄ではないのだが、言い出しっぺはこの俺だ。
無下に「勝手にしろ」とはさすがに言えなかった。
「その前に聞いておきたいのだが、ガンゲル。【蠱毒】のボンズはどうした?」
俺やヴィッキーと同じS級のハンターである。ヴィッキーに次ぐ3位の成績を持つハンターだが、スキル【蠱毒】は非常に強力だ。
毒を持つ虫を自在に操れる故に、その毒の強さを高める能力を持つ。ボンズのスキルが生み出す毒は、魔獣の息の根を止めるほどの致死量を持ち、それはSランクの魔物も例外ではない。
俺の質問に対して、ガンゲルは苦虫を噛みつぶしたような顔で俺を睨んだ。
「あいつの性格は、お前もよく知っているだろう」
「……そうか」
ただ性格に難があって、非常に気分屋だ。
3位に甘んじているのも、そういった性格がたたってのことだが、真面目に仕事をしていれば、ヴィッキーの討伐数を軽く上回ったことだろう。
この辺りのハンターでは使えるヤツなので、加勢してくれれば心強いと思っていたが、本人の資質はどうしようもない。
それにボンズは毒を使う。
1度刺せば、その魔獣は食材にできない可能性が高い。
俺は咳払いをした。
「俺とリル、プリム、ヴィッキー、そしてA級ハンターはアジトに潜入する」
「他はどうするのだ、ゼレット」
ガンゲルが質問した。
「B級ハンターは、敵アジトの外周で待機。外に出てきた魔物を駆逐してくれ」
「良かろう」
「でも、ゼレット。アジトといっても……」
ヴィッキーは振り返る。
広がっているのは、荒野だ。
ところどころ緑や丘が見えるだけで、アジトどころか人が作った構造物ですら見えない。
「地上にないなら」
「地下か」
今日のガンゲルは珍しく冴えてるらしい。
「だが、その入口をどうやって探す? 魔物が出てくるまで、のんびり待つのか?」
「待つのもハンターの仕事だと言いたいところだが、俺たちに時間はない」
十中八九、俺たちの動きはルカイニの知るところになっているだろう。
今ここに至っては、証拠隠滅なんてセコいことはしてないはずだ。予定通り、魔物の軍隊を揃えて、「革命」とやらを引き起こそうと考えているかもしれない。
むしろ最初から女王との約束など守るつもりがあったかどうかも怪しい。
「あの中が魔物の巣窟になってる可能性があるってことか」
言の葉にするのも恐ろしい内容を、ヴィッキーは嬉しそうに口にする。
ついにペロリと舌を出した。
「で? どうやって潜入する」
「リル、どうだ?」
ガンゲルの質問を無視し、俺は相棒に質問する。
リルはハントの時と同じく、鼻を利かせると、一定の方向を睨んだ。
「プリム……」
声を掛けると、弟子は手で筒を作りながら、リルが指し示した方向をじっと観察する。
そしていつも通り、こう言った。
「あっちだよ、師匠」
「なら、このぐらいだな」
俺は【砲剣】を持ち上げ、1発の弾を装填した。
その弾の色を見て、ガンゲルの顔が青くなっていく。
「ゼレット……。お前、今の弾って……」
「ああ。言い忘れていた」
お前ら、離れて岩陰で伏せておいた方がいいぞ。
一睨みする。
すると、ガンゲルは振り返って喚いた。
「聞いたな!! 全員退避! 退避だ!!」
「なんだよ、ガンゲル。ゼレットの弾がどうしたんだ?」
「ゼレットが本気を出す」
「ゼレットの本気?」
「こいつの魔力量は異常だ。通常のハントでは、音を極力出さないようにして、力を抑えて撃ってる」
「ちょっと! 今まで手加減していたの?」
「そもそもその力を受け止める弾が少ない。今、込めたのは、その唯一の弾だ……」
さらにガンゲルは声を張りあげた。
地声がデカいからか。
すでにハンターたちには事のヤバさが伝わっているらしい。
集まった全員が、顔を青くしていた。
「ここにいたら、全員吹き飛ぶぞ! 逃げろ!!」
ガンゲルの叫び声に、事態を察し切れていないハンターたちは渋々といった様子で退避していく。
そこにリルとプリムが加わった。
俺は【砲剣】の先に二脚銃架を立てる。俯せになり、足を広げて踏ん張ると、砲身の先を崖から出して狙いをつけた。
そして銃把を引く。
耳をつんざくような轟音。
さらには衝撃が俺に襲いかかる。
特殊な弾丸は空気を払いのけるように進むと、地面のあるポイントに着弾した。
ドォォォオオオオオオオンンンンン!!
直後、周りが真っ白に染まる。
風が巨大な手の平となってあらゆるものを払いのけ、地面を穿つ。
口を閉じていなければ、無理やり空気を押し込められるような状況の中、俺はひたすら顔を伏せてやり過ごした。
光が霧のように晴れていくと、空気が軋むような音を聞いて、顔を上げる。
それは俺だけではない。
巨大な岩や丘の影に隠れていたハンターたちも同様だった。
ヴィッキーがふらふらと歩きながら、崖の向こうの景色を眺める。
直後、ドワーフ族の戦士は息を飲んだ。
「何あれ……」
現れたのは、巨大なきのこ雲である。
その根本は大きな岩が激突したかのように抉られ、さらには人が手を入れたと思われる鉄の構造物までひしゃげていた。
「これがゼレットの本気……」
「本気ではない」
「え?」
俺はきっぱりと告げると、ヴィッキーは肩を震わせた。
「ラフィナの約束したからな。ドラゴンキメラを狩って帰ると……。すべてが蒸発しては、依頼料が貰えない」
とはいえ、ちょっとやり過ぎたか。
思っていた以上に、俺はルカイニに対して怒りを覚えていたかのかもしれない。
自分が考えていた以上に、出力が出てしまった。
「ふん。……ルカイニ公爵ともあろうものが、順番を間違えたな」
ガンゲルが何故か自分の功であるかのように前に出る。
「仲間にするならリンとかいうチンピラなどではなく……」
ゼレット・ヴィンターを先に仲間にすべきだった。