第142話 元S級ハンター、元上司に依頼する
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三つ首ワイバーンの討伐から実食までを網羅。
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「撃つって……。ゼレット様、もしやルカイニ様をこの男のように拷も――――山に連れていくつもりですか?」
ラフィナは白く息を濁らせ、俺に尋ねた。
そろそろ俺も寒くなってきた。
リンも、ラフィナもそろそろ限界だろう。
「相手は腐っても公爵家です。ルカイニを殺害すれば、彼に連なる門閥からどのような報復があるか。ルヴィアナさんも言っていましたが、あなたには大切な家族がいるのですよ」
「別にルカイニをどうするつもりもない。それはお前の役目だ、ラフィナ」
「え?」
「俺は元ハンターで、そして今は食材提供者だ。正直に言って、魔物を撃つ以外に能はない。しかし、その能力だけなら誰にも負けるつもりはない」
ドンッ!
金庫内にけたたましい音が鳴り響く。
足元に転がった【砲剣】を持ち上げた。
「軍隊だろうが、門閥だろうが、関係ない。そこに魔物がいるのだ。それを仕留めるのが俺の役目だ。違うか?」
「それはそうですけど……。でも、その魔物がどこにいるのですか?」
ラフィナは恐る恐るリンの方に振り返る。
地下街の頭目は沈黙していた。
寒さで唇が青くなっている。
これ以上の尋問は難しいだろう。
「心配するな、ラフィナ。大方の予想はついてる」
「え?」
「以前、近くの森林公園でワイバーンとガルーダのキメラに遭遇したことは話したな」
「はい。その後にも、トリケラドンなどの大量の魔物に…………。あっ!」
「そうだ。あの森にはいない魔物が大量にいた。ずっとおかしいと思っていたが、ようやくこれで説明がつく」
「隠していた魔物が、何らかの問題があって、逃げ出したと……。ですが、そこを引き払っている可能性は高いんじゃないですか?」
「かもな。大量の魔物を隠しているんだ。そのすべての証拠を隠すことは難しい。それに、俺には優秀な目と鼻がいる。場所が特定できれば、こちらのものだ」
「まさかゼレット様。お1人で行かれるつもりですか?」
「1人じゃない。リルも、弟子もいる」
「それでも相手の戦力がわからない状態で行くのは危険です。女王に進言し、軍を……」
「女王とルカイニが繋がっている可能性がある以上、国の助けを借りるつもりはない。むしろ危険だ」
「それはそうですが」
ラフィナは反論の術を失う。
下を向く彼女の頭に触れて、俺は撫でてやった。
彼女は少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。
こういうところは、昔のままだ。
「心配するな。俺たちだけで行くつもりはない」
「そうなのですか?」
「これでも友人は多い方だ。悪友ばかりだがな……。そこでラフィナにお願いがある」
「何なりと……」
「依頼を出して欲しい」
「え?」
「俺はもうハンターではない。まして正義の味方でも、悪を罰する処刑人でもない。食材提供者だ。ただ依頼人の願望を叶えるため、ドラゴンキメラを含む多種多様な魔物の肉を獲ってくるだけだ」
「……なるほど。わかりましたわ」
ラフィナは潤んだ瞳を袖で拭う。
顔を上げて、俺の方を向くと、挑戦的な笑みを浮かべた。ようやく初めて会った時のラフィナの顔に戻ったな。
「ゼレット・ヴィンター様。ファウストの森周辺の魔物の食材化をお願いしますわ」
「依頼料は?」
「そちらの言い値でかまいません。わたくしのお腹が壊れるぐらい、獲ってきてくださいな。そして――――」
ラフィナの瞳がギラリと光る。
「ルカイニ公爵に、本物の魔物食の味を味合わせてあげますわ」
◆◇◆◇◆
ラフィナの依頼を受け、俺は早速動いた。
まず向かったのは、ファウストの森――ではなく、古巣だ。
つまりはハンターギルドである。
そこで汲々として働き、つぶれかけのハンターギルドのギルドマスターを訪ねた。
『はあ! ゼレットが来ただと!! 追い返せ! ヤツの顔など見たくもないわ!!』
ガンゲルが執務室の喚き声が、廊下で待っていた俺の耳に入る。
瞬間、俺は薄い扉を蹴破った。
扉は粉々に砕け散り、空いた穴をくぐって、執務室に入室する。
「はああああああ! ぜ、ぜ、ゼレットぉぉぉぉおおおお!! 何をやっているんだ、貴様!!」
「悪いな。あまりに薄すぎて、扉があることに気付かなかった」
「貴様ぁ! いきなり殴り込んできたと思ったら……。弁償しろ!!」
ガンゲルは顔を赤くして、怒鳴る
「そんなに顔を赤くするな。年だろ。血管が詰まって、死んでも知らんぞ。おっと。これ以上挑発をすると、本当に死んでしまいそうだな」
「出て行け! 貴様と話すだけで、こっちの寿命が縮みそうだ!」
「もっともな意見だな。しかし、いいのか? 俺は依頼人だぞ?」
「依頼人??」
ジャリンッ!
コートの下から何か重たい音がする。
いつもなら【砲剣】などの武器が出てくるところだが、現れたのは袋だった。
中身の音を聞いて、喚き散らしていたガンゲルは息を呑む。
俺はその袋を拾い上げて、ボロボロの執務机の上に置いた。
「2000万グラある」
「にせっ……」
「これは前金だ。成功すれば、1億グラをハンターギルドに振り込むことになっている」
「い、い、1億グラぁぁぁああああああ!」
ガンゲルは絶叫し、その後顎を閉じることができなくなった。
すでに冷静でいられなくなったギルドマスターに対して、俺は説明を続ける。
「これで上位3傑と、20名ほどのAランクハンター、40名のBランクハンターを集めろ。取り分はお前が決めろ。危険も多い。できるだけハンターたちを優遇してやれ。相手は軍隊並みに密集した魔物の集団だ」
「軍隊並み? 魔物の集団だと?」
「ああ。単純に戦力が足りない。だから、ハンターギルドの手を貸して欲しい。……まあ、お前が俺と組むのがイヤというなら、他を当たるがな」
俺は机に置いた2000万グラを持ち上げる。だが、それは叶わなかった。
その前にガンゲルが、袋を握っていたからだ。
先ほどまでプリプリ怒っていたガンゲルは、「にへっ」と気持ち悪い営業スマイルを浮かべる。
「いや~、ゼレットさん! 失礼いたしました。どうぞどうぞ。こちらにおかけください。おい! 何をしている! お茶だ! お茶を出せ!! 1番いいヤツだぞ。すみませんね~、気の利かないヤツらばかりで」
な、何という手の平返し。
ガンゲルの人格はよく知っているが、自分でこの手の平返しを体験すると、さすがに引くな。
まあ、これがガンゲルの処世術だ。
これぐらい図太い神経の持ち主でなければ、つぶれかけのハンターギルドのギルドマスターなんてできないだろう。
願わくは、次来た時、部屋に「魔導冷却器」ぐらい設置されていてほしいものだ。
◆◇◆◇◆
2日後……。
俺たちはファウストの森から少し離れた所にある山に来ていた。
ここら辺は旧鉱山で、あちこちに網の目のように坑道が通っている。
坑道はかなりくたびれているが、大量の魔物を隠しておくには持って来いの場所だ。
ファウストの森から臭いを辿り、リルとプリムが探し当てた。
「プリム、どうだ?」
「うーん。間違いないよ、師匠。あっちこっちに魔物の足跡があるもん。消してるけど残ってるところもある。……自然にできたものじゃないよ。不自然なものばっかりだ」
「間違いなさそうだな」
俺は【砲剣】を構えた。
振り返ると、ガンゲルが呼び寄せたハンターたちがいる。
中には、自称ライバルであるヴィッキーの姿もあって、例の鉄バットを構えている。
他も精鋭揃い。みんなやる気に満ちあふれている。久しぶりの高額賞金に、うずうずしているといったところか。
かくいう俺も武者震いしているところだった。
「ハンターの力を見せつけてやろう」
存分にな……。
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