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第137話 元S級ハンター、帰宅する

拙作『劣等職の最強賢者』の単行本が7月19日発売されます。

イラストレーターでもあり、漫画家でもある猫猫猫先生に超美麗な表紙を描いていただきました。

すでにAmazonなどご予約が始まっておりますので、是非よろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

「パーパ、おかえりぃ」


 トタトタと廊下を走ってきたのは、 シエルだった。


 俺の足は鉄の棒のように重たかったか、可愛い愛娘の顔を見て、一気に疲れが吹き飛んだ


 潜伏任務の時、強面の男の顔しか見ていなかったから、シエルの緩んだ表情が余計に天使のように見える。


「まあ、普段からシエルは天使だがな」


 俺はシエルを抱え上げる。


 スリスリと柔らかい頬を擦ると、キャッキャと喜ぶ。すると、ふとあることにシエルは気付いた。


「パーパ、変な匂い?」


「ああ。これは海の匂いだ」


「うみ?」


 そう言えば、森を流れる川辺に連れて行ったことはあったが、海はまだだったな。


 今度、海水浴にでも連れていってやるか。


 シエルの水着姿か。


 きっと可愛いのだろうなあ。


 今回の報酬をもらったら、絵師を呼んで額縁に飾ろう。


「ちょっと! シエルの顔を見て、なに変な顔をしてるのよ」


 スコンと気持ちの良い音を立てて、我が妻パメラがフライパンで俺の頭を殴る。


 地味に痛い。というか、すごく痛い。


 やれやれ。前から言ってるだろう。


 フライパンは調理器具であって、人の頭を叩くものではない、と。


「ゼレットが本物かどうか試したのよ」


「フライパンで叩いてわかるものか」


「幼馴染みを舐めないでよ。叩いた音でわかるわ」


 何故かドヤ顔を決める。


 さすが俺の幼馴染みである。


「でも、よかった。ちゃんと帰ってきてくれて」


 パメラは心底嬉しそうに微笑んだ。


 妻の笑顔は輝かしいものだったけど、裏を返せばそれだけ心配していたということになる。


「心配をかけてすまんな」


「ううん。ゼレットなら絶対に戻ってくるって信じていたわ」


「…………」


「ん? 何??」


 パメラは首を傾げる。


 うーん。話しづらいなあ。


 本当は死にかけていたなんて。


 あの時、オリヴィアがいなかったら本気で不味かったろう。


「マーマ……。パーパ、がんばった」


「そうね。パーパ、頑張ったわね」


「チューする? チューする?」


「え? チュー?」


 俺は思わず動揺するのだが、これがヴィンター家の日課のようなものになっていた。


 任務が無事に終わって帰ってくると、2人から口付けされるというものなのだが……。


「そうね。いつもよりいっぱいチューしないと。パーパ、すごく頑張ったから」


「はーい。パーパ、よく頑張りました」


「頑張りました」


 パメラ、そしてシエルの両方からほっぺにチューされる。


 それは大変光栄なことで、ヴィンター家ではよくあることなのだが、今はどうしても浜辺の件を思い出してしまう。


 んー。やっぱりパメラには話しておくべきだよなあ。


 ああ。くそ。

 良い案が浮かばない。

 こういう時どうしたらいいか、師匠に聞いておくべきだったか。


 ふとあの酔っ払いの顔を思い浮かんだが、とてもじゃないが、実のあるアドバイスが返ってくるとは思わなかった。


「あ、あのな。パメラ」


「ん? 何? 神妙な顔をして? お腹でも空いたの?」


 神妙な顔をしてるのに、何故そう思った。


「実は……」


「あー。師匠、またチューされてる」


 緊張で声が震える俺の横で、遅れて帰ってきたプリムの能天気な声が聞こえる。


「ぷ、プリム?」


「え? また(ヽヽ)??」


「ちが! これには理由があってな、パメラ」


「あのね。師匠ね。オリ――――――」


 ドンッ!!


 ついに俺の【砲剣】が火を吹く。


 思わず撃ってしまった。しかも高い弾を……。


 だが、この際馬鹿弟子の口を閉じさせるならなんでもいい。


 いつも能天気で、火あぶりにされたって笑顔が絶えない馬鹿弟子も、さすがに黙ってしまった。


「――――ヴィアとチューしてたよ」


 効果がなかったぁぁぁあああああ!!


「馬鹿! 馬鹿弟子ぃいいい! お前は今すぐリルをシャンプーしにいけ!」


「え? なんで? いつも師匠が……って、あれ? リル? 何? 何?」


 居たたまれなくなったのか。野生の勘が働いたのか。


 馬鹿弟子より空気が読めるリルは、プリムの首根っこを噛むと、そのまま『エストローナ』の奥へと消えていった。


 パメラは黙ったままだ。


 俺に抱え上げられたシエルが、パチパチと大きなお目々を瞬いて、父と母を交互に見ていた。


「シエル?」


「なーに? ママ?」


「ちょっとママ。パパとお話しするから、リルと一緒にお風呂に入ってきなさい」


「はーい」


 シエルはあっさりと頷く。


 シエルとのお風呂タイムがこれで完全消滅したわけだが、むろん俺はそれどころではなかった。


「説明してもらいましょうか?」


 シエルが去った後、パメラから炎が燃え上がる。


 やばい。これは完全に土下座コースだ。



 ◆◇◆◇◆



「と――――いうわけだ」


 すべてを話し終えた俺は、チラリと我が妻パメラを盗み見る。


 横ではリルのシャンプー作業が続けられており、その横を裸のシエルとプリムが遊び回っている。


 2人と1匹は泡だらけになっていて、エストローナの裏手には、いくつものシャボン玉が浮かんでいた。


 結婚してから作った縁側に座った俺たちは、その光景を遠目に見ながら、地下街であったことに加えて、オリヴィアとあったことを話す。


 そのパメラはというと、終始腕を組み、難しそうな顔を浮かべていた。


 やがて、大きく息を吐く。


「そんなことだろうと思ったわ」


「怒ってないのか?」


「怒ってるわよ」


 ギロリと半目で睨まれる。


 地下街の頭領リンなんかより、よっぽど怖い。


「別にオリヴィアとキスしたことは怒ってないわ。不可抗力だし、むしろこっちとしては感謝すべき事案よ」


「ま、まあ、そうだな」


 同意すると、パメラは二本の指を立てた。


「でも、ゼレットは2つ約束を破ったわ」


「約束?」


「1つはオリヴィアを危険にさらしたこと。アジトを炙り出すために必要なことだとは思うけど、もうちょっと慎重になるべきだったと思うわ」


 うっ……。ぐうの音も出ないな。


 結果論かもしれないが、オリヴィアを守るといいながら、危機にさらしたことは事実だ。


 約束を破ったという点では、これはオリヴィアに謝るべきだろう。


「もう1つは?」


「私との約束に決まってるでしょ。オリヴィアがいなかったら、ゼレットは生きて帰ってこなかったんだから」


 確かに。


 俺は俺の身を危険にさらしてしまった。


 これは明らかに俺の慢心だ。


 3年のブランクがあって、受ける任務じゃなかったかもしれない。

 たとえ他に受ける人間がいなかったとしてもだ。


 社会に対する正義感がなかったといえば嘘になる。


 これはかつて【勇者】と呼ばれた師匠の影響もある。俺の中で英雄思想的なものがあるのも、師匠の影響によるものだろう。


 家族がいることを考えなかったわけではない。


 でも任務に対して安易に考えていたことは事実だった。


「すまない、パメラ」


 俺は心から妻に頭を下げた。


 すると、俺の黒い髪をパメラは撫でる。


「別に頭を下げるまでもないわよ。私はあなたの妻で、上司でも何でもないんだから。でも、ゼレット……」


「お前の気持ちはわかってるつもりだ。俺の仕事は無茶で危険が付きまとう。でも、それが過ぎるようなら、また怒ってくれ」


「うん。……それでいい。覚悟なさい。フライパンで殴られるだけじゃすまないわよ」


 パメラは不敵に笑う。


 すると、大量の泡爆弾が俺たちを襲った。プリムとシエルの笑い声が聞こえる。首謀者が誰かは明白だった。


 目を開けると、パメラの顔が合った。


 視線が合うと、パメラは少し頬を赤らめる。


「あと、言い忘れていたけど。おかえりなさい、ゼレット」


「……ああ。ただいま」


 泡の中で、俺とパメラは久方ぶりの口付けをかわした。


発表はまだですが、『魔物を狩るなと言われた最強ハンター』の単行本2巻も、

近々発売されます。情報が揃いましたら、ご報告させていただきますね。

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