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第133話 元S級ハンター、罠を張る

今日から仕事じゃなくて、GWずっと仕事だった人を応援するための更新。


 魔獣をハントするのに、1番難しいことはなんだ?


 俺がS級ハンターとして働き、目覚ましい功績を挙げ続けていた時、ハンター合同の取材に参加したことがあった。


 あるハンターは魔獣を倒せる火力を手に入れることだと、自慢げに答えた。


 不規則な魔獣の動きを読み取ることだと答えた奴もいた。


 あるいは魔獣の習性や知識を理解することだと答えたハンターもいる。


 どれも正解で、しかし1番の正解ではない。


 果たして俺はなんと答えたか。


「距離だ」


 もっと言えば、魔獣との距離感だ。これが難しい。


 魔獣の中には、人間よりも目や耳、鼻などがよく利くものがいる。鹿や猪なら人間の匂いを嫌がるだろうが、魔獣は違う。逆に人間の方に向かってくる。


 中には足音を消し、あるいは人間が通る場所を特定して、待ち伏せする魔獣も存在する。


 野山に入って、野生動物より魔獣と出会う確率が多いのは、魔獣が人に寄ってくるからなのだ。


 通常の鹿や猪の狩りは、人間が動物を追いかける展開になりがちだが、魔獣の場合自分たちが追いかけられる事も考えなければならない。


 そのためには魔獣に見つかる前に距離を詰めるスニーキング能力と、追跡する魔獣を出し抜くインテリジェンス、最後は魔獣と突発的に遭遇する時の対応力が問われることになる。


 いずれにしても、魔獣に対応する距離感を保つことは、魔獣ハントに於いてもっとも重要な要素なのである。


 魔獣に近づくため、あるいは魔獣から一定の距離を保つため、俺たちは攪乱、偽装、認識誘導、気配消失、その他諸々、あらゆる手段を使う。


 そうやって魔獣と駆け引きをしながら、互いの命をかけてやりとりするのだ。


 人間よりも遥かに優れた感覚能力がある魔獣と比べれば、地下のごろつきたちに近づかれず、潜入することなど造作もない。


 それに俺にはプリム()リル(はな)がいる。


 この1人と1匹は、遠く雷雲の中にいる三つ首ワイバーンすらあっさり見つけてしまう。その警戒網から逃れることは、実質不可能である。


「要はちょろいってことだな」


 俺は肩を竦めた。


「くそっ!」


 リンは再び後ろで聞いていたオリヴィアに手を伸ばした。


 人質に取ろうという魂胆だろう。


「遅い――――」


 俺の言葉とともに、疾風が逆巻く。


 伸ばしたリンの手を払ったのは、リルだった。


 そのままリンを追い越すと、オリヴィアの首根っこを掴む。そのまま速度を落とさず、リンと距離を取った。


 リルは目も耳も凄いが、脚力も優れている。


 アイスドウルフは成獣ともなれば、一足飛びで山を越えられるっていうしな。


「さて、ついにお前1人だぞ、リン。3対1だ。そろそろ降参したらどうだ?」


「ふふふ、あはははははは……!」


 突然、リンが笑い始める。


「何がおかしい、リン」


「いやあ、恐れ入ったぜ、ゼレット・ヴィンター。S級ハンターがここまで手強いとはね」


「元だ。今は料理ギルドの食材提供者で、1児の父だ」


「天晴れ天晴れ……。でもな、あんたが思ってるよりこの事件は闇が深いんだぜ」


「闇? 何のことだ?」


 答えを聞く前に、リンはポケットから短刀を取り出す。


「あくまで戦うのか?」


「業界の仁義ってヤツさ」


「そういう顔はしてないけどな」


「なんとでも言え」


 リンは短刀を収めていた鞘を捨てると、俺の方に突っ込んでくる。


 俺は周りを見た、罠を張っている気配はない。正々堂々1対1を所望してるらしい。


「プリム、リルもだ。手を出すなよ」


「師匠、頑張って!」


『ばぁう!!』


 俺も【炮剣】をコートから出すと、リンに向かって行く。


 網の目状になった足場の上を駆けていった。


 火花が散る。初撃はイーブン。続けて、二撃目をお互いセットするも、それも受けた。


 3撃、4撃と続けるものの、俺もリンも互いに斬撃をいなし、いなされる。


(こいつ……)


 井の中の蛙かと思いきやできるじゃないか。


 短刀の振りこそ我流。はっきり言って、滅茶苦茶と評してもいい。


 けれど場慣れしているのだろう。道場でも、俺のように師から教わったわけでもない。


 すべて実戦で培われた術理に則って動いている。


 そして、何合目かの打ち合いで、ついにお互い息を入れる。激しい鍔迫り合いに加えながら空気を貪った。地下だからか。いつもより空気が薄く感じる。


「どうした、S級ハンター殿。息が上がってるぜ」


「お前の方こそどうした? 顎が上がっているぞ」


「オレ様のことはいいのさ。あんたの方こそ大丈夫か?」


「あ?」


 戦闘の最中、オレは気付く。

 まず最初に見えたのは、白い霜だ。

 沸々と【炮剣】に水滴が付いていく。

 「寒い」と身震いしたのは、その時だ。


「まさか、スキルか?」


「そうさ。オレのスキル【凍土】は、範囲内を氷漬けにできる能力を持ってるのさ」


「氷漬け?」


 気が付けば、息が白い。

 欄干に小さな氷柱が慕っている。

 そうか。最初の打ち合いは温度を下げるためか。


「お前のスキルは、温度を下げるまで時間がかかるんだな」


「そう。それだけが唯一の悩みだ。だが、1度氷漬けが始まったら、竜だろうが、神獣だろうが氷漬けにしちまう」


 リンはオレを押す。

 足で踏ん張ろうとしたが、すでに鉄の足場は結露し、さらに凍っていた。

 踏ん張りが効かずに、後ろへと滑っていく。


 態勢を崩しそうになったが、なんとか欄干を掴んで堪えた。


「し、し、師匠……。さぶいぃいいぃ!!」


 振り返ると、半分凍死しかかっていたプリムが立っていた。

 プルプルとふるえながら、足元が凍っていく。


 氷になる浸蝕が速い。


 ハッと気付いた時には、欄干を掴んだ俺の手が氷漬けになっていた。


 さらに足の裏まで凍っていて、完全に身動きが取れない。


『ばぁう!!』


 リルの声が聞こえた。


 オリヴィアをくわえ、安全圏まで退避している。


 2人とも無事のようだが、氷の浸蝕から逃げるしかなく、俺の方に近づけない様子だった。


「終わりだな、S級ハンター」


 氷の上を見せつけるようにリンが近づいてくる。


 顔に笑みを貼り付け、実に楽しそうに短刀を俺の眼前に突きつける。


「随分舐めたこと言ってくれたが、そっくりそのまま返してやるよ。S級ハンターってのは、こんなに温いのか?」


「ああ。お前がな!」


 途端、俺から炎が噴き出す。周囲を紅蓮に包むと、氷が溶ける。


「しまった!」


「俺のレクチャーを忘れたようだな。獲物を捕らえるのは距離感が大事だと」


 そうだ。俺がこうやって氷漬けになってみせたのも、リンが無警戒に近づいて来させるためだ。


 生憎、氷の上で動けないから、向こうからおびき寄せたというわけだ。


「クソ!!」


 リンは慌てて短刀を振り上げるが、遅い。


 先に炮剣の峰が、リンの脇腹を捉えていた。


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挿絵(By みてみん)

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