第132話 元S級ハンター、ハンティングを始める
☆★☆★ コミカライズ更新されました ☆★☆★
本日、コミックノヴァ公式にて最新話が更新されました。
料理ギルドの待遇の良さにゼレットがビビるお話です。
奥村先生がとてもコミカルに描いてくれましたよ!
日曜日にはニコニコ漫画でも掲載されますので、是非読んでくださいね。
「へっくし!!」
むっ……。
風邪か? いや、別に体温が高いというわけではない。
ならば、誰かが噂をしているのだろうか。
まあ、そんなヤツ考えたらごまんといるからな。
ただ俺の帰りを待つ愛娘なら話は別だ。
これだけ長く家を空けたのは初めてだからな。
側にパメラがいると言っても、さぞ寂しい思いをしているに違いない。
家に帰る前に、何かお土産でも買って帰るか。勿論、パメラにもな。
さて、作戦は成功した。リルとプリムの鼻を頼りに、やって来たのは地下街のさらに奥まった場所にある集合住宅だ。
パッと見て、周りの雰囲気は浮浪者のたまり場にしか見えない。
だが、俺の目は誤魔化せなかった。
「偽装だな。全員が武器を隠し持ってるようだ」
武器はともかくとして、問題はスキルだろう。
間違いなく武闘系スキルに違いない。
まだ中にも入っていないのに、騒ぎを起こしたくないな。
「それにしても……」
首を捻る。
偽装食品の工場がここにあるとして、搬出口が見当たらない。
おそらく外のどこかに繋がっている別の入口がありそうだな。
「師匠! どうする? 悪いヤツ、やっつける? シュッ! シュッ!」
プリムは軽くシャドーする。
全く以て素人拳闘だが、こいつなら普通に世界を目指せるだろう。
「随分と機嫌がいいな、プリム」
「え? だって、久しぶりの師匠とのお出かけだもん! 気合い入りまくりだよ」
言われてみれば、そうだっけか。3年間休業状態だったからな。
その間、護衛ギルドに雇われていて実戦感覚こそ鈍ってなさそうだが、俺とのハントは久しぶりだから興奮しているのだろう。
弟子もたまには嬉しいことを言ってくれる。
奔放で何を考えているかわからない性格とはいえ、3年間放置して、腐らず付いてきてくれているプリムには感謝しかないがな。
だが、俺とのハントの感覚は少し忘れていたようだな。
「プリム、忘れたか。やめてしまったが、俺たちはあくまでハンターだ。音を立てるのは、1発の銃声だけでいい」
「余計な音を立てるな――だね。了解だよ、師匠」
プリムは足音を消す。
それに感付いて、リルも気配を消した。
ここは魔獣がひしめく山や森ではない。
だが、俺たちが揃ったということは、地下街は狩り場ということになる。
ハンターの流儀を見せてやる。
◆◇◆◇◆
「離してください! わたしは呪い憑きじゃありません!!」
捕まったオリヴィアは、リンに連れられ、別の脱出口から外へ出ようとしていた。
集合住宅があったアジトから、さらに地下へ地下へと階段を下りていく。
まさか地下街にさらに地下があるとは思わず、オリヴィアは息を呑んだ。
(地下街の広さでも驚いたのに、さらに地下があるなんて。もはや小さな地下都市じゃないですか? こんな大規模事業をよく国にバレずに、無許可で――――)
リンに腕を引っ張られていたオリヴィアは、足を止める。
ちょうど格子上の欄干の上を歩いていた時だった。
チラリと見えたのは、工場だ。何かの肉を成形する機械も見える。
「それにこの臭い……」
鼻の曲がりそうな臭いにオリヴィアは顔を顰める。
彼女は料理ギルドの受付嬢である。牛とも、豚とも違う強烈な動物の臭いを間違えるわけなかった。
「近くで魔獣を飼っていますね。こんな地下で――――」
どおりで、ギルドマスターやラフィナたちが必死になって探しても見つからないわけである。
地下街のさらに地下ということにも驚いたが、地下都市並みの複雑さと機能を持つ空間に加え、肉を成形するための道具や器類、さらにかけている人員の数。
特に驚いたのは、お金のかけ方だ。
そのほとんどを偽装肉で賄っているのだろうが、これほどの設備となれば、初期費用が馬鹿にならない。
(どこかに大口のスポンサーがいない限り、こんなに揃った設備で偽装肉を作ることはできません)
オリヴィアは息を吸い込んだ。
「ゼレットさん! ここです!! ありました!! 偽装肉が作られている工場はここにあります!!」
「馬鹿野郎! 大人しくしろ!! お前たち!! 何をボウッとしてる。こいつを黙らせろ」
リンの後ろについていた舎弟たちに注意する。
「ゼレットさん、いるんでしょ!! 早く来て下さい!!」
「黙れ! 無駄だよ、無駄。あいつらはここに来られない。いいか。例え、ここまで辿り着いても、外にはごまんとオレの部下がいる。平気な顔して、地下まで来るのは無理だ。少なくとも五体満足にはいかないだろう」
オリヴィアの顎を掴み、リンは殺気立った視線を強引に叩きつける。
しかし、料理ギルドの受付嬢は剛胆だ。
例え、裏社会の人間に脅されても、その瞳の強さは変わらない。
「ゼレットさんは来ます。わたしと約束してくれましたから」
「約束だぁあ? ふん。そんなもんいくらでも言える」
リンはオリヴィアから手を離す。
振り返って、次に舎弟を怒鳴り散らした。
「お前ら、何をボウッと突っ立ってんだよ。早くこの娘を――――」
直後、舎弟たちは倒れた。
5人もいるその界隈では有名な手練れたちがである。
すると、ヌッと地下の闇から現れたのは、獣人の娘と銀毛の神獣だった。
「そんな馬鹿な!!」
リンは後ろに下がる。
オリヴィアを確保しようとしたが、彼女の代わりに突きつけられたのは、黒く焼け付いた砲口だった。
「熱っ!!」
リンはまたも飛び上がる。
そして、冷たい黒い瞳とかち合った。
「ゼレット……、ヴィンター……。どうやって……?」
「言っただろ」
お前らは温いとな……。
有り難いことに、カクヨムにて連載している『勇者のいきつけ』が、
カクヨム賞をいただきました。
短編ですが、とってもお腹空く内容になっていますので、
もし良かったら読んでみて下さい。