第12話 元S級ハンター、〆る
今作で初めて延野作品を読んだと言う方は、
是非この作品の元ネタといってもいい『ゼロスキルの料理番』という作品もお読み下さい。
なんとこの作品は、WEBのみならず書籍化も、コミカライズ化もしているんですよ(唐突なステマ)。
是非週末の空き時間にでも読んで下さい(※リンクは下欄の方に貼ってあります)
料理ギルド前には人だかりができていた。
いきなりギルドの屋根を突き破って出現したグバガラの樹を見て、野次馬が集まってきたのだ。
そんな彼らだったが、さらに驚愕の光景を目にすることになる。
ずしん……。ずしん……。ずしん……。
空気を震わせ、震動とともに現れたのは、三つ首の竜……を持った元気な赤耳族であった。
人垣が自然と開き、三つ首ワイバーンを軽々と持ち上げて歩くプリムに、道を譲る。
皆、竜に驚くべきか、その巨体を運んできた赤耳族に対して、驚くべきか、悩んでいた。
「ひとまずここに下ろしてください」
指示を出したのは、オリヴィアである。
プリムは指示に従い、慎重に三つ首ワイバーンを料理ギルド前の通りに下ろす。それなりに広い通りだが、すっかり魔物の巨体に占拠されてしまった。
「すげぇ……」
「これが三つ首ワイバーンか」
「大きい」
「初めて見たよ」
人がさらに集まってくる。
中にはエプロンを着た料理人や、中卸し業者の姿もあった。
だが、三つ首ワイバーンよりも、その巨体を持ってきたプリムの力に、皆は驚いている。
「ま~さ~か~、素手で持って来ちゃうなんて、驚きだわ~」
ねちっこい声は、料理ギルドのギルドマスターだった。
そう言えば、本名を訊いていない。思えば、オリヴィアも「マスター」と呼んでいた気がするし、もしかして誰も訊いたことがないのかもしれないな。
興味があるかと言えば、さほどでもないが……。
「で、これからどうするんだ?」
「そりゃ、決まってるじゃな~い。食材に加工するのよ。食べられるサイズにしないと、お口に入れられないでしょ~」
ギルドマスターは赤いリップを塗った唇を小指で触る。
何かのアピールだったのだろうか。俺には全くわからなかった。いや、わからないということにしておこう。
「と・り・あ・え・ず、まずは魔物をシメないとね~。魚や牛と同じで、魔物も鮮度が命よ~」
「必要ないと思うがな」
「え? どういうこと? ゼレットくぅん」
ギルドマスターが首を傾げる横で、すでに料理ギルドが手配した解体屋が、ワイバーンの周りで作業を始めていた。
魔物の解体などを生業とする料理人たちだ。ギルドの中に2人ないし、3人以上常駐しているらしく、皆が解体に必要な『戦技』を持つ、『戦技使い』らしい。
なるほど。持っている包丁の手入れを見るからに、かなり職人集団だ。俺がやるよりも、ずっと速く解体をするだろう。
その大きな包丁を持った1人の職人が、三つ首ワイバーンの頭の1つに取り付くと、次の瞬間職人の手が止まった。
「なんてこった……」
ぽろん、と持っていた包丁を取り落とす。
それは1人だけではない。他にも三つ首ワイバーンの頭に取り付いた職人たちが、同様に手を止め、言葉を失っていた。
「そ、そっちもか?」
「ああ。こっちもだ」
「信じられねぇ……」
「ちょっと……。何事ぉ? どうしたのよ~?」
ギルドマスターが職人を覗き込む。
すると、その顔色も他の職人同じく変わってしまっていた。
気になったオリヴィアとパメラが近づく。
「何かあったんですか?」
「三つ首ワイバーンが、すでに活き締めされているのよ」
「活き締めって……」
「正確にはワイバーンの脳幹部分ね。そこを破壊されると、三つ首ワイバーンは即死に至るのよ。他にも急所はあるけど、脳幹部分がもっとも効率がよくて、保存が効いたり、味が良くなるって言われてるわ」
神妙な顔でギルドマスターは説明する。職人たちは、一斉に頷いた。
「オイラたちもそこをシメてから、血抜きをしようと思ってたのによ」
「すでに脳幹が機能してないんだ」
「穴が開いてんだよ。これぐらいの――――」
職人たちはお手上げとばかりに、乗っていた頭から下りる。
オリヴィアとパメラは立ちすくむ。その顔は青ざめていた。
そして、皆が俺の方を振り返る。
「ねぇ~、ゼレットくぅん。ここに来るまでの間に、活き締めをしてくれたのかしら? 随分とサービスがいいのねぇ」
「はっ? そんなことするわけないだろ?」
「ぜ、ゼレットさんの言う通りです。ゼレットさんは、ワイバーンを撃ち落としてから1度も触れていません。まして活き締めをするなら、すぐにわかったはず」
「オリヴィア、それって……」
「最初から脳幹部分を意図的に狙った、としか……」
「信じられない! 雲で見えない上に、急所の位置まで正確に射抜くなんて」
パメラは頭を抱えながら、通りの真ん中で喚く。
なんだ? 一体、どうしたというのだ?
俺、なんか悪いことでもしたのか?
「驚くべきは、三つあるワイバーンの頭を、全部射抜いていることよ。1つ首を落としても、他の首が動いてたら活き締めにはならないの。三つ首を同時に締めないと意味がないのよぉ」
「でも、ギルマス……。こりゃあ、全部同時に射貫かれてる」
「おらたち、そのために3人で来たんだ」
「どうやってやったのか、見当も付かねぇよ」
職人もお手上げとばかりに、肩を竦めた。
「ゼレットくぅん、一体何発撃って仕留めたの?」
「お前たちも横で見てたろ? 銃声1発しかしなかったはずだ」
「「ええええええええええええ!!」」
オリヴィアとパメラは同時に声を上げる。
ギルドマスターも汗を垂らした。
「嘘でしょ!」
「嘘なんてついてどうする?」
そもそもだ。1ショット1キルは、ハンターの鉄則だ。
獲物を何度も狙う機会なんて早々あり得ない。仮に1射目を外し、三つ首ワイバーンに宇宙まで逃げられたりすれば、いくら砲剣でも当てることは難しい。
そもそも俺が使う魔法弾は、完全なオーダーメイドである。
1発使うだけで、3ヶ月分の飯代と家賃が吹き飛んでいく。3発なんて使ってたら、それこそ大赤字だ。
なのに、ハンターギルドは消耗品の支払いをしてくれない。
逆に3発撃って大赤字になるなら、撃つなと怒鳴られたぐらいだ。
「だから、俺はたとえ雲の中だろうが、相手の急所が3つあろうが、1発で仕留める技術を極めた。……なんか文句はあるか?」
「も、文句はないけど……」
「費用節減のために技術を極めるなんて」
パメラとオリヴィアは絶句する。
ギルドマスターも息を呑む。
「やってることは出鱈目だけどぉ、すごい技術だわ~」
「ああ……」
「間違いない。ほぼ同時に三つ首ワイバーンを射抜いてる」
「もはや神業だよ」
職人たちも汗を拭い、感心していた。
俺からすれば日常の出来事なので、別に大したことはしていないのだがな。
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