第128話 元S級ハンター、イチャイチャする
☆★☆★ 新作投稿 ☆★☆★
『前世で虐げられたので、今世は自由に生きようと思います~処刑された大聖女は、聖女であることを隠したい~』という作品を新たに投稿しました。
前世でひどい目にあった大聖女は、次の来世で普通に暮らすつもりがおかしなチート能力に目覚めて、というお話になります。無双もざまぁもありますが、どちらかというとハートフルなお話なので是非一読下さい。
ふわりと漂ってきたのは、熱の入った香辛料と卵の香りだ。
青空のキッチンで調理されたとは思えないほど、具材がたっぷりで色鮮やか。
お椀形から崩れた銀米などを見ると、艶光りしていて、如何にもパラパラとした『焼き飯』を想起させる。
リルやプリムと違って、食が細いゼレットのお腹も反応する。
結局、4人分買うことにした。
場所が場所だ。もっとぼったくられると思ったが、案外良心的な値段だった。市場の惣菜に売ってる値段よりも、少し高いぐらいだ。
とはいえ、食材に何が使われているかわからない。
普通の野菜に見えても、盗品の可能性だってある。そもそもこんな輸送が難しい場所で、市場の惣菜より少し高いという程度なのがおかしい。
人件費を計算に入れてないかもしれないが、それでも場所から考えると安すぎだ。
料理ギルドのオリヴィアとしては、是非調査したいところなのだが、今は大事の前の小事。グッと堪えて、密かに『焼き飯』を【鑑定】する。
「特に問題なさそうですね。有害な農薬や毒などは入っていません。普通の焼き飯です」
「この謎の肉は?」
「魚肉を加工したみたいですね。すみません。何のお肉かはわたしの【鑑定】でもわかりません」
魚の中にも捕獲禁止されている魚もいるし、食用に適していない魚もいる。
【鑑定】の結果は問題なさそうだが、いざ目の前に出されるとちょっと尻込みしてしまうな。
まあ、それは俺に限っての話だが……。
「はむはむはむはむはむはむはむ……。師匠! この焼き飯おいしいよ!! 最高だよ! 僕、こんなおいしい焼き飯初めて食べたよ」
『ウォオオオオンンン!!』
プリムはともかく、リルも満足そうだ。
『初めて食べた』ってそこまで言うのか……。
たかが『焼き飯』だろうに。
とはいえ、鼻をくすぐる香辛料の香りは本物だ。
それが高級な香辛料なのか、それともちょっと変わった香辛料なのか、俺には判別が付かんが、まあ食べて問題ないなら食べるとしよう。
折角買った物を捨てるのも忍びないしな。
「いただきます」
スプーンを持って、最初の一口。
瞬間襲う香辛料のピリッとした一撃。
咀嚼を始めると今度は、パラパラとした米粒が口の中で踊り始める。
噛むと銀米の中に閉じこもった甘みが広がり、卵や野菜の甘みと一緒に口内に広がっていく。
加工した魚肉の感触は悪くなく、野菜もまだシャキッとした食感を残して、パラパラの銀米と一緒に食べると、もう病み憑きになってしまいそうだ。
いや、その時にはもう病んでいるのだろう。
極めつけは、濃い香辛料の香りにまた食欲をそそられてしまうことだ。
1度口に入れたら止まらない。
熱々だろうと、舌を火傷しようと、次々へとパラパラの『焼き飯』を頬張ってしまう。
オリヴィアも同様らしい。
俺と同じく感想を言うのも忘れて、髪を少しかき上げながら夢中で食べている。
「ホフッ。ホフッ」と白い息を吐き出すだけだ。
気が付けば、焼き飯が皿から消えていた。
量こそ多くなかったが、腹は満足感に満ち足りている。
「うまかった」
手を合わせる。
まさか裏社会の調査に来て、青空キッチンで焼き飯を食べるとはな。
しかも、空腹が手伝ったとはいえ、なかなかの味だった。
ちょっとリピートしたくなる中毒性がある。
本当に薬物の類いが入っていないのか、疑いたくなる。
「ゼレットさん、そろそろ調査を再開しましょう」
仕事モードになったオリヴィアが、真剣な表情で振り返った。
「…………」
「え? どうしました?? わたしの顔に何か付いてます?」
付いてますと言われて、顔に何か付いてることって早々ないものだと思っていたが、今回に限って違った。
オリヴィアの唇の横に、デッカいご飯粒が付いていたのだ。
「オリヴィア、お弁当が付いてるぞ」
「は?? お弁当……???」
チッ! 通じなかったか。
エルフの間では、こういうのだが……。
「ご飯粒が付いてると言っている」
オリヴィアの白い顔が途端に真っ赤になる。
「え? え? どこですか??」
慌てて顔を押さえるが、ことごとく手がスカぶる。
わざとやってないか、と勘繰る程にだ。
やれやれ……。
俺は手を伸ばす。オリヴィアの唇に付いたご飯粒を獲ると、ペロリと食べた。
うむ。やはり銀米一粒一粒がうまく油でコーティングされていて、かつしっかり熱が入ってる。
先ほどの少年料理人、なかなかの腕だ。
「ん?」
ふとオリヴィアを見ると、さらに顔を真っ赤にしていた。
上目遣いで見ながら、無言で俺に訴えかけている。
「どうした、オリヴィア。そんなに目線を上にしても、小人族の呪いは解けないぞ」
「ち、ちーがーいーまーす! そんなんじゃありません」
ポカポカと小さい拳で、胸を叩いてくる。地味に鳩尾に入って痛いんだが……。
「じゃあ、なんだ。言いたいことがあるなら、口でいえ」
「…………ぶ……」
「は??」
「ご飯粒! わたしのご飯粒ですよ」
「ん? あっ……。しまった!」
さすがに今のは俺でも迂闊だったと思う。
今の一連の流れは、恋人というより夫婦みたいなものじゃないか。
実際、パメラとはよくやってるしな(だいたい取るのは俺の方)。
敵地のど真ん中で何をやっているんだ、俺は。
「すまん。癖でな。よくシエルにな」
「ああ。なるほど。子どもさんにですか。じゃ、じゃあ、仕方ないですね」
オリヴィアは照れながら、納得する。
「すまん。お前があまりにもちっさくて」
「一言余計なんですよ」
オリヴィアは俺の鳩尾に肘鉄を入れた。
身体が小さいからちょうどオリヴィアの肩の高さに、俺のお腹があってうまく決まる。
しばらく俺は蹲った。
「それより、そろそろ行きましょう」
「ああ……。わかってる。けどな、オリヴィア」
ちょっと遅かったかもしれないな。
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