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第127話 元S級ハンター、炒飯に吸い寄せられる

更新遅れてごめんなさい。

完全にストックが尽きてまして、必死こいて書いてました。

引き続き更新するので、よろしくお願いします。

「こんなことリンの兄貴にバレたら……」


 ダクアスの表情は青ざめていた。


 よっぽどリンの兄貴というのが怖いらしい。


 おそらくダクアスの上司――いや、この怯え方からしてもっと上の存在だろう。


「そうだ。そのリンの兄貴とやら会わせろ」


「はっ? ふざけるな! お前らなんかにリンの兄貴は会わせねぇよ」


「ふざけているのは、お前の方だ。まだ俺たちに隠している情報があったとはな。もしかしてリンの兄貴というのは、この闇市を仕切ってる奴だな?」


「……! 答えるわけがないだろう!」


「いいのか、ダクアス?」


「はっ! もう脅されたって俺は何も言わないぜ。ここまで来たら、おれの勝ちだ。

いくらお前でも、ここには魔獣を呼べねぇだろ」


 散々脂汗を流しながら、ダクアスは勝ち誇ったかのように微笑む。


「まあ、そうだな」


 俺は素直に頷いた後、こう言った。


「しかし、考えてみろ。仮にお前が裏切って、俺たちはここまで連れてきたとしたら、そのリンの兄貴という輩はお前を許し、盛大にもてなしてくれるような器の大きい人間か?」


「それは――――」


 よっぽどリンの兄貴というのは、恐ろしいのだろう。


 【砲剣】を突きつけられて口を割らなかったダクアスは、あっさり表情を出してしまった。


「地の底まで追いかけて、お前を生きたまま鼻を削ぎ、指の爪を抜いて、最期にはなます斬りにする――まあ、そんなところだろう。しかも裏切り者となれば」


 聞いているだけで痛い内容を羅列する。


 実際、横で聞いていたオリヴィアが震え上がっていたが、怯えていたのは料理ギルドの小さな受付嬢だけではなかった。


 ダクアスの全身が震え出す。


 カタカタ、とまるで楽器のように振幅させ、目を剥いた。


 それほど、恐ろしいということか……。


「わかった。こうしよう。お前は場所を教えてくれればいい。俺たちは直接向かう」


「……お、お前死ぬ気か?」


「そのつもりはない」


 別にリンの兄貴とやらと一戦交えに行きたいわけじゃない。


 こちらの目的はあくまで闇市にある魔獣食材の加工工場の確認と、偽装肉の確認だ。


 それだけ確認できれば、後は衛兵たちに任せることになる。


 今回ドンパチなしだ。


 ラフィナの話では、この件について女王は弱腰姿勢のようだが、そこまで証拠が揃って国が動かないことはないだろう。


「リンの兄貴の側に、偽装肉と加工工場がある。そう見ていいんだろ?」


「まあな。今や魔獣食材の偽装肉は、闇市で1番のグラ(ヽヽ)箱だ。それを取り仕切るのが、ロンポー商会というわけだ」


「随分と口が軽くなった」


「自分の分際を思い出しただけだ。1つ約束しろ。おれは、リンの兄貴に元に行かなくていいんだな?」


「ああ。場所を教えてくれればいい」


「わかった。いいだろう」


 ダクアスは神妙に頷いた。



 ◆◇◆◇◆



 例の桟橋からさらに奥へ行く。


 まるで大金庫みたいな分厚い扉を開けると、視界に広がっていたのは金でも食材でもなく、街だった。


 洞窟内だけあって、薄暗い。それでもうまく地上からの光を取り入れているらしく、足元が見えないというわけではなかった。


 ただ換気ができていないらしく、常に煙たい。


 おかげでプリムとリルの鼻が封じられてしまった。


 想像通りの無法地帯ぶりだ。


 雑然と出店が並び、見たことのない食べ物や商品が並んでいる。


 そのほとんどが盗品と思われる傷物ばかりだ。


 中には「鰺」と書いていながら、明らかに鰺ではない青魚が売られていた。


「ここに来ると、地上の商売感覚が狂いますね」


 オリヴィアは肩を竦める。


「あ~ら、色男。うちら遊ばない?」

「兄ちゃん、この肉どう?」

「ごめんね。道を教えてほしいんだけど」

「あんた、今あたしのこと小突いたでしょ。イタタタ……骨が」

「ばあさん、飯はまだかいのぅ」


 ちょっと表通りを歩いただけで、性別が判別できない売春婦に尻をなで回され、どう考えても普通の肉ではない肉を薦められ、スリには5回、当たり屋に2回、その他1回と遭遇した。


 中には賞金がかかった賞金首までたむろしている。


 まさに犯罪者のバーゲンセールだ。


 そんな中……。


「師匠、お腹空いた~」


『ワァウ!』


 うちの食いしん坊どもが騒ぎ始めた。


 正気か、こいつら。


「プリム! ……リルもだが、お前たちわかっているのか? ここは敵地だぞ。もっと言うと、ここの食材は全部曰く付きだ。食べられるものかどうか」


「い~~や~~。食べたい~~! だっておいしそうな匂いするんだもん! た~~べ~~た~~い~~」


『ワァウ!』


 ついにリルと一緒になって、プリムは地面に寝っ転がり、駄々をこねる。


 おい。やめろ。特にリル! ここに来る前にブラッシングしたばかりなんだから! あ! あ! モフモフが! 理想のモフモフが!!


「まあ、いいんじゃないですか? 少しぐらい。お腹が減っては戦さはできないっていうますし」


 オリヴィアは地面に寝っ転がる1人と1匹を見ながら苦笑いを浮かべる。


「しかしだな……」


「何が入っているかはお任せ下さい。わたしのスキルは【鑑定】なので」


 背丈とは対照的に膨らんだ胸を張る。


「今、背丈のことを言いました」


「俺は何も言ってないぞ(ヽヽヽヽヽヽ)


 どうやらこの小さな受付嬢はスキル【鑑定】だけではなく、【読心術】まで習得してるようだ。ただしワードは限られるようだが……。


「まあ、オリヴィアの言うことも一理あるか」


 腹が減っては戦さはできないという考えに賛同だが、この雰囲気に馴染む必要性がある。


 空気に慣れるためにも、食事をするのは悪くない考えだ。


「とは言っても、何を食べていいやら」


 闇市というだけあって、屋台が青空食堂がそこかしこに並んでいる。


 しかも、どれも衛生状態が良いという感じはしない。


 毒になるような食べ物は、オリヴィアの【鑑定】に任せるとしても、どれも入っていそうな気がする。


 少しげっそりしながら、俺は周囲を眺めていると、ふと目に止まった。


 それは若い――といっても、ほとんど子どもと思えるような年齢のシェフが営む青空食堂だった。


 先ほどから周りを見ていて、こういう青空食堂は珍しくない。


 料理人も未成年ばかりだ。


 と言っても、料理の腕が劣っているというわけではない。


 自分の顔よりも大きな鉄鍋を、思いっきり振り回し具材を炒めている。


 炎は腰まで立ち上っていて、熱そうだ。


 額に汗しながら、一心不乱に鍋を振っている。


 小さな料理人が振っているのは『焼き飯』だろう。


 書いて字のごとく、銀米を炒めるわけだが、これがなかなか奥深い。


 大衆料理の1つであり、各家庭に味が存在する。


 そういう意味では薬草汁(カレー)と似ているだろう。


 大きなお玉を手足のように使い、炒めた具材と銀米を皿に丸く盛る。


 料理人の腕はわからないが、見事なものだ。


 しかも、なかなか流行っているらしい。

 考えてもみれば、ここまで来る間、あの炒飯を片手に食べてる連中を何度も見かけた。


 すぐに注文が来て、料理人はまた『焼き飯』を作り始める。


 背徳的といえるほど鉄鍋に油を投入し、火力を上げて熱を入れた。


 そこに鶏卵を鍋の縁で割り、投入。


 油の中に沈んでいった鶏卵は、まるで雲ができあがっていくようにふわふわに広がっていく。


 その卵を炒めたら、野菜を入れた。


 人参に萵苣(レタス)(?)、玉葱。


 さらによくわからない謎肉を投入する。


 黄色に、赤、緑、桃色。お鍋の中は賑やかだ。


 まるでその色を混ぜ合わせるように、鍋を振っていく。


 野菜と卵、肉の香りが鼻を衝き、食欲をそそる。


 トドメは大量の銀米だろう。


 ガツンと鍋に投入すると、鍋の中は白く染まった。


 そこに塩、魚醤、香辛料などで調えていく。


 香辛料のおかげで、さらに香りが強くなった。


 白だった銀米が、飴色に濁り、芳しい匂いが上がる。


 いつの間にか、俺は唾を飲み込んでいた。


 俺だけではない。プリモも、リルも、そしてオリヴィアですら、小さな料理人の腕に見とれていた。


 いや、技術だけではない。


 単純にその『焼きめし』はうまそうだった。


「何でだろう……」


 場所は高級料理店というわけではない。


 屋根もない青空食堂の一角。


 油は多いし、刻みも雑だし、肉に関しては何の肉かわからない。


 だが、鍋の中で振られる具材や銀米は、明らかにパラパラで、1粒1粒が熱が入っていることを確信させるに十分だった。


「何でこういうところの『焼きめし』は美味しそうにみえるんだろうか?」


「さあ?」


 オリヴィアは首を傾げながら、俺たちとともに光を求める蛾のように吸い寄せられるのだった。


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