第11話 元S級ハンター、今さら相棒を紹介する
昨日は大変失礼いたしました(猛省)
「それにしても、薄気味悪いところね。街の郊外にこんな場所があったなんて知らなかったわ」
パメラは鬱蒼と樹木が生い茂る森を見渡す。
人気はなく、初夏を迎えようという季節なのに、冷たい空気が漂っていた。
「近くには古い墓地の跡があるからな。厄介なゴーストが出るから、猟師や野生動物も滅多に入らない場所だ」
「ゴーストって……」
「ああ。ほら、出てきたぞ」
シュル……。
何か絹を裂くような不気味な音が聞こえたかと思えば、地中からゆっくりと半透明の炎が出現した。
「おぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉぉぉぉぉ……」
不気味な声を響かせる。
よく見ると、虹彩のない目と口が見えた。
「キャアアアアアア!!」
「まさかあれって、ゴースト!!」
パメラとオリヴィアが、2人してヒシッと抱き合った。その目には涙が浮かんでいる。
ゴーストの数は、10、20……いや40はいるか。
相当溜まっていたな。
近くに古い墓地があって、ゴーストが溜まりやすい土地ではある。
本来、教会の神官たちが払うのが通例なのだが、おそらく仕事をさぼっていたのだろう。
「ゼレット! 聖水はないの?」
パメラが悲鳴を上げる。
「ない。そんなものは必要ないからな」
俺は自分に必要のない装備は持たない主義だ。
少しでも軽くして移動したいからな。聖水もあれで結構な重量になる。
「1本ぐらい持っておきなさいよ。どうするの?」
「問題ない。リル、頼むぞ」
俺たちの前に出たのは、リルだった。
スッと息を吸い込んだ後――――。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
大きな声を上げて吠えた。
それは空気を震わせ、同時にゴーストの姿が歪む。
パパパパパパパパパパパパパパンンン!!
あちこちで破裂音が響く。
俺たちの周りを飛び回っていた40体以上のゴーストが、一瞬にして消滅してしまった。
先程まで悲鳴を上げて、騒いでいたパメラとオリヴィアは、ミルクを目の前にした幼児のように静かになる。
大きく目を開けて、視界の中から消えたゴーストに驚いている様子だった。
「な――――なんですか、今の?」
「リルの聖属性を声にして放ったんだ」
「聖属性?」
「言ってなかったか? リルは神獣だ」
「し、神獣?? え? うそ? ほ、ほほほほほほ本物ですか?」
リルは神獣と呼ばれる中で、もっとも気高いといわれるフェンリルの子どもだ。
別名アイスドウルフとも呼ばれる種族で、強力な聖属性と水属性を併せ持つ。
成獣ともなれば、半日で世界を横断できるという速度を持ち、触れればあらゆるものが氷漬けにされたという。
成熟したアイスドウルフは山よりも大きく、その怒りに触れたある国は氷漬けにされ、その文明ごと滅んだ、という文献すら存在するほどだ。
故にゴーストを一撃で倒すなど訳ない。例え、リルがまだ神獣として幼いとしてもだ。
「しかも、一番使役が難しそうなフェンリル種なんて。どうやって使役したんですか?」
「使役はしていない。そもそも神獣を使役するなんてほぼ不可能だ。リルは俺の友達だよ。子どもの時から育ててきたから、俺はリルの親でもあるがな」
「し、神獣の出産に立ち合ったんですか? 神獣はとても寿命が長くて、1000年に1度しか子どもを生まないっていうのに」
オリヴィアは大騒ぎする。
まるで俺に挑みかかるように迫り、矢継ぎ早に質問した。
「たまたまだ」
俺は襟を立てて、オリヴィアから視線を離す。
その話になると、少々気まずい記憶に触れなければならない。
俺が顔を伏せると、空気を読んだのかパメラが話題を変える。
「でも、良かったわね。こんなゴーストがうろつくような場所じゃなかったら、もしかしたら人がいたかもしれないし。運が良かったとしか」
「ですね。大惨事になっていたかもしれません。偶然、ここに落ちたから良かったものの」
「偶然? そんな訳ないだろ? ここに落ちるように仕留めたんだ」
「「はあああああああ??」」
パメラとオリヴィアは声を上げる。仲いいな、お前ら。
「嘘でしょ?」
「そもそも聞き忘れていましたが、雲の中の三つ首ワイバーンをどうやって?」
「そうよ。全然見えなかったのに」
「俺には優秀な目と鼻がいる」
後ろで尻尾を振っているリルと、三つ首ワイバーンを見ながら、涎を垂らしているプリムを指差す。
リルは神獣だ。その気になれば、Aランクの魔物でも倒せる実力を持っている。
一方、リルは優秀な猟犬でもある。
身体能力は言うに及ばず、視覚、聴覚、触覚、嗅覚といった感覚が、その辺の使役した動物や魔獣の遥か上を行く。
故に雲の中にいた三つ首ワイバーンが、どこにいるか当てる事ができたのだ。
そのリルの唯一の弱点は、言葉を交わすことができないことだろう。魔物の居場所を、言葉もなしに正確に指し示すことは、容易なことではない。
そういう時、プリムの出番になる。
こいつの目の良さは異常だ。その気になれば、地平の彼方にいる列をなした蟻の数を把握することができる。
残念なのは、その数を当の本人が数えることができないことだろう。
リルが俺の鼻、プリムが俺の目となることによって、俺たちの狩りは完成する。
如何に俺がS級ハンターであろうとも、2人の力なしでは討伐数において、2位以下にダブルスコアを付けて、年間討伐数ナンバー1になることはできなかった。
「すごい……。これがS級ハンターさんなんですね」
「強いことは知ってたけど……。ゼレットってこんなに優秀だったのね」
パメラも驚きを隠せない。
まさか幼馴染みに疑われていたとはな。だが、こうして俺のハントを見せるのは、初めてだから仕方ないことか。
「――――で、このワイバーンをどうしたらいい?」
「とりあえずギルドに運びましょう。今、人手の手配を」
「必要ない。プリム」
「あ~い」
プリムは三つ首ワイバーンのお腹の下に潜り込む。
「よっこいしょ」と割と間延びした声を上げて、三つ首ワイバーンを持ち上げた。
「「ええええええええええええええええええ!!」」
今日1番の声を上げて、2人は驚く。
自分よりも遥かに大きな魔物を、プリムは軽々と担ぎ上げる。
「これ、どこに持っていったら、ごはんが食べられるの?」
質問しながら、その唇からは涎を垂らしていた。
ついに日間総合1位から陥落しましたが、まだ2位!
週間総合9位まできました! 引き続き頑張りますので、
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