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第110話 元S級ハンター、共闘を願う

更新が大幅に遅れて申し訳ない。

活動報告にも書きましたが、体調を崩しておりました。

更新は定期的に続けて行くので、お楽しみに。

 俺はヴィッキーの身体に刺さっていたエスカリボルグの破片を引き抜いた。


「痛っっっつ!! 何をするんだよ!?」


 ヴィッキーは大口を開けて抗議する。


 思ったよりも元気そうだ。回復薬が効いてきたのかもしれない。


「エスカリボルグはアダマンタイトでできていると言っていたな」


「あ、ああ……」


「これはアダマンタイトだが、かなりの粗悪品だ。ほとんどは鉄や銅、亜鉛で構成された合金の塊で、アダマンタイトはおそらく1割程度ぐらいしか含まれていない」


「な、なんだって! 仕入れ先の商人は純度9割だって……」


「たぶん、それは嘘だ」


「長年付き合いがある素材商なんだ。嘘を吐いているとは思えないね。だいたいなんでゼレットが、アダマンタイトの目利きなんてできるんだよ」


「この【砲剣】もアダマンタイト製だからな。本物のアダマンタイトも見ている」


「ホントか? それ!? またあたいを騙そうたって、タダじゃおかないんだぞ」


「この状況で嘘を言って、どうなる?」


「じゃあ、その破片でどうするんだよ」


「こいつを【砲剣】の砲弾に加工して、撃ち出す」


「砲弾に加工する?? どうやって?」


「それはお前が考えろ」


「はっ??」


「お前はドワーフ族だ。俺よりも器用だろうし、俺よりも力がある。アダマンタイトを成形するには、かなりの力が必要だ。だが、ドラゴンキメラの力があったとはいえ、それをバラバラにしたお前の力は役に立つ」


 何よりアダマンタイトを大剣に作り上げたのは、間違いなくヴィッキーだ。


 こいつ以外に、作れるドワーフなどいない。


 俺はそう確信している。


「けどよ。そいつは粗悪品なんだろ? いくら砲弾が作れたからって、あいつの硬い皮膚を貫けると思うか?」


「これは偽物というわけじゃない。アダマンタイトの含有量が低いだけだ。ならば、ここからアダマンタイトだけを精錬すればいい」


「そんなのできるわけがないよ」


「アダマンタイトの融点はいくつか知っているか?」


「え? 確か――――」


 ヴィッキーは考え始める。


 ドワーフ族の中でも落ちこぼれと言っても、ヴィッキーがドワーフ族であることは間違いない。


 それなりの種族なりの教育を受けてきたはずだ。


 特にドワーフ族は金属の性質や知識に強い。


 その融点など、子どもでも知っている。


「亜鉛が約420度、えっと……銅が約1080度、鉄が1536度で、アダマンタイトは…………」


 ヴィッキーの頭から蒸気が上がる。


 すまん。こいつには難しかったかもしれない。天龍がどじょう踊りをしているのを信じるぐらいだからなあ。


「アダマンタイトは3400度だ。その温度になれば、鉄も銅も、亜鉛も全部蒸発する」


「わ、わかってらい、そんなことは! 問題は3400度なんて馬鹿高い熱量をどうやって生み出すかだろ」


「忘れたのか、ヴィッキー。俺の『魔法(ルーン)』を……」


 俺はニヤリと笑う。


 破片を握った手に力を込めた。


 直後、ふわりと炎が浮き上がる。最初は紅蓮に燃えさかっていた炎の色が、徐々に変わり、一際明るく黄色の炎へと変わっていった。


「お前、熱くないのか?」


「『魔法(ルーン)』を持続してる限り、使い手が自分の熱にやられることはない。その対象が発する熱もまた一緒だ。だから――――」


 手と手の間から湯気が出てくる。たちまち辺りに金属臭がたちこめる。


 ヴィッキーに見守れる中、俺は握った手を開いた。


 土の上に転がったのは、真っ赤に溶けた金属だ。俺が握り込む前よりも小さくなっているが、間違いなくアダマンタイトだった。


「これが純粋なアダマンタイト?」


「まだ他にも混じっているだろうが、その通りだ。間違いない。だが、これだけでは足りない。俺はエスカリボルグの破片を集める。ヴィッキー、お前は成形の準備をしてくれ。金床はそこらに転がっているワイバーンキメラの鱗が使えると思う」


「そんな……。あたい、できるかな。大剣だってうまく――――」


「できるかどうかは問題じゃない。ヴィッキー、協力してくれ」



 俺たち2人で奴を仕留めるぞ……。



 俺はヴィッキーの肩に手を置く。


 ヴィッキーの顔を見て、ぐっと睨んだ。


 またしてもヴィッキーは顔を赤らめるものの、ようやくその気になる。


 大きく頷いた。


「うん。やろう、ゼレット……」






 ドラゴンキメラの目を盗みながら、俺たちはそれぞれの作業を始める。


 俺はエスカリボルグの破片を集め、アダマンタイトを精錬していく。この作業は割とすぐに終わった。


 問題はヴィッキーの方だ。


 ワイバーンキメラの鱗を剥がし、地面の上に置く。丸みを帯びて、少々安定性に欠けるが、問題はなさそうだ。


 木の切り株では燃えてしまうし、土の上だと硬さが足りない。その点で、ワイバーンキメラの鱗は良さそうだ。


 俺はドラゴンキメラの行動を見張り、ヴィッキーは金鎚を握る。


 火属性の『魔法(ルーン)』を使い、真っ赤になったアダマンタイトを前にして、1度息を呑む。


「そんなに緊張するな。そいつは、ドワーフ族が扱っているただの金属じゃない。お前の怪力でないと成形できない、この世でもっとも硬いと言われている物質だ」


「わかってるよ。話しかけないで、ゼレット」


 集中――とばかりに、ヴィッキーは大きく深呼吸した。


 やがて目の前のアダマンタイトに焦点を合わせると、携帯用の金鎚を振り上げる。


 乾いた音を立てて、アダマンタイトの塊を【砲剣】の砲口に入るぐらいの大きさへと成形していく。


 だが、状況は一変する。


 その金鎚の音に、ドラゴンキメラが反応したのだ。


 大きな口がこちらを向く。


 俺は【砲剣】を掲げた。


 近づいてくるドラゴンキメラに砲口を向ける。


「ゼレット、【砲剣】の弾丸は効かないんじゃ」


「ふん。奥の手というのは、最後にとって置くものだ」


 直後、【砲剣】が火を噴いた。


 砲弾は迫ってくるドラゴンキメラの眼球へと吸い込まれていく。先にも言ったが、ドラゴンキメラの眼球には、透明な膜があって、それが砲弾の威力を減衰させる原因になっている。


 しかし、俺の狙いはむしろその膜の方なのだ。


 砲弾が着弾する。


 本来であれば、灰色の煙が出るところだが、表れたのは黒い煙だった。


『ぶぼぼぼぼぼおおおおおおおおおお!!』


 ドラゴンキメラは突如、空中でのたうち回った。



 ◆◇◆◇ ヴィッキー side ◆◇◆◇



 集中しろ……。


 ヴィッキーは何度も心の中でお題目のように呟いた。


 いつも携帯しているが、こうやって金鎚を持つのは初めてだ。


 目の前には、赤くなったアダマンタイト。


 これをゼレットが持つ【砲剣】の砲弾へと成形する。勿論、至難の業だ。ベテランのドワーフ族でもアダマンタイトには手を焼く。それほど扱いが難しいのだ。


 硬く、粘りがあり、そもそも鍛造に向いてない。


 ヴィッキーが大剣にして持っていたのも、あれ以上成形することが難しかったからだ。


 そもそも今あるのは、さらに純度を高めたもの……。


(あたいにできるのか……)


 ネガティブな事ばかりが頭に浮かび、ヴィッキーの集中力を掻き乱す。


 しかし、その手が止まることはない。


 ただ一心不乱に、ヴィッキーはアダマンタイトを叩き続けている。そこに魂というものがこめられているのか、自分でもわからない。


 だが、その怪力は間違いなく、アダマンタイトを肉薄しつつあった。


「あれ?」


 ようやく自分でも気付く。


 アダマンタイトに自分の力と技術が通じていることに……。


 ヴィッキーはドワーフ族の中で異端視され、結果鍛冶屋ではなくハンターとなった。


 だけど、最初からハンターを目指していたわけじゃない。


 子どもの頃は真面目に勉強していたし、火床にも、金床にも入ったことがある。


 そして何より鍛冶仕事が嫌いだったわけじゃない。ただそれよりも自分にあっていると思ったからハンターを選んだだけであって、辞めたかったわけじゃない。


 叩けば叩くほど……。


 金属を打ち鳴らす音を聞けば聞くほど……。


 ヴィッキーの中でドワーフ族としての血が騒ぎ出す。


 まるで何か自分の中で忘れていた感覚を思い出すようにヴィッキーは、気が付けば夢中に金鎚を叩いていた。


 そして――――。


「出来た……」


 ヴィッキーはそう言いながら、息を呑む。


 ワイバーンキメラの鱗には、まだ赤く光る1発の砲弾が載っていた。


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