第10話 元S級ハンター、情報を開示する
すみません。第9話と第10話が逆になっていました。
今現在(2021/03/12 21:29)修正しましたので、
改めてご確認下さい。失礼しました!
三つ首ワイバーンが街の郊外に落下した。
鬱蒼と茂る森の中で、俺が仕留めた獲物は、磔にされた罪人のように翼を広げて、倒れている。
やはりピクリともせず、睨まれれば蛙のように居竦んでしまう瞳も、白目を剥き、獰猛な牙が見え隠れする口からは泡を吹いていた。
「三つ首の竜頭……。大きな翼……。三つ首ワイバーンで間違いありません」
同行したオリヴィアが確認する。
本来ギルド職員が現地にまで赴いて、確認することは稀だが、本人たっての希望もあって、現地に同行した。
600万グラもする獲物だ。
何か手違いが起きれば、その責任はギルドが負うことになる。大金がかかってるだけあって、組織としても慎重にならざる得ないのだろう。
「オリヴィアはともかく、なんでパメラまで同行してるんだ?」
「いいじゃない、別に。私、ゼレットのお師匠さんから、お目付役を頼まれてるし。ちゃんと仕事しているか、検分する義務があるのよ」
なんだ、それは……。むしろ逆じゃないのか?
お前が両親に先立たれた時、世話をしたのは俺の方だったはずだが。
まあ、いいか。
「それよりも、あんたよく雲の中の三つ首ワイバーンを仕留めることができたわね」
「その前に、あの雲の中に三つ首ワイバーンがいたことが驚きですよ。三つ首ワイバーンって、目撃情報が少ないから、その生存圏だって不明なのに」
嘘だろ? 三つ首ワイバーンの目撃情報が少ない?
そんなものハンターギルドの情報資料室に問い合わせれば、すぐに出てくるぞ。あ……。でも、ハンターギルドは閉鎖的組織だからな。
基本的に魔物の情報は非公開な物が多いし。商売敵に渡すなんてとんでもない、とハンターギルドのギルマスであるガンゲルが昔喚いていた。
だから、衛兵との連携依頼でも、こちらが持っている情報を信じてくれなかったこともあった。
1度、それでガンゲルともめたが、結局改善されることはなかったのだ。
「信じられないかもしれないが、三つ首ワイバーンの生存圏は空の上にある空だ」
「そ、空の上にある空?」
パメラが首を傾げる。
その横でオリヴィアは冷静に受け止めていた。
「学者さんの間では『宇宙』って呼ばれる場所ですよね」
「ああ。あまりに高い場所だからほとんど視認できない」
「だから、目撃例が皆無なんですね」
そんな場所に生物が生きてるなんて誰も信じないからな。
しかし、この宇宙を住み処にしている魔物は、三つ首ワイバーンだけではなく、結構な数がいる。前に俺が倒した邪炎竜も、その1種だったはずだ。
「そんな三つ首ワイバーンだが、実は地上に降りてくる瞬間がある」
「それってもしかして、人間を襲う時とか?」
パメラは顔を青くしながら、尋ねた。
だが、不正解を告げる言葉は思いも寄らない方向から聞こえてきた。プリムだ。
「ちがうよー、パメラー。おなかが空いたときだよー」
「…………」
「どうしたの?」
氷像のように固まったパメラを見て、プリムは「ふにゃ?」と首を傾げる。
「ごめん。今、私ショックでしばらく立ち直れそうにないわ」
「どういうことだよ、もう!」
プリムは両手を上げて抗議する。
俺も深く頷いた。
わかるぞ。その気持ち……。
「パメラ、残念だがプリムの言うとおりだ。どんな魔物も万能ってわけじゃない。生物であるかぎり、体内に栄養を蓄える必要がある。魔物でいう栄養は魔力だな」
「では、どうして三つ首ワイバーンは雲の中に……」
「あの雲は雷雲だ。三つ首ワイバーンの属性は『雷』。雲の中で発生する雷から魔力を補充していたんだろう」
この世界の生きとし生けるもの――つまり、魔物にも『戦技』か『魔法』が与えられている。
三つ首ワイバーンは総じて『魔法』を与えられ、雷の属性が与えられている。
雷の属性を持つ魔物は他にもいるが、雷から直接魔力を補充できるのは、三つ首ワイバーン以外に10種類程度だろう。
「さすがS級ハンターです。魔物のことにも詳しいんですね。今の情報ですが、料理ギルドの議事録にまとめて、共有させてもらってもいいでしょうか?」
「元だ。……別にかまわん。俺にとってはAランクの情報だが、売れば金になるぞ」
「売るなんてとんでもない!」
オリヴィアは首を振った。
俺は思わずきょとんとしてしまう。
「勿論、無料で全職員に共有させていただきますよ。あのゼレットさん……」
突然、オリヴィアは上目遣いで俺を見つめた。
「なんだ?」
「よろしければ、他のギルドとも今の情報を連携して共有したいと思っています。その……ゼレットさんが折角調べた情報を、余所に流すというのは、理解しがたいことだと思いますが、魔物の被害を減らすためにも……その……」
「――――ッ!」
「はわわわわわ……。そ、そんな怖い顔をしないで下さい。気持ちはわかります。で、でも……今の情報を商人ギルドなんかに流せば、商隊の安全にもつながると思うんです。怪しい雷雲が近づいてきたら、見張りを増やすとか、街の警備の改善につながると思います。だから――――」
オリヴィアは涙目になりながら、訴える。
まさかな。俺と同じ事を考えているヤツがいるとは……。
料理ギルドとハンターギルドは、違うということか。それとも、単純に担当者の考え方の違いか。
俺は無意識のうちに、オリヴィアの頭を撫でていた。
「あ、あの、ゼレットさん? く、くすぐったいですぅ」
オリヴィアは目をつむりながら、唇をムズムズさせて頬を赤らめていた。
背丈こそ小さいが、意外と美人になるかもな。といっても、これで大人なんだろうけど。
「かまわん。お前がそうしたいなら、そうしろ」
「やった! ありがとうございます」
オリヴィアは目の前で小躍りする。
何故か、一緒にプリムも踊っていた。バカだ……。
「あとな。オリヴィア、俺がこれまでハントしてきた魔物の情報は、お前に全部開示する。それをどうするかは、お前の好きにしろ」
「い、いいんですか?」
「俺がやってもいいが、めんどくさい。お前に任せた」
「豪快に他力本願されたような気はしますけど、わかりました! ゼレットさん、これからもよろしくお願いしますね」
改めてオリヴィアは頭を下げるのだった。
ハイファンタジー部門週間ランキング4位に入ってまいりました。
総合はまだまだ先ですが、ひとまず1位目指してがんばります。
気に入っていただけましたら、ブクマと評価の方をよろしくお願いしますm(_ _)m
ちなみに本日拙作『ゼロスキルの料理番』のコミカライズが、
ヤングエースUP様にて最新話が公開されました。
気になる方は、そちらもチェックしてみてくださいね。