第103話 元S級ハンター、ライバルと再会す
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ブクマ、評価いただいた方ありがとうございます。
そして更新が遅れてごめんなさい!
ファウストの森――。
レネー山という200フィットぐらいの山の麓に広がっている森だ。
街にほど近く、魔物もそんなに強くない。初心者の冒険者などが、魔物に慣れるために訪れたり、新兵の訓練などに使われたりする。
さほど警戒する必要はないのだが、シエルが初めて行く森である。
親としては、いい思い出を持って帰って欲しい。
お弁当を食べたり、遊んだりする場所を探すためにも必要と考えた。
「ぬっ! バッファローベアの爪痕だな」
木の幹についた爪の痕を見ながら、目を細める。Cランクの魔物だが、かなり痕が古い。
目新しいものはないところを見ると、巣を変えたか、それとも他の魔物に淘汰されたかのどちらかだろう。
「だが、バッフォローベア以上の魔物となると……」
俺は辺りを見渡す。
おかしい。魔物の気配が少ない。
それどころか野生動物の鳴き声すら聞こえない。今の時期なら、フォレストグーズやバリントンゼーミがうるさいぐらい鳴いてるはずなのに静まっている。
この森の生態について隅から隅まで詳しいわけではないが、ちょっとした異常事態だ。
(まずったな。プリムかリルを連れてくれば良かった……)
シエルの子育てに追われていた時、前にパメラの紹介で声をかけてもらった護衛ギルドから手助けを依頼された。
要人に殺害予告が出ていて、頭数を揃えたかったらしい。
ただ俺はその時、シエルが生まれたばかりで手を離せない状態だった。そこで試しにプリムとリルだけを貸し出したのだ。
はっきり言って不安しかなかったのだが、見事依頼をこなしてしまった。しかも、要人を狙っていた犯人を捕まえたらしい。
そんなこともあって、度々プリムとリルを貸し出している。
特にプリムはずっと俺の弟子というわけには行かない。将来的に独り立ちさせるためにも、護衛ギルドの仕事をなるべく受けさせているのだ。リルはそのお目付役といったところだろう。
まあ、護衛ギルドに出勤する度に、俺はいつも胃が痛い思いをしているのだが……。
というわけで、今回は俺1人だ。
ちょっと変な感覚だ。プリムは後から加わったが、ハントの時はいつもリルがいた。
1人でハントするのは、ハンターになる前、まだシェリルに手ほどきを受けていた以来ではないだろうか。
心細くもあり、懐かしくもありながら、慎重に森の中を探索していく。
「1度、山に登って、全体を見下ろしてみるか」
そう決めた直後、俺は足音を止めた。
もう1度、気配を探るがやはり魔物の姿はない。そう魔物の姿は――だ。
(やれやれ……)
俺は息を大きく吸い込んだ。
「あ! Sランクの天龍がドジョウ踊りをしながら、皿を回してる!!」
「えええええええええええええ!! ど、どこ?? どこおおおおおおお??」
絶叫しながら、木の陰から現れたのは、灰色の髪の少女だった。
「ちょ! どこよ! 天龍がドジョウって、やば! ウケる! くくく……あはははは――――って、どこよ! どこなのよ!?」
少女は大口を開けて、俺の方に振り返る。
好奇心に光った薄紫の瞳には、半目で睨む俺の姿が映っていた。
そこで少女はやっと「嘘」と気付いたらしい。
ここまで反応が良いと、言った俺まで何だか罪悪感に苛まれてしまう。
煤を被ったような褐色の肌が、急激に赤くなっていくのを俺は目撃した。
「ぜ、ゼレット! お前、あたいを騙したなあああああああああああ!!!」
灰色の髪を逆立たせると、引き締まった筋肉のついた両腕を上げて抗議した。
「久しぶりだな、ヴィッキー」
こいつの名前はヴィッキー・ギャンビネット……。
俺と同じS級ハンターで、Sランクの魔物の討伐経験を持つ。まあ、俺の足元にも及ばない数ではあるが……。
しかし、Sランクの魔物を討てるだけでも業界的には神様みたいに見られる(ただし待遇面が劇的に変わるわけではない)。なかなかの凄腕であることは確かだ。
褐色の肌に、灰色の髪というドワーフ族の特徴を色濃く示し、ハンターでありながらうちの弟子並に軽装だ。装備と呼べるものと言えば、手に持った得物に首から提げた宝石ぐらいなものだろう。
そのヴィッキーは早速とばかりに俺に掴みかかってきた。
「久しぶりに会ったライバルに向かって、いきなり嘘を吐きやがって! 相変わらずだな、お前!」
「騙されやすいお前が悪いんだよ」
まあ、ヴィッキーの場合純真すぎるのが問題だがな。
かなりど田舎で育ったのか、人の言うことをすぐに信じてしまうのだ。
「そもそもSランクの魔物の天龍が、ドジョウ踊りをするわけないだろ!」
「…………え? 知らないのか、お前? 天龍がよく晴れた日に雌へのアピールのためにドジョウのように踊るんだぞ」
「え? そ、それは本当なの? う、うそ……しんじ…………」
「お前、S級ハンターにもなって、そんなことを知らなかったのか?」
「い、いや! べ、別にぃ! 知ってたし! 天龍がドジョウみたいに踊ってるの見たことあるしぃ。3回は見たね」
とまあ、嘘を信じ、知ったかぶりまでする痛い奴である。
「そう言えば、お前ハンターギルドをやめて、食材提供者になったそうだな」
「よく知ってるじゃねぇか! 食材提供者になっても、あたいたちはライバルってことだ。今度こそお前よりすっごい獲物を狩ってビックリさせてやるからな」
ライバルって、俺は全然ヴィッキーをライバルと思った事はないんだが……。
どっちかというと……面白い奴? いじり甲斐がある? まあ、ライバルではないことは確かだ。
「ところで、お前なんでこんな所にいるんだ?」
「あっ!? とぼけんなよ、ゼレット!」
ヴィッキーは何故か俺から距離を取る。
薄紫の瞳を鋭く光らせた。
「お前もこの森に来たってことは更新された目撃情報を聞いてやってきたんだろ?」
「目撃情報? 何のことだ?」
いや、本気でわからんのだが……。
「だから、とぼけんな!」
この森にドラゴンキメラの目撃されたって聞いたんだろ……。
「ん? 何? 今、なんて言った?」
「ドラゴンキメラだよ。この森でそれらしき姿が目撃されたって――――お前、まさか知らなかった?」
俺はこくりと頷く。
すると、ヴィッキーの顔から血の気が引いていった。
「お、お前! またあたいをだましたなぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」
再びヴィッキーは絶叫するのだった。