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【コミック発売中】魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~  作者: 延野正行
第6章

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101/222

第101話 元S級ハンター、儲け話を聞く

 商談がまとまり、やる気もでてきたところで俺たちは離れから、パメラたちが待つ個室に戻ってきた。


 各々食後の飲み物を口に付け、世間話に興じる。昔はこういう会話については煩わしく思っていたのだが、家庭というものを持つと自然とその話題になってくる。


 料理ギルドの手厚い補助のおかげで、生活自体は充実しているのだが、それでも困り事は無数に存在する。


 その1つが住宅だ。


「今は『エストローナ』に住んでるのよね~、ゼレットくぅん」


「まあな」


 俺は食後の珈琲を啜る。高級店だけあって、食後の珈琲にまでこだわってるようだ。


 豆も違うが、どうやら焙煎を浅くしてるらしい。珈琲豆が持つ本来の甘味のようなものがでていた。


 頼んだのはホットだが、アイスの方がうまいかもしれない。


「今はいいけどぉ、さすがにパメラちゃんの私室だけでは狭いんじゃな~い?」


 ギルドマスターは手を頬に当てて、心配そうに俺たち家族の方を見つめた。


「ああ。今、それでどうしようか悩んでいる」


 今、『エストローナ』ではどうやって過ごしているかというと、昔俺が使っていた部屋はリル専用の部屋となり、俺はパメラの私室でシエルと一緒に暮らしているような状況だ。


 1階にあって、『エストローナ』の部屋2つ分ぐらいの広さがあり、シエルが小さいこともあって今は問題ない。


 ただシエルが大きくなった時のことを考えると手狭だ。暮らせないわけではないだろうし、実際パメラも両親が亡くなるまでそうしていた。


 ただ住む分にはいいのだが、女の子だけにやはりパーソナルスペースは欲しいところだろう。


 実際、思春期においてはパメラにも葛藤はあったようだ。


「正直、今の稼業をいつまでやれるかわからないしな。だから早めに広い住居に引っ越そうと思ってる」


「つまり『エストローナ』を出ていくってことですか? その場合、経営は……」


 オリヴィアは慎重に質問するが、それでも沈黙が下りた。


『エストローナ』はパメラが両親から受け継いだ思い出深い宿屋だ。この宿を始めたのも、そもそもパメラの両親の夢だったらしい。


 その宿屋から出て行く。


 言い方がきついかもしれないが、それは亡くなった両親への明確な裏切りといえるかもしれない。


 やや暗い空気が落ちる中で、紅茶が入ったカップを皿に戻したのは、そのパメラだった。


「『エストローナ』は……手放そうと考えてるわ」


 パメラはそう口にした。


 俺に5日前に吐露した言葉と1字1句そのままだった。


 違うことがあるとすれば、パメラの顔にあまり悲壮感がないことだろう。


 このパメラの決意は俺も同意している。


 家族で前向きに考えた結果だった。


「私もゼレットも、正直に言うとあまり親にすごく可愛がってもらったって記憶がないの。ゼレットとは違うけど、両親は宿を始めたばかりでとても忙しそうだったし、わがままも言えなかった」


 パメラはそっとシエルの頭の上に手を伸ばす。ゆっくりと柔らかな金髪を撫でた。


 シエル本人は、大好きなバナナジュースにご執心だ。この店のだからさぞおいしいのだろう。飲み干した後も、ジュルジュルと音を鳴らして楽しんでいる。


「だから、シエルにはそんなことをさせたくないかなって。2人で考えて決めたの」


『エストローナ』は満室で現在さほど手がかからないとはいえ、毎朝朝食を用意し、要望があれば部屋の掃除やシーツを取り替えることもある。


 パメラが妊娠した直後ぐらいから、俺も手伝い始めたのだが、これがなかなか重労働で、時間を取る。これに加えて家事と育児となると、やはりどこかで割り切りが必要になる。


 パメラの両親はその中で宿の経営に集中することを選んだ。


 生活して行くためにはお金が必要だし、両親も必死だったのだから、それは仕方ないことだ。


 しかし、パメラは家庭を選んだ。両親とは状況が違うとはいえ、簡単な決断ではなかっただろう。


 ここはパメラの自宅であり、何より死んだ両親の形見でもあるのだから。


「それならば、手放すよりはパメラさんがオーナーになって実務者を雇い入れてはいかがですか?」


 提案したのは、ラフィナだ。


「それってどういうこと?」


「貴族がよくやる手法です。例えば畑を貴族が買ったとします。ですが、貴族に作物を育てるノウハウがないので、実務経験のある農家を雇い入れて、仕事を任せるのです」


「仕事を任せる……?」


「仕事を任せるといっても、経営権などは貴族が持っているので、実務者が勝手に畑を売ることはできません。さらに経営者には利益の何割かが入ってくることになります」


「え? ちょっと待って……。それって――」


「簡単に言うとぉ、不労所得ってことよね~。働かずにお金が入ってくるってことだし~」


「働かずにお金ぇぇぇえええ!!」


 パメラが絶叫する。


 おかげでウトウトしていたシエルがハッと顔を上げて、「何? 何?」と首を振った。


「な、なんか詐欺じゃ……」


「それを言ったら、ほとんどの貴族が詐欺になりますわ。アストワリ家だって、色々な店に名義を貸しているのですから。……それに何か宿屋であった時、最終的に責任を問われるのは経営者ですからね。その責任の重さとして代価をいただくのは当然ですわ」


「そんな方法があるなんて知らなかった」


「貴族がやることですからね。一般市民はなかなか……」


「でも、それって『エストローナ』に魅力がないと無理ってことよね」


「自信がないのですか?」


 ラフィナは半目でパメラを睨む。


「そ、そういうわけじゃないけど……。割と結構うちってボロだし、荒くれ者も多いから……」


「宿屋の魅力って建物だけじゃないのよ~、パメラちゃ~ん」


 ムフフ、とギルマスは笑った。


 パメラはまだわからないようだが、俺には何となく察しがついた。


「つまり経営のしやすさだな」


「はい。ゼレット様の言う通りです」


 ラフィナは静かに頷く。


「『エストローナ』はすでに満床。だから営業にかかる費用が入りません。あとは維持管理だけでしょう。『エストローナ』を大きくしたい、と思う血気盛んな若い経営者志望にとっては魅力はないかもしれませんが……」


「すでに情熱をなくした――例えばリタイアした元経営者にとっては、魅力的に映る」


「はい。彼らは元々経営者ですから帳簿の付け方や税対策もバッチリです。食事や室内の清掃については一考しなければならないでしょうが、実務者を雇い入れるハードルは低いと思います」


「すごい! ラフィナさん、経営者みたい」


「さっきも申し上げましたが、若輩者ですがすでに経営者です。貴族の嗜みみたいなものですから」


 貴族もただ私腹を肥やしているだけではない。


 平民には使えないような莫大なお金を転がして、お金を産んでいる。ただベッドで寝っ転がっているわけではない。


「なんなら、うちで探してみましょうか?」


「いいんですか?」


「昔の誼で、相談料はまけておきましょう」


 ラフィナは不敵に笑う。


「お、お金を取るつもりだったの?」


 パメラはややテーブルに乗り上げながら尋ねると、横のオリヴィアがそっと耳打ちした。


「ラフィナ様は経営のコンサルタントもやっているんです。すでに20社近い赤字商会を黒字にさせた実績があるんですよ」


「ほえ~~~~!」


「そんな大したことはしてませんわ」


 パメラが感心すると、ラフィナはちょっと照れながら手を振るのだった。


また月末か来月頭にコミカライズが更新予定なので、よろしくお願いします。

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